「どけ、どーけ、そこっ。寝てんじゃねーぞ、フランシス!」
「・・・何よ、何、なに、なんなの」
「念の為消毒しとくか・・・。おい、さっさとジャケット着てそして出てけ。きちんとタイも締めてけよ」
「なになになに?何でお兄さんの寝てたソファ消毒してんの?」
「病気が伝染ったら困る」
「ひっどい!」
 
喚くフランシスのケツを蹴って、投げっぱなしにしてあるジャケットとタイを纏めて放り投げる。
自分よりも少し大きめのジャケットは、やけに濃厚な甘い匂いの残り香を残してフランシスの頭にばさっと落ちた。
身長は変わんねーのになぁ、どうして、こうも違うんだか。
自分の小さめのブレザーをぴしっと引っ張って、鏡でチェック。タイ、ボタン、カッターシャツに、染み無し。よし。
髪の毛は?何度やってもぱさぱさのぼさぼさ。仕方ない、変にセットするのもおかしいし。
あまり変わらない身だしなみをちゃかちゃか整えながら、後ろでハテナを飛ばすフランシスに、鏡越しに「さっさと出てけ」と無言で睨んだ。
 
「何よ、なんなの、アーサー」
「あッ、てめ、そのカップに触んな、指紋つけんな!」
「なんなの一体、さっきから!」
 
るっせぇな、しのご言わずにとっとと出てけ!!
 
とっておきのティーセットを摘まむフランシスの胸倉を持ち上げてきーきー騒いでたら、ソファの後ろから声が聞こえた。
 
「大好きな子がそろそろお茶を飲みに来るらしいよ、フランシス」
 
不機嫌そうなよく通る声、よく通る声というよりは、でかい声。同じ母国語な筈なのに、イントネーションの違うイングリッシュ。
だらしなく着崩したタイを締めながら、声の主---アルフレッドは、面白くなさそうにぷーと口を尖らせて頭を掻いた。
 
「アル、お前もさっさと自分の教室帰れ。ちゃんとベルト締めて行けよ」
「俺も一緒に君たちのアフターヌーンティに与りたいんだけど」
「なーに、お茶?いーねいーね。お兄さんのカップも出して、アーサー」
「お断りだ!二人とも出てけ!!」
 
うがぁっとテーブルをひっ叩いて、怒鳴って、時計を見る。時刻は15時。
そろそろ最後の授業が終わって、掃除が始まって、で、その後に、待ち人は来てしまう。おそらく、あと一時間もしないうちに。
やべぇ、まだ、菓子の用意もしてないのに。掃除、掃除。資料は全部机の中に仕舞って、家の庭から摘んできた薔薇の花を飾って。
時間がねーんだよ、さっさと出てってくれ、もしくは手伝ってくれ!
ばたばたと散らかった生徒会室を走り回って、近くにいるフランシスとアルフレッドにため息をつかれる。
全くアーサー、何をそんなに意気込んでるんだか。
によによ、面白そうに笑う二人を見て、かちんと頭に血が上った。
 
うるせぇ、ほっとけ、意気込んで悪いか、つうか出てくか手伝うかどっちかしろ。
ずっとずっと見てるだけだった片思いの相手との、初デートなんだ。
学校の生徒会室とは言え、ほぼ私室と化したこの部屋を見て何か思われたら、嫌だろう。
散らかってるとか、窓が汚いとか、その、ソファの下に隠してあるエロ本とか。やべ、あれ、何処に隠そう。
窓は?OK、デスク、これから。あいつらが座ってるソファは後で消毒して、ああ、レストルームも磨かなければ。
花は、好きだろうか。デスクに置かれた花瓶を見て少し考える。
オレの出身の国花の、オールドローズ。パールホワイト、この色で良かったかな。何かあいつには、赤より白のが似合う気がしたから。
大事に育ててるから、気にいってくれたら嬉しい。
男に花なんて、とは、言わない奴だといいな。
ばさっと花瓶に持ってきた花を突っ込んで、軽く整えて、無意識に顔が笑う。
横顔を見たアルフレッドが、「見てごらん、フランシス。あれがデレたアーサー」と笑いながら髭と話しているのが聞こえた。
 
