「・・・っんでテメーはいつもいつもいついつも、オレに恥をかかせるんだ・・・!!!!」
ゆらぁっと陽炎を背負いながらばっきばっきと拳を鳴らすのは、かつて弟と呼んで慈しんだ、可愛いアーサー。
慈しんだ時期は限りなく短く、すぐにグレてしまったこいつにはそのあと何かと文句を付けられ、その度にフルボッコにされてはいたけど。
ねぇねぇ、何でそんなにお兄さんを目の敵にするの?昔はあんなに愛し合ったじゃない!
いっやぁ初めての時のお前ってば可愛くって可愛くって今でもアレ思い出すとちょっとね!アレだね!
あの時に撮ったビデオ、ブルーレイに撮り直そうと思ってるんだけどどう思っ
う?
言いかけた疑問詞は言葉にならず、バーバリーチェックの細いボトムのミラクルキックにお兄さんは声も無く宙を舞う。
キラキラ、あ、妖精さん。
アローお元気?そう言って手を伸ばしてみたら、もう一人の弟分、可愛いマシューに逆関節をキメられて
そのままリアルにコブラツイスト。その後ぶっ倒されて、四の字固め。
痛だだだだだだだだだだだだッッッ!!!!!!!!
ちょっと、ちょっとギブギブギブ!!!!
「ちょ、ちょっとちょっとマシュー!何でこんな技知ってるの!お兄さんプロレスなんて教えてないよ!」
「アルフレッドに教わったんだよ。本場だろ?」
「変な事教わらないで・・・・!!!ムリムリムリ、まじむり!!アーサー止めて!!!」
「おい、代われ。本田にキン肉バスター教わったんだ、かけさせろ」
「あれ本当に死んじゃうから止めて!!!」
こうして、こう。
パントマイムをしながら頭の中でシミュレーションを始めるアーサーに、お願い、やめて、と足を固められながら懇願する。
お兄さんトコもお菊ちゃんに負けじと最近は世界に名前を轟かすオタク文化、キン肉バスターくらいは知ってる。
あんなのは漫画だから出来るものであって、遙か上空からキメられちゃったら間違いなく腰と首の骨折れるでしょ!
ていうよりも、既に足が折れそうなんだけど・・・ついでにベビードール全開で乳首全開でちょっと恥ずかしくて感じちゃうんだけど!
ていうか、あ、やばい、ちょっと、コレ、気持ちよくなってきちゃったんだけど・・・!!
ああんマシュー、もっとぉ!
知らぬうちにセクシーフェロモンだだもれだったらしく、思わず声に出して叫んでしまったら、
マシューは「ぅぅううううぅわぁぁぁあああああっっ!!!!」と悲鳴を上げて足を解いた。
「きっ、気色悪い声出さないで下さいよ、フランシスさんっ!!」
「んまっ失礼!ジルベールもアントワーヌも失礼だったけど、お前も結構大概だね」
「どっちがだ、このリアル変態ストリーキングが!!」
げっしぃっと再度足で蹴っ飛ばされて、ひらひら、ピンクの裾をはためかせて俺は散る。
・・・なんでこんな暴力的な子に育っちゃったのかしら・・・結構気合入れて育てたんだけどなー・・・。
アーサーでの教訓を活かして、今度こそはとマシューにはまた違った教育をしたんだけど、
今度はやけに目立たなくなっちゃったしな・・・それでも一本筋はしっかり通ったいい子なんだけど。
ほら、今もこうしてカミソリを片手に笑ってる。
なぁに、剃毛プレイ?優しくしてくれるなら大歓迎よ、俺のマシュー。
ちょっとわくわくしながらきらりと光るカミソリとにこっと笑う天使みたいな顔を見ていたら、
マシューのその手はむんずとお兄さんのブロンドを引っ掴んだ。
ちょっ、頭!?頭!???
