■フランシスがオカマです。
■ギルベルトが女装してます。
■アントーニョがショタコンです。
■アーサーが最低です。
■特にフランシスとアーサーの扱いが酷いので、どんなものでも笑って御覧になれる方だけお願いします。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
アロー、ボンソワール……アラ、初めて?いらっしゃい。
やーね、男でも女でも大歓迎よ。座って座って。
え?そんな、どっちでもいいじゃない……心は女よ。身体は、まぁ、神様がちょっと間違っちゃったおかげでついたまんまになっちゃってるんだけど。
そりゃ神様だって時々はミスくらいするわよ〜世界に何億何人の人間が居ると思ってんの?
全部一人でやってるなら大変よね……でも性別くらいいじゃない。そんなに大した事じゃないわ。
幸い恋人は居るし、こうしてお店だって開けてるし、理解のあるお客様たちに囲まれてるし、幸せよ。
 
……あら、ごめんなさい。喋りすぎたわね。
名前?ふふ、フランソワよ。
良かったら入ったばかりのワインがあるから、チーズと一緒に……
 
「ッ……あー、くそ、飲み過ぎた……。おい、ヒゲ、何か食う物……」
「……ッ!!ちょ、ちょっと、アーサー!アンタ何てカッコして降りて来てんのよ!!上くらい着てよ!!」
「……あ?何だ、もう店開けてんのか。何でもいいから食いもんくれ。さっぱりするやつ……」
「分かったから、早く部屋に戻って頂戴!もう、ほんとに最悪……、はぁ、もう、ごめんなさいね……アイツ、一応恋人で」
 
……恋人っていうか、何かもう、好き勝手されてるだけの様な気もするんだけど……。
…………いいのよ、いいのよ、アイツだっていつかは目が覚めて、きちんとした仕事に就いて……、そうそう、この間パチンコの景品でこれ取ってきてくれたのよ。
結構性能いいのよ。この電気シェーバー。深ぞリできるの。愛よね。そう思わない?出来たら、ちゃんと永久脱毛したいんだけど、まだ費用がね……。
……やだ、ごめんなさい。アタシったら本当に自分の事ばっかり。
今度は貴方の事聞かせてくれる?
いいのよ、どうせ暇なお店だから。どうせ何か仕事で嫌な事でもあったんでしょ。
今夜はお姉さんと一緒に、飲みましょ。お姉さんて言うか、オカマだけど。まあ、それでもよければね。
 
 
◆◆◆バー・フランソワへようこそ◆◆◆
 
 
「…………赤字だわ…………」
 
モダンなインテリア、取りそろえるのは主にワイン。世界中のビールやウィスキーの品評会にも足を運んで自ら仕入れた、自信のあるものばかり。
お客の入りは上々。初めは女装した色男がやってるバーって事で人気が出て、たまにメディアとかにも取り上げられて……。
女装した男っていうか、心は女なんだけど。
ガチオカマ宣言してから離れて行ったお客さんも居たけど、逆に同じ様な悩みを持つ髭を生やしたお姉さん達も来てくれるようになった。
開店当初よりも、売り上げが下がる筈が無いのよ。
事実売り上げは上がってるのよ……なのになんでこんなに赤字なの。
答えは簡単、出て行くお金が多いからだ。売り上げに比例して上がって行く生活費……主に、お酒代。
煙草を咥えながらパシパシと電卓を叩いている隣で、ふぁっとトランクスのまま欠伸をしている、この、男の。
 
「なー……酒、飲みてぇ」
「……駄目よ。今月も赤字なんだから」
「また?結構人入ってきてんじゃねーかよ。ケチ」
 
パァンッと自慢のブロンドを力任せに引っ叩く、この眉毛の太い男こそ、諸悪の根源……世のだめんず代表。
いつの間にかこうして囲う様になってしまった、3つ年下の恋人のアーサーだ。
煙草くれ、と呑気に手を出す男に、アタシは髪を振り乱して怒鳴りつけた。
 
「アーサー!アンタが毎日毎日お店からお酒持って一人で飲んでるからこうなるんでしょ!いい加減まともな仕事してよ!」
「してんだろーがよ、パチンコ……こないだ勝った分で飯連れていってやっただろ」
「ジョ○サンじゃない!この間はバー○ヤンだったし!どこの学生よ!主婦よ!ファミリーよ!」
「いいじゃねーか。ドリンクバーとかついてるし」
「よくないわよ!もう、アタシだってたまには夜景の見えるレストランでゆっくりワインでも飲んでディナーとかしたいわよ!
 きちんとドレス着て、髪だって爪だって綺麗にして、新しいパンプス買って、それで、それで…… ッ……!」
「お……おい、泣くなよ……お前の身体に合うドレスやらパンプスやら探す方が絶対大変だしよ……。
 だいたいお前、こないだ自分で買ってたマノロのヒール、無理やり履いて一日で破壊したばっかじゃねーか。
 あと胸毛剃れよ。それから髭も青くなってんぞ。一緒に剃れよ」
「アンタが!アタシの稼いだお金を片っぱしから使っていくから!アタシの全身脱毛代とか去勢代とか、アンタの酒代とか、誰が必死こいて毎晩稼いでると思ってんのよ!
 ホルモン注射だって美容室だって新しい下着だって我慢してるのに、たまには恋人らしいことしてよ!せめて食費くらいは入れなさいよ!」
 
