ヰタ・セクスアリス 赤

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エッチナお兄さんは好きですか?


1エッチなお兄さんは好きですか?



裸エプロンプレイ


「……変態」
「……も、もっと」
「変態、変態。これでいいの? 変態」
「や、やだぁ、もっと、ん、奥……っ」

ほんとに、変態。
一体これ、本当にどうなっているんだ。泣きそうだ。
ゆさゆさと腹の上で揺れるのは、なんともトリッキーな裸エプロンの新妻……いや、違う。恋人だ。ちなみに男。
ダイニングのチェアにどっかと俺を座らせて、真っ赤な顔して跨ってきたと思ったら、慣らしもせずに突っ込ませられた。このパターン、一体何回目なんだ……自分で弄っていたとしか言いようのないとろっと溶けた後孔、部屋中に充満するハニーーシロップの香り。発生源はこの人から。
細い腕を俺の首に巻きつけて、深爪気味の爪を立てる。
「アル……気持ちいい」
泣きながら俺の名前を呼んで中の締め付けを強くする恋人に、仕方がないとでもいうように、俺もはぁっと息を吐いた。
休暇、二日目。 早くもこの人に殺されそうだ。



「っあ、あっ、あん、やっ、やだ、やだ……」
「……ちょっと、リズム合わせてよ」
「あ、あ、そ、そこ、気持ちいい………っ」
緑色の瞳をとろっと溶かして、やらしい恋人は高く喘いでゆらゆら揺れる。一人用のダイニングチェアは男二人の体重に耐えきれないとでもいうようにぎしぎし煩い。壊れやしないだろうか。この椅子。
足を踏ん張る所がなくて、アーサーの足はぶらぶらと宙を浮いている。やせっぽちではあるけど、全体重かけてここだけで繋がってちゃ、辛くないかな。
彼の腰を抱えて浮かせたら、アーサーは女の子みたいな高い声を上げて、俺の首根っこにしがみついた。
「ぬ、抜くな、やだ、やだぁ……っ」
嫌だ、イコール肯定。抜かれるのが嫌なんじゃなくて、彼の場合は抜かれる時の方が感じるらしい。身体を浮かせて、ずるっとぎりぎりまで引き抜いて、そのあとぱっと手を離して沈み込ませる。 根元まで突っ込んでぐりぐりと掻き廻してやったら、アーサーは声をあげて俺の背中を引っ掻いた。
「あ、アル、アルぅ……っ!」
「……ほんっとに、元気だよね、君……っ、何でこんな展開になってるんだい。昨日だって、今日の朝だって、ねぇ、ちょっと」
「んっぁ、あぅ、う、ぁ、きもちいい……」
「あーもー」
いい加減、ダイニングチェアの上で腰振られるのが煩わしくなってきた。狭いし、椅子、壊れそうだし。
テーブルの上にある調味料をがちゃがちゃ端に避けて、繋がったままの状態で彼を仰向けに寝かせた。足をがばっと広げさせて、上から圧し掛かる様な格好で腰を叩きつける。アーサーはぼろぼろ泣きながら、「もっと」と言って首を振った。
(な……なんでこんなことに)
はぁっ、と俺も息を吐いて彼の身体の隣に手を突いたら、薄いブルーのエプロンに、ずるっと突いた手が滑った。