ぐるり。
けらけら、手を叩いて笑うアルに、にやにや薄笑いを浮かべるクソヒゲフランシス。
何か手伝う訳でもなく、出ていく訳でもなく、呑気にオレを観察してる二人を見て、苛々々っと更に頭に血がのぼった。
 
「さっさと出てけっつってんだろ!ただでさえ変な噂流れてんのに、初デートにまで顔出されてたまるか!」
「アラ冷たい。一応噂では公認な俺達ですよ、坊ちゃん」
「何が公認だ、何から何まで非公認だ!」
「何?変な噂って。フランシス」
「おにーさんとアーサーがデキてるって噂。ついでにお前と三つ巴らしいよ」
「うわぁ、強烈。いろいろファンキーだね。何でまたそんな噂が」
 
ぴきり。
こめかみに青筋が立つのがわかる。ないないない!とげらげらに笑う二人を見て、ぴーっと頭に血がのぼる。ああ、限界。
 
最近耳に入る身も蓋もない、大変不名誉な噂は、聞いての通りだ。
オレがこのセクハラクソヒゲとセックスフレンドで、最近では血の繋がってない兄弟の、アルフレッドにまで手を出しているという、
根も葉もない、とんでもない噂。
おかげで風紀委員のローデリヒには「恥を知りなさい!このお馬鹿さんが!!」と毎日怒鳴られる日々。
訂正しても訂正しても下火にならないおかしな噂の原因は、わかってる。
こいつらだ。こいつらが全て。全部悪い。
 
「お前らがいつもここを昼寝の場所に使って、かつそんな気怠く着崩れたカッコで教室に戻ってるからだろうが・・・・!」
 
ドスを効かせた声で唸ってぎとりと睨んでやったら、二人はようやく寝乱れた服を直しなおし、ベルトをかちかちと締め出した。
 
冗談じゃねーぞ、あんな根も葉もない、おかしなデマ。
誰が流し始めたんだか知らないが、もしあいつの耳にでも入ってたら、どうしてくれんだ。
第一期生のオレ達、生徒会長に就任して1年2ヵ月、会長交代が無いのは、上の代が居ないから。
一年の頃から会長という肩書きを持ったまま、気づけばそのままエスカレーター。
今では「カークランド」と呼ばれるよりも「会長」というニックネームの方が通ってる。
好きでやってる訳じゃないけど、嫌いじゃない。トップに立つというのは、悪い気はしない。
仕事は多いし、正直面倒な事の方が遥かに多いけど、面倒な事の方がメインだけど。
結構やりがいはあって、自分は結構、満足してた。最近・・・ここ、一年くらい前までは。
 
「会長って、副会長とデキてるらしいよ」
 
そんな噂が、広まるまでは。
 
毎日生徒会室で密会してるのは、二人でせっせと愛をはぐくんでいるからだとか。
この間ソファを新調したのは、あまりに会長が激しくてスプリングがイカれてしまったからだとか。
いつも生徒会室から出てくる副会長は、服と髪が乱れてやらしい溜息をついてるとか。これは本当。だが、理由が違う。
ただ単に寝起きで(授業サボッて寝てるからだこの不良)ぼやっとしてるだけで、やらしい溜息は元からだ。
万年発情期のこの男の発信するクソフェロモンまでオレの所為にされては、たまらない。
とにかく、爆発的に広まった噂を耳にした時は、頭が沸騰するかと思うくらい。荒れに荒れた。
 
ふざけんなぁ!誰がこいつと、オレが!デキる訳、あるか!!
最初に言い出した奴ツラ見せろ!タイマン張んぞゴルァ!!
 
で、全校生徒の前で大立ち周りした挙句、まぁまぁと特に否定も肯定もしないにやけ顔のフランシスに抑え込まれて
そのままフランシスと大ゲンカになって、噂はますますヒートアップ。
 
まぁまぁ、ちょっと落ち着きなよ、坊ちゃん。お前もちょっとは反論しろよばかぁ!
 