「ま、ま、ま、待って、待って待ってマシュー、髪は、髪は勘弁!!このブロンドにいくら掛かってると・・・・!!」
「出家させませんか、アーサーさん」
「いいなそれ。折角だ、俗世の欲望全部捨ててこい」
「何にもなくなっちゃいそうですけどね」
「待ってぇぇええ」
馬乗りになってお兄さんを固める愛しいアーサー、目の前にはにこにこ笑う、刃物を構える可愛いマシュー。
で、すけすけのベビードールにひもぱん一丁で横たわる俺。
いいな、ちょっと、こんな状況じゃなきゃ一応天国なんだけど!あとエリザちゃんもいれば最強に!
本格的にカミソリをぴたりと首筋に当てられて、んなこと言ってる場合かぁぁぁぁあああああと
火事場のクソ力でアーサーを押しのけ、そのままおぅりゃぁ!と起き上がってアーサーの足を引っ掴んだ。
結局お前がどんなに強くても、そのガリガリの身体じゃお兄さんには勝てないのよ、マシューもね!
やめろ、何すんだばかぁぁぁああ!!
両足をむんずと掴まれて宙に逆さ吊りにされたまま、じたじたと身体を捻って怒鳴るアーサー。
顔がみるみる赤くなっていくのは、血気盛んなパンクの血が逆流してるから。
昔のバカ力は最近アルフレートに骨抜きにされてるから威力は無い。ふっふっふ、恋の力は時に困るね、幸せボケすぎじゃなーい?アーサー。
さぁて、どうしてくれようか。
すけすけのピンクのベビードールとひもぱん一丁でにたりと笑ったら、隣にいたマシューはずざぁっと音を立てて、あとじ去った。
「マ、マシュー!助けろ!!」
「おっとぉマシュー、お前そこから動いてみな?女装した俺とアーサーの濃ゆーいストリップを見る羽目になるよ?
 お前の目の前で腰振って踊ってあげてもいいんだけど」
「や、止めてくださいよぉおお!!卑怯ですよ、アーサーさんを人質に取るなんて・・・!」
よってたかってかよわいお兄さんを苛めて、卑怯はどっちよ!
すぽんとアーサーのルームシューズを脱がせて、剥き出しの足の裏をこしょこしょくすぐる。
やめやめやめやめやめろぉぉおおおおおばかぁぁぁぁああああああああああ!!!
げらげら笑い出したアーサーは、マシューにヘルプ!ヘルプ!!と泣き叫んで、マシューはその度に手を貸そうか貸すまいか悩んで、結局その手を引っ込めていた。
頭のいいマシューは、アーサーが俺の手から逃げた途端に標的が自分になると知っている。
流石はお兄さんの育てた可愛い息子、ついでにアーサーの弟の兄弟。
ついでにアーサーは自分が不利になったらすぐに逃げる奴だからね、その点もよくご存じで!
何も出来ずにぎぎぎと歯を噛むマシューを見ながらひぃひぃ涙を流して身体を捻って泣き笑うアーサーを、今度はドーンと床に落として
上からのしっと圧し掛かる。
笑いすぎて力の出ないアーサーのネクタイを勢い付けて引っこ抜いたら、マシューは途端に顔を蒼白にして、俺とアーサーの間に割って入った。
「や、ややや止めて下さい、フランシスさん!アーサーさんに何かあったら、僕、アルフレッドに殺されます!!!」
「なぁに勘違いしてんのよ、マシュー。俺はただアーサーにも楽しんでもらおうと」
「だっ、誰が楽しむか!どけ!クソ髭!重いんだよ!!」
「まぁまぁ、絶対お前好きだよ、アーサー。ホラホラこれこれ、着てみない?」
ひらひら、先ほどアントン達と散々着せ替えよろしく楽しんだコスプレ衣装をつまみながら、によによアーサーに笑い掛ける。
組み敷いて下に居るアーサーは、一瞬何のことかという顔をした後に、ぶっちと音が鳴りそうな程大きな音を立てて血管を切った。
「誰が着るか!!!テメーと一緒にすんな、離せ、ド変態!!」
「まったまた、好きな癖に!どう、コレなんて。絶対アルも好きだと思うけど」