ピンクナースに襲われたのが今朝のこと。
あの後結局俺は昼まで眠ってしまって、彼が作ってくれた朝食を食べることができなかった。何度か起こしに来てくれていたのは知ってたんだけど、身体がどうしても限界だった。だって、俺、こっちについたの昨日の夕方だったし……。
『おねがいだから、ちょっと寝かせて』
 そう言う俺に、アーサーは「仕方ねえな」と言って部屋の遮光カーテンを引いてくれた。
 起きたのは、その四時間後。
 時計を見たらお昼の十二時を回っていて、それでゆっくりと身体を起こした。
(時差ぼけになりそう……)
 欠伸をしながらベッドを降りて、裸のままで寝室のカーテンを開ける。いつもロンドンではごきげん斜めのお日様は、今はその顔をよく見せてくれている。珍しく青いロンドンの空の眩しさに一瞬目をしかめて、再度ピローに沈み込んだ。
まだ眠いけど、今寝たら確実に時差ぼけになる。落ちてしまいそうになる瞼をこじ開けて、もう一度起き上がって大きく伸びをした。
(アーサー、どこだろう。下かな)
 朝から起きているのならば、あの人はほとんど一睡もしていないことになる。もともとショートスリーパーな人だとは思っていたけど、こんなに眠らない人だとは知らなかった。
全く、これだから年寄りは……。
ぼやっとした頭でうとうと考えて、落ちそうな瞳で部屋の中を見渡す。散々散らかしてあった部屋はきちんと整頓されている。明け方彼が着ていた、破天荒なナース服も見当たらない。俺が履いていたデニムもきちんと畳まれて、ジャケットはクローゼットの扉に掛けられていた。本当に、元気に几帳面な人だ。
今まで気がつかなかったけど、一階からカチャカチャという音が聞こえる。食器の音だ。昼ご飯の支度かな……そういえば、昨夜も何も食べていない。途端にお腹が減ってきて、俺は一階に行こうと畳まれたデニムとシャツを着た。
寝室の扉を開いた途端に出迎えてくれたのは、限りなく公害に近い、何かが焦げた様な異臭だった。
(…………)
 思わず渋面を作るが、いつものことだ。彼が料理をする時は。
どうしてあの人が料理をすると、こんな匂いになるんだろう……。 不思議に思いながら、階段を降りるにつれてだんだんと濃くなる香りに眉を顰めた。
ダイニングキッチンに続く扉を開けたら、そこは予想以上の大惨事だった。
「……泥棒でも入ったのかい」
 思わず、こんな言葉が出るほどに。
「あっ。起きたか? ねぼすけめ」
「おはよう……なにこれ」
「腹減っただろ。今昼飯作ってるから」
「…………」
……久々にこの人の料理の現場を見たけど、見るたびに腕は上がるどころか、破壊力が増している気がする。以前フランシスが「食材への冒涜だ」と嘆いていた言葉、ああ、まさにその通りだ。
中央のプレートに、真っ黒な炭の塊が見える。蜂蜜とバターが添えられているあたり、あれの元はきっとフレンチトーストかパンケーキなんだろう。
その隣に、大量の油でへたっているハッシュドポテトと、……スクランブルエッグみたいなものがある。スクランブルしすぎじゃないか、あの卵。ついでに電子レンジの中が爆発している。この人、レンジで生卵温めただろ。白い殻があちこちに散乱して、料理の中に突き刺さっている。
(相変わらずだけど、ちっとも進歩してないんだな……)
 久しぶりに会ったけど、本当に。
心の中で溜息と、ほんの少しの笑いが出る。
「コーヒー、今いれるから」
「うん」
自分は飲まないくせに、俺と一緒にいる時のために、彼はこうしてコーヒーを用意してくれている。一緒になったばかりの時は、朝は紅茶かコーヒーかでよく喧嘩していたけど、今ではお互いの好みを尊重して、譲歩し合って、仲良くやる術を身に付けた。
彼が色々頑張ってくれているのは分かるし、俺もなるべくなら彼の好みに合わせたい。別々の人間なんだから、価値観や好みは違って当たり前だ。そうして二人の共通点は増えていく。
――ただ、時々ちょっと彼の嗜好についていけない時があるのは、これは正直に言ってもいいんだろうか。
「一つ聞いてもいいかい」
「うん?」
「……なにそれ?」
後ろでばってんにするタイプの、シンプルなブルーのエプロン。彼のお気に入りのそれは、この家に来るたびによく見ている。俺に料理を振る舞う為にキッチンに立つ時、家の掃除をする時……ああ、そういえば、こんな事に使った事はなかったね。
冷静に働く頭で、頬を赤らめてトングとトーナーを持つ彼を、ゆっくり眺めた。
「あ……あんま、見んなよ、恥ずかしいだろ」
「いや……服着なよ。なんで裸で着けてるんだよ」