・・・・・・誰が、何処をどうしたら、あれが痴話喧嘩に見えるんだ。勘弁してくれ。
人の噂も75日、反応するだけ面白がって消えなくなるよ?面白そうに笑うフランシスの意見に、それもそうかと頭を冷やして。
そのまま言われるがままにほっといたら、もう手が付けられないくらいに噂は加熱してしまい、いつの間にかオレは
男とのセックスが大好きな、オレといえばエロ、みたいな、そんな象徴にされてしまった。
ついたあだ名は「エロ大使」。流石にこれには泣きたくなった。
第一、オレは童貞だ。
男の名誉にかけても、これだけは噂にはしてもらいたくない。
 
近頃は血の繋がってない入学したばっかの弟、アルフレッドとの噂も火の如く広まってるみたいだし。
具体的な事は皆笑いながら口をつぐんで教えてはくれないが、きっと予想通りの事だろう。
ああ、死にたい。アルも笑ってないで、自慢の大声で片っぱしから訂正しに走ってくれよ。
お前、この学校でガールフレンド出来なくなるぞ。
 
じとっとソファに腰掛ける二人を見ながら、軽く小さく、溜息をつく。
どうしようもない、本当にどうしようもない、おかしな噂だ。オレが、この二人と何かあるなんて、そんな事あってたまる筈ないのに。
「手伝う気ないなら、マジで出てってくれよ」そう言って散らかったデスクを片付けに入ったら、
後ろでアルフレッドの笑い声が聞こえた。
 
「どうしたんだい、本気なの?アーサー。ずっと可愛い可愛い言ってたのは聞いてたけどさ」
「・・・・・・・・・・・」
「そしてところで、その、アーサーの片思いの仔猫ちゃんて、ダレ?」
「君も知ってるんじゃないかな。俺の隣のクラスの、東洋人」
 
本田菊。
そう、アルフレッドが名前を言った時、フランシスが「ああ、」とぴくりと眉を上げたのが見えた。
 
 
 
 
本田菊。
初めて会ったのは、見かけたのは、桜の散る4月の初め。
咲き始めが早かった桜の花は、入学式にはもう満開になっていて、少しの風でもはらはら舞って。
すげぇ、桜吹雪。
入学式での会長挨拶、少し遅れちまうなと思いながら、上を見ながらぼっとしてたら、少し小柄な男にどん、とぶつかった。
 
「ぅわっ」
「えっ」
 
決して体格はいいとは言えない自分よりも、更に低い身長、華奢な身体。
少し大きめの、着慣れてない新品のブレザー。
よろりっとしながらオレを支えるその男は、初めて見るような、黒曜石のきらきらした瞳を持っていた。
さらさらの、絹糸のような黒髪。少し黄味がかった、肌理の細かそうな陶器みたいな肌。
桜色の、小さな唇。
すみません、そう困ったように言う男に、心臓が跳ねた。
 
「すみません、余りに綺麗だったので、見惚れていました」
 
はにかむように、笑う男。黒い瞳を細めて、ふくっとした頬を緩めて、きゅっと口の端をほろこばせて。
目の前ではらはら散るは、ピンク色の花吹雪。柔らかい頬は、花びらと同じ、ピンク色。
性別は、男。だって同じ制服着てるし。何かしら中性的な魅力を持つその男は桜吹雪の中に今にも掻き消えてしまいそうで。
よく見る空想の世界の妖精やら天使やらを、遂に現実の世界でも見るようになってしまったかと錯覚した。
男は繰り返す。きれいですね。
 
余りに綺麗だったので。
見惚れて、しまいました。
 
思わず自然に笑顔が出て、次に、「オレも」と、本当に自然に、口が動いた。
 
 
 
 
「ああ、あの子ね、結構有名よねー、オリエンタルな東洋人。よく目立つ二人と一緒にいるし」
「あれで本人、目立ってないつもりらしいぞ」
「そういやカルプシも可愛いってジュース落としてた。ぼとって。ぼとって、あのいつも眠そうなヤツが」
「だってよ、アーサー。ライバルは多いぞ」
 
はははは!と笑うアルフレッドに、オレはぎっと後ろを振り返って、睨む。
隣に居るフランシスは、相変わらず何を考えているのかわからないにやにや顔で、へぇとか言いながらブロンドを掻きあげてる。
 