キーッ!と涙を流しながらぶんぶん近くにある物を投げつけながら叫んだら、アーサーは明らかに面倒くさそうな顔をして、はぁ、と小さく息を吐いた。
同時にろくに手入れして無い金髪をがりがり掻いた。
 
「あーもーヒステリー起こすなって……あっ、オレちょっと出かけて来るから。少し金くれ」
「……今、お金の話をしてるっていうのに、何言ってんの……?ねぇ、どうせ浮気してんでしょ?知ってるんだから、アタシ、何もかも知ってるんだから」
「いや、まだ話しかけてもねーし。可愛いんだって……お前も絶対気にいるから。財布どこ?」
「もーーーーーーーイヤーーーーーーー!なんなのアンタ、何浮気してます宣言とかしちゃってんの!?バカにしてんの!?バカなの!?
 もうお金持って何処でも好きなトコ行きなさいよ!もう知らない、もうおアタシ知らない!もうイヤ!キライ!
 この身体もこの声も長年慣れ親しんだこのでっかいtnkも何もかもキライ!みんなキライ!わぁああ、ぁあああん!」
「荒れんなってば……生理か?」
「来ないわよ!!もう死んでよ!!」
 
ばぁんっ!とパールピンクのフリルのついたクッションを投げつけたら、アーサーはそのクッションカバーの間から「へそくり見っけ」といそいそとポケットに入れて、
そのまま部屋を後にしてしまった。
…………!見つからない様に、わざわざクッションの中に入れておいたのに……!!!
 
「アタシの……脱毛代……!」
 
神様。どうしてアタシはこんなに不幸なのでしょう。
 
折角綺麗な顔に産んでもらったのに、この立派な体毛も、骨太な身体も、女泣かせと言われた大きなtnkも、
女になりたいと願う俺には、今は妨げにしかなりません。
天は二物を与えずとは言うけれども、この男らしい外見と引き換えに男運が悪くなったとでも言うのでしょうか。
男だけど、女としての幸せを願う事は、そんなにも罪深い事なのでしょうか……。
せめて、幸せな恋愛がしたい。
せめて……あのアーサーの金遣いの荒さと酒癖を直して欲しい。
 
一人、荒れた4畳半の部屋で、アタシは金色の睫毛を濡らして、ひっそりとピンクのベビードールの裾を噛んだ。
 
 
 
 
「……って言う訳なのよ……。ひどいと思わない?アントワーヌ……」
 
暗い店の中で、アタシはクリスタルのロックグラスを傾けながら重たい重たい息を吐いた。
やってらんないわよ、そう言いながら、くるくると自慢のブロンドをスポンジのカーラーに巻きつける。
隣に座っている昔からの友人であるスペイン人のアントニオは、特に興味もなさそうに、それでも「大変やんね」とワイングラスを手に取った。
 
「なんでフランもアーサーなんかと付き合おうとんの。いつからやっけ?」
「……学生の頃からだから、もう5年くらいになるかしらね……アイツだって、昔はアタシにゾッコンだった時期もあったのよ……」
「フランがオカマになったのって」
「2年前くらいかしら」
「……俺思ってたんやけど、付き合ってた男が突然女になったら、びびるんちゃうの」
「もともとその気はあったってアーサーも知ってたから、特に何も言わなかったけど……。
 ……もしかしたら、それかしら。不満なのかしら。オカマなアタシに」
「アーサーってガチゲイやんね」
「…………そうね…………!」
 
一応アタシまだ身体は男だけど……!
ぴちぴちのベビードールを弾けさせそうになりながら、アタシは慌てて席を立った。
恋人は……あの男の腐ったのを寄せ集めた様なアーサーは、女にはちっとも反応しない、生粋のバリウケのゲイだった。
忘れていた、ネコのあいつが好きになるのは、いつもガタイのいい男ばかりだった。
心が女になってもお前が好きだ、と言ってくれたアーサーは、もしやアタシの身体が女になるのがイヤなんじゃ……!?
 
「もしかしたら、この毛も脱毛して欲しくないとか……?だから、アーサーは無理やりそのお金を使って」
「わ〜フラン、めっちゃポジティブ」
「そうよ!そうに決まってるわ……どうしようアントワーヌ、この逞しいtnk、もうアタシいらないのに」
「親分のも捨てたもんじゃないで」
「オレ様だって負けねーぞ!見るか!」
 
カウンターに座って二人で話していたら、奥の部屋からケセーッと笑う男が出てきた。
男が身につけているスケスケシースルーのワンピースは、とっておきの勝負下着だ。
「とてもよく似合っている」と微笑んだら、銀色の髪をした男は「オレ様に似合わねーものなんてねーし」と八重歯を見せて笑った。
 