「えっ・・・」
ぴたり。
じたばたしていた抵抗が止まる。
最後の「えっ」は、マシューの声だ。
あまりにも、あんまりにもアーサーの抵抗が一瞬にして止んだのを、アルと違う色の瞳を丸くしてぽかんと固まる。
対するアーサー、白い顔はたちまちぽぽぽっと桃色になり、緑色の瞳はそわそわ、ちらちら衣装を見つめながら行ったり来たり。
そ、そうかな、そうかな、口を尖らせて独り言みたいに言うアーサーに、勝った、心の中で笑って、もちろん、と小さな身体から足をどける。
「どーう、コレなんて。本格的でしょ?素材もバッチリ本物のだからお前が着たら似合うと思うよ?」
「え・・・そ、そうかな、・・・いや、でも、おいマシュー、アルってどっちが好きかな」
「え・・・?いや、あの・・・」
「着てみる?ハイ。寝室におそろいのガーターあるから、一緒にどうぞ」
「っ、し、仕方ねぇな、着てやるよ!勘違いすんなよ、アルの為じゃなくて、オ、オレの為なんだからな!!」
「メルシー」
ばばっと何着か衣装を持って、真っ赤な顔してアーサーはばったばったと寝室へ消えた。
寝室から聞こえるのは上機嫌な鼻歌、そのあと「なーんちゃってぇ!!」なんて最強にどうしようもないピンク色の自分ツッコミと、ばんばん床を叩く音。
ちょっと、キャラ変わりすぎじゃない?アーサー。
しっかし、ふふふん。ほーら、楽勝。お前がお兄さんに勝とうなんざセックスの人数分早いのよ。
さて、後は・・・。
いまだにぽかんっとアーサーの消えた寝室を見て、口を開いたまんまのマシュー。
俺はすけすけのベビードールのまんま大きく胡坐をかいて、マシューの首に手を巻きつけて、にこりと笑う。
「どう、形勢逆転。お兄さんとアーサーのタッグ対お前一人。あいつの酒癖の悪さは知ってるよねぇ」
 
どん!とテーブルの上に乗せる、とっておきのボルドーのフルボディ。
赤ワイン用のリーデルのグラスは先ほど3人で飲んでた為、おあつらえ向きにぴったり三脚。
今なら仲間に入れてあげるよ?それともどうする、2対1で勝負する?
ちぃん、とグラスを鳴らして、一脚はテーブルに、一脚は自分の右手に、もう一脚を余裕の笑みで差し出して。
エクスキュゼモワ、マドモアゼル。
ばちこーんっと得意のウィンクをして言ってやったら、マシューは 「・・・・拒否権は無いでしょ、この状況じゃ!」と吐き捨てて、
俺の左手からグラスを受け取った。
新愛なる友達はそれぞれの弟と子分に引きずられるようにして帰ったけど、楽しい宴はまだまだ続く。
いやーお酒ってホントに最高だよね!
特に愛する(元)家族と飲む酒は、さらに最高。あー地球に生れてよかったー!フランス!万歳!!
・・・・・・・・ああ、もしもし、アル?僕だよ、マシューだけど・・・ごめんよ、寝てたよね。
いや・・・あのさ、フランシスさんの家までアーサーさんを迎えに来てもらいたいんだけど・・
あの・・・何て言うか、アーサーさん今キャビンアテンダントでちょっと手がつけられないっていうか、え?いや、ふざけてないよ、ほんとだって!
ついでにフランシスさんが股間の薔薇の栽培を始めちゃって・・・だから、ふざけてないってば、ちょっと、寝ないでよ、アルってば!!
・・・・・・・・・・え?僕?いや、僕はいいよ、それでね、
「おーい、紅茶とパイが足りねぇぞ、サボってんじゃねぇぞウェイトレス!!」
「やっぱりマシューは何やっても似合うわね〜」
「ッッだから、アンナミラーズの制服が似合うのなんて西野つかさちゃんくらいですってば!!!」
あ、も、もしもし、もしもし?ハロー?アル?アル?ちょっと、寝ないで、寝ないでってば、迎えに来てよ!!!