うるせぇな、わかってるよ、んなこと。
きゅ、きゅ、とデスクを拭いた水拭きを投げつけて、小さくため息。
後ろの二人はアングロサクソン特有の白い肌、金色の髪、青い瞳。でかい体。あーあ。あいつとは大違いだ。何もかも。オレも。
ただでさえ東洋人ってのはオレらの中で高嶺の花なんだ、あのミステリアスさ、しとやかさ、触ったら壊れてしまそうな、加護欲を掻き立てられる風貌。
外見で人を判断するわけじゃない、でも、生き方や価値観ってのは、外見に出る。特に瞳。
色んな人種の奴らには会ってきた。オレの出身では結構移民も多いから。
それでも、あんな、惹きこまれるような瞳は、見た事無い。
黒い瞳孔の奥は、何を考えて、思っているのかが掴めない。思わず、じっと凝視していたくなる。
二回目に同じ場所で会った時は、実行に移してしまった。もっと見ていたい、あの、瞳。
あの瞳で、オレの事も見てほしい。
 
 
 
どもりながら、精一杯の勇気を振り絞って「今度、一緒に紅茶でも」。震える声で、いっぱいいっぱいで声を出して。
一瞬きょとんとした後に、それでも彼が笑って頷いてくれた時は、腰から下が落ちるくらいうれしかった。
 
「喜んで。カークランド会長」
 
実際その後腰が抜けて、アルフレッドに生徒会室まで引っ張ってもらったんだが。
 
 
 
「ライバルがいよーがいまいが、関係ねーよ。オレは、あいつと仲良くなりてーんだ」
 
再度、花瓶に生けた花を少し整えて、とっとと出てけ、と再度二人にむすっと促す。
下心なしで?とフランシス。当然。お前と一緒にすんな、ばーか。とオレ。
じゃあ、俺らが一緒にお茶をするのもかまわないじゃないか。アフターヌーンティの人数は多い方が楽しいだろ。
あくまでソファを譲らない気まんまんのアルフレッドに、今日の事言うんじゃなかった、とつくづく小さく肩が落ちた。
結局、でっかく育った生意気なこいつと、やけに口の回るクソ髭に、オレは口じゃ勝てないんだ。
ついでに言うと力でも勝てない。
 
あーあ。もう。まぁ、でも、二人きりだと恐らく緊張して何もしゃべれねーし。
最初はこんなもんで、ちょうどいいか・・・
結局、もういいから掃除を手伝ってくれと掃除用具を投げつけて、オレはカップを4人分、用意した。
 
 
 
 
「カークランド会長。こんにちは、あの、本田です」
 
生徒会室の木製の扉越しに、こんこんとノックの音が響いて、大好きな耳触りのいい、少し低めの声が聞こえて。
どきばくびくぅっと跳ねる心臓、鏡の前で髪の毛をちょっと触って、タイが曲ってないか、もう一度チェック。
によによによによ笑うソファの二人に、間違っても変な事言うんじゃねぇぞ、と小さくドスをきかせた声で唸って。
ドアノブを持つ、震える右手を一回ぶんぶん振って、なるべく冷静に、冷静に、落ち着いて、落ち着け、オレ、とどんどん鳴る心臓に
言い聞かせて扉を開いたら、夢にまで出てきた、黒い瞳と目が合った。
 
にこり。彼は笑う。
どきり。心臓は跳ねる。
 
「あの、本日はお招き有難うございます」
「い、いや、こっちも、突然で、」
「いえ、あ・・・今日も、綺麗ですね」
「・・・・は?」
「瞳が」
「・・・・・・・・・・ッッ!」
 
がちぃっと固まるオレに、目の前の東洋人は、はっとした顔をして「す、すみません、つい、」とあわあわおろおろ慌て出す。
それでも固まりの解けないオレに、部屋の中の二人がこらえ切れずに噴き出して、げらげら笑う声が聞こえた。
 
「わっ、笑うな、お前らぁ!!あ、わ、悪い、あの、弟と、同じ生徒会の奴らもいるんだが、構わないか」
「え?はい、もちろん。私も、仲のいいクラスメイトを誘ってしまったのですが、よろしいでしょうか?」
「え?」
 