「……お、男の夢かと思って」
裸エプロン。
ぽっと頬を染めて内股をもじりとする恋人に、目眩がした。
ああ、熱が出そうだ。色んな意味で。
「……風邪ひくよ?」
そんな、お尻丸出しで。
冷えた口調にならないように気をつけながら伝えたら、彼は恥ずかしそうに目を伏せた。
「お、お前があっためてくれるんだろ……」
「ジーザス、熱ある? 大変だ、昨夜ずっと裸だったから。ごめんよアーサー。寝てきなよ」
「熱はねえよ!」
きぃっと顔を真っ赤にしてアーサーは怒鳴った。
ただでさえ疲れていた腰が、更に砕けそうだ。呆れで。
いつからこんな破天荒なカッコしていたんだ。やけにリビングの暖房がきいているのはその為か。
丈の短い、一応男性用であるエプロンの裾から伸びるのはすらっとした細い脚。腰もとを見れば、丸出しのお尻の上で小さく紐が結ばれている。
貧血でも起こしそうな自分の頭を抑えて、木製のダイニングチェアに腰を下ろした。……と同時に、裸にエプロン一丁の彼が、膝の上に乗り上げてきた。
「……なんだい? ダーリン」
「……く、空気読めよ、ばか」
「この場合、俺の気持ちも読んでもらいたいんだけど」
「え……も、もしかして、このカッコ結構好き、とか……」
「君は本当にどうしようもない馬鹿だな!」
「んだとコラァ!」
すたん! とコーヒーの入ったマグをテーブルに置いて叫んだら、彼も同じ音量で、ダンッとテーブルを叩いて大きく吠えた。
「何のつもりなんだよ。ここってスルーした方が良かったのかい」
「すんなよ! な、なぁ、どうかな」
「どうかなって、何が」
「は、裸エプロン……興奮するか?」
アーサーは俺の身体の上でエプロンの裾を摘まみあげて、頬を赤らめてそう言った。エプロンから覗くのは白い生足。その足の付け根が、エプロン越しにも膨らんでいるのがわかる。
彼は、本当に一人上手の天才だ。自分で裸でエプロンつけて、自分で興奮してちゃ世話ないだろ。気付いたら、勝手に口が動いていた。
「しないよ」
その時の、がんっ! とした彼の顔。この人、俺のこの答え予想してなかったんだろうか。
「な、なんでだよっ、裸エプロンだぞ! 男の夢だろ!」
「タイミングが悪すぎるぞ! 昨日の夜から今日の朝まで、ずっとヤりっぱなしじゃないか。君だって大好きな紅茶を丸一日飲んでたら飽きるだろ?」
「あ……飽きたのか……?」
「……ソーリー、悪かった、訂正するよ。だからそんなに泣きそうな顔をしないでくれ」
さっと顔を青くして絶望的な顔になるアーサーに、慌てて弁解する。ハの字に下がってしまった眉にキスをして抱きしめたら、アーサーは「お前が喜んでくれるかと」と言ってしゅんとした。
……気持ちは有難いんだけど……どうしてこうなるかな。
心の中で目を瞑って、金色の頭を小さく撫でた。
「飽きるわけないだろ。その格好もセクシーだし、可愛いよ。でも、俺もずっと君との愛の行為でもう死にそうで」
「……死にそう?」
「うん」
 顔をあげたアーサーに頷いた。そうしたら彼は更に顔を赤くして、潤んだ瞳をぱちぱちさせた。
「……オレも……何だかんだお前って結構激しいし、オレも、あの、壊れそうになるっていうか……」
「だよね。ごめんよ」
「でも、そこがいいんだ。それくらいが好きなんだ。死にそうなくらい気持ち良くて」
「……ああ、うん」
「……お前もそうなら、嬉しい」
「……アーサー? もしもし?」
俺はいつスイッチを押したんだ。
はあ、と吐かれる息がだんだんと熱くなってくる。アーサーはとろんと蕩けた瞳を俺に合わせて、俺の頬を両手で包んで囁いた。
「なぁ……今オレ、下に何も履いてないんだ」
「知ってるよ!」
彼がどんどん一人で暴走していっているのがわかる。
やばい。スイッチ、スイッチは何処だ。切らなければ。桃色に染まっていく彼の顔と反比例して、恐らく俺の顔色は彼の着ているエプロンと同じ色になっていく。
じょ……冗談じゃないぞ。昨日の夜、今朝、そして今。一体どんな耐久セックスレースなんだ。
俺はこれだけの為にイギリスまで来たわけじゃないんだ。外でデートしたり、お茶でもしながら他愛もない話に花を咲かせたり、家にこもるのならまだクリアしてないゲームだってやりたいし、そうだ、一緒に観ようと思っていたDVDだって沢山持ってきたのに。
俺の考えなんて読む気はないように、アーサーの顔がゆっくりと近づいてくる。がっしと頬を掴まれて、そのまま唇を塞がれた。



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