「今日はありがとうね、ギルベル子。もう上がっていいわよ。あと、tnkは別に見せなくてもいいわ……。
 大事な人の為に取っておきなさい」
「オレ様にもビールくれ」
「ギルもオカマさんになんの?」
「あ?なんだ、オカマって」
 
カウンターに居る身長の高い男は、ギルベルト。
人手不足な時に手伝ってくれるのよね……ほんと、いい奴。いい男。彼女いない歴長いけど。
ありがとう、という言葉に気をよくしたギルベルトは、「いいって」と笑って、キンと冷えたビールを冷蔵庫から取り出した。
銀色の髪に、赤い瞳。真っ白な肌は、本当に着ているフィーバーレッドのシースルーワンピがよく似合う。
ジルベールってちくびの色も薄いのね、羨ましいわ。
そう言って、ほぅ、と息を吐いたら、ギルベルトは「照れるぜ」と笑って、持ってるビールをイッキした。
 
「そういえば、こないだオレ様帰り道でアーサー見掛けたぞ」
「えっ。ど、どこで?何してた?」
「何か、若い男の後つけてた」
「なんですって…………!!!!」
 
途端に怒髪天。
全身の毛が逆立ちそうな程の怒りが毛孔から噴き出す。
持っているピンクのハンカチを噛んで、引きちぎる勢いで引っ張っていたら、隣に座っているアントーニョが「おちついてー」と肩を叩いた。
 
「何かお尻に虫でもくっついてたの教えてあげよーとしてただけかも知れへん」
「浮気よ!!」
「オレ様もそう思うぜ!」
「ギルも空気読もうや」
 
カウンターに肘をひっかけて身を乗り出すギルベルトを、アントーニョが叩いて笑った。
アタシはギリギリと奥歯を噛み締めて、ダンッ!とカウンターの机をぶったたく。
 
「あの男……本当にオカマをなめくさって……!何なのよ、堂々と浮気しておいて、どの面下げて毎晩ここに戻って来てるのよ」
「浮気って決まった訳じゃないやん」
「浮気よ!だって言ってたもの、可愛いくてアタシの気に入る様な奴だって……!キィイ!悔しいッッ!!
 どうせどいつもこいつも若い男にばっか走って、可愛いお尻ばっかおっかけて!年取ったらポイよ、ポイ!
 オカマなんて、いつの時代も消耗品よ、使い捨てよ!なんなのよもう、どうして幸せになれないのよ……!」
 
カウンターについている腕をぶるぶる震わせる。
朝のうちに剃ったばかりだというのに、もう生えてきている腕毛が憎い。
ピンクのベビードールから伸びる、ギリシャ彫刻の様な逞しい大腿筋も、可愛いパンプスを履く事のできない大きな足も。
オカマだって、幸せになってもいいじゃない……。
男にも女にもオカマにも、幸せになる権利は皆平等にある筈でしょう。
高望みをしている訳じゃない、ただ、恋人がお酒とギャンブルと浮気癖を直して、まっとうな仕事に就いてくれればそれでいいのに。
 
「何がいけないの……!こんなに真面目に働いて、あんなに一生懸命尽くしてるのに……。うっ、うっ」
「泣かんでよ、フラン……マスカラとアイラインが落ちてお化けみたいな顔になってまうで……」
「アーサーなんて、身体中の毛を全部眉毛に移植されちゃえばいいのよ……そしたらあそこだってツルツルだから、浮気なんて出来ないのに。
 いっそ、眉毛全部陰毛にになればいいのに」
「陰毛眉毛か。悲惨だな。荒れてんなー今日」
「ホルモン注射なんて打っとるからや」
「あっ、オレ様知ってるぜ。フランシス、お前今日せーりだろ」
「無いっつってんでしょ生理なんて!ジルベールまでアタシを馬鹿にして!!」
 
わぁぁあっとカウンターに突っ伏して泣いたら、悪友二人は少し笑いながら、それでも同情して慰めてくれた。
恋人はどうしようもないバカ男だけど、友達をお客さんには恵まれている。……と、思う。
ああ、幸せって一体何なのかしら……。
アタシの広い肩を両方から撫でながら、二人はわざとらしく溜息をついた。
 
「親分も色々悩んでるんやで……最近ロヴィーノが声変わりとかしてしもうて……。
 ロヴィの成長は嬉しいんやけど、俺、ほら、ちっちゃい子にしか勃たんやん?毎日めっちゃ葛藤やねん」
「オレ様は特にねーけどな……最近弟がよく甘えてきて突然服を剥かれるとか、トイレのドアを開けられるとか、
 ちょっかい出し過ぎると全裸で縛られて引っ叩かれるとかはあるけど、まあ可愛いもんだしな」
「そう……二人とも結構大変なのね……。あとジルベール、お尻には注意しなさいね……」
 
アントーニョの場合は、警察も。
本当、人生って何もかも上手くいかないものね。
三人で小さく息を吐いて、アタシとジルベールはシースルーの寝巻のまま、アントーニョは「だまれ」と書かれたTシャツのまま、
静かに「乾杯」と持っているグラスと瓶をカチンと合わせた。