後ろを見れば、やけにによによ笑うぴょいんと出た髪の毛を持つイタリア人と、やけにばかでかい、金髪碧眼。
こいつしか目に入ってなかったから、気づかなかった。
アルと同じくらい目立ってる、ゲイって噂の、新入生だ。ぱちっと目をしぱたかせて後ろの二人にピントを合わせたら、
鳶色の髪を持った男はヴェー、とわけのわからない発音で笑った。
 
「はじめましてぇ、カークランド会長。フェリシアーノでっす。わー生徒会室ってこんななんだぁ、お邪魔しまーす!」
「本田の友人、ルートヴィヒだ。よろしく頼む」
 
とっととオレを通り越してソファに走る、イタリア国籍。と、ぺこりと頭を下げるドイツ人。で、でけぇ。ついでにすっげぇ、男前。
こら、ヴァルガス!と怒鳴る声は、再度オレに頭を下げて、オレを通り越して中に入った。
オレよりも頭一つ小さな本田は、「すみません」と同じように頭を下げて、困ったように小さく笑う。
 
「嬉しくて、つい、言ってしまいました。ご迷惑でしたか?」
「い、いや、問題ない。オレの方も、あいつら居るし」
「これ、宜しければ。校庭の花が綺麗だったので、園芸部の方に頂いてしまいました」
 
ぱさり、我ながら痩せた腕に渡されるのは、先ほどデスクの上に飾った、同じ種類のイングリッシュ・ローズ。色は白。
あ。思って顔をあげたら、彼は「貴方に似合いそうだったので」と、可愛い顔で殺し文句みたいな気障な台詞を、真っ赤な顔して呟いた。
これ、同じ事フランシスの野郎に言われたら鳥肌立って蹴っ飛ばすのに。恋の力って、偉大だ。あれ?恋?
いや、恋、とかじゃないだろう。いや恋か?わからない。どきどきして、もっとこいつと話したいとは思うけど。
私も中に入ってもよろしいですか、という本田の言葉で覚醒して、もちろん、と焦ってどもって、声が裏返ってしまった。
 
「ようこそ、本田。歓迎する」
 
きぃっと扉を広げて、手を取って。
白魚みたいな真っ白な小さな手に思わずキスを落としそうになった自分を必死で押し留め。
はい、と笑う本田を見て、やはりこれは恋なんじゃないだろうかと、オレも笑った。
 
 
 
 
 
 
「おー、ルイじゃねーか。最近ギル見ないけど、何してんの」
「サボリだ、ただの。貴方からも何か言ってやってくれ」
「なんだい、知りあい?はじめまして。アルフレッド。ねぇ、君のこの髪の毛ってどうなってるんだい」
「やん!引っ張らないで、そこ俺の性感帯!」
 
「・・・お前ら、ちゃんと味わって飲めよ!とっておきの茶葉とカップだぞ!!」
 
ぴかぴかになった生徒会室にげらげら響く、野郎5人の笑い声。と、オレの怒鳴り声。
くすくす笑う本田はオレの前に。何故かオレは、こいつの友人とやらのフェリシアーノとルートヴィヒの間に、
ちょんと小さく納まっている。
予想はつくとは思うが、本田はアルとフランシスの間に。どこまでも、邪魔しやがって、あの二人。
クソ、あのエロ髭、気安くきくちゃんなんて呼んでんじゃねーぞ、そして触るな、セクハラめ!
席替えしてぇなぁと、新歓コンパの男みたいな事を思ってたら、両隣にいる男二人に、耳元でぼそりと呟かれた。
 
 
「・・・華やかな噂は聞いてるよ、せいとかいちょー。菊に手ぇ出したらしょーちしないから、気を付けてね」
「同意見だ。くれぐれも変な気は起こさぬ様に。会長殿」
 
 
オレの目の前の本田には聞こえないほどのボリュームで。
笑いながら、でも瞳はちっとも笑ってない二人の忠告に、改めて前途は多難だと、オレは小さく小さく、溜め息をついた。