「んぉ!わ、笑った!笑ったぞ、ルツ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 
きゃぁ、きゃぁ、あぷ。でー。だぁだぁ。
 
・・・・・・・コレは一体、なんだ。
仕事が終わってくたくたと家に帰ってみてみれば、いつも通りことりのアップリケのついたエプロンを締めた愛しい兄が迎えてくれた。
よぅ、おかえり!疲れたろー、今日はな、腕を奮ってのご馳走だ。
悪ぃけど、コートは自分で脱いでくれ。手が塞がって・・・んぁ?ああ、コレ?
 
かっわいいだろ!借りてきた!
 
普段通りに、少しだけ頬に小麦粉やらをつけた状態で笑う、ギルベルト。
華奢で細い体、ぶかぶかのセーター、身体に比例して細い、白い腕の中には・・・・・・・・
・・・・・・見た事のない、柔らかそうな丸い赤子が抱かれていた。
 
 
 
 
「何を考えているんだ、貴方は!!」
「ぅお。怒っこんなよー、むきむきさん。こいつがびっくりするだろ、ほらほら」
「冗談じゃない、一体何処から攫って来たんだ」
「人聞きの悪い事言うな。預かったんだよ、昔の知人に」
 
コートを引っ掛けて、頬にキスをされて、赤ん坊を抱いた兄に続いてリビングへ向かう。
扉を開ければ、暖炉で暖められた、気持ちの良い温度と湿度。ぱちぱち、はぜる火の音。
広いキッチンの上には作りかけのスープ、グラタン、・・・・ソースパンに入った、哺乳瓶。
奥の方に目をやれば、小さなベビーベッドと、上から吊るされた小さなメリーゴーラウンドのようなものがくるくるくるくる廻ってた。
・・・買ってきたのか。そう聞いてみれば、倉庫の奥から引っ張り出した、と八重歯を見せて彼は笑う。
あぶおぶ言いながら涎を垂らす、地球外生命体のような、ふにゃっとした赤子の口元をセーターで拭きながら、愛しそうに。
あんまりにも愛しそうに赤い目を細めるものだから、何だか。その。
・・・・・・・・・・面白くない。
赤子の可愛さよりも、その赤子が兄の愛情を独り占めしてるように見えて、そんな風に感じる自分に驚いた。
 
「お前もさー、こんなんだったんだぜ?全然ミルクは飲んでくれなくて、わぁぎゃぁ泣きながら暴れてよー」
 
くるくる回るは、ぴんぴろ随分おかしな音を出す、先ほど兄に出所を尋ねた白と水色のメリーゴーラウンド。
廻る馬の下で、赤ん坊は何かを掴みたがるように、宙に向けて手を上げる。
小さな手を、目一杯広げて、きらきら光る瞳をまん丸に開いて。
届かねーぞ、と笑いながら赤ん坊の頭を撫でる兄。
昔はお前もこうだったんだと言われても、覚えてないから何と返せばいいのかわからない。
ただ、そうか、と生返事をしながらにこにこ笑う兄をコーヒー片手に遠くから見詰める。
感じているのは、その手が、瞳が、今自分に向いているのではなく、そのふにゃっとした赤子に向けられているという軽い嫉妬心。
先ほど抱いた感情、確信した黒い気持ち。俺という奴は。こんな、小さな赤ん坊にもやきもちか。
自覚して自嘲して、それでもむっつりと顔が強張る自分に嫌気が差す。
飯は自分で用意するから、と声をかけてキッチンへ踵を返すと、後ろから兄の声が聞こえた。
 
「なぁ、ルツ。ちょっとは撫でたり抱いたりしてやれよ。ほら。ほら」
「遠慮する、協力はするが」
「かわいーぜ?ふにゃふにゃで、柔らかくて、いい匂いがして。ほら、お前、ちょっとむきむきに抱っこしてもらえ」
「ちょっと・・・、兄さん」
 
だぁだぁ、何か異星の言葉を発しながら再度兄の腕に抱かれる赤子、ぷにぷにした頬っぺた、むちむちの手足。
確かに柔らかそうだ、ぷにぷにだ。頭なんて片手で持てそうだし、身体も軽く力を込めれば握りつぶしてしまいそうだ。
蕩けそうな顔で、よしよしと抱きながらリズムを取るギルベルト。
俺は、その腕の中の物体エックスみたいなものよりも、ベッドで貴方を抱き潰したい。
めきめきと腕の中で骨を軋ませる彼を想像・・・妄想?しながら仏長面を崩さずに二人を見ていたら、ほらよ、とぽとりと腕の中に赤子を落とされた。
大きな瞳でこちらを見ながら、きょとんと親指をしゃぶる赤ん坊。
 
・・・・・・・・・・・・・ぬぉ。やわらかい。これは、まずい。潰しそうだ。
 
腕の中に落とされたのは良いもの、どう抱いたら良いのか分からず、俺はそのままかちりと固まる。
 
「おー。いーじゃねーか、結構父親っぽくて。ほら、あかんぼ、ルツだぞ。ルーツ」
「に、兄さん。ちょっと、どう抱けばいいんだ」
「ふっつーに抱けよ、普通に、いつもオレ様にしてるみたいに優しくよ」
「・・・嫌味のつもりか」
 
出来るだけ、持てる力の全てを抜く気持ちで優しく潰さないように細心の注意を払って赤子を抱きながら、じとりと睨む。
兄はケセセっとお約束通りの笑いを見せて、ふさふさと柔らかい、赤子の頭の毛を撫でた。
少し骨ばった、痩せた白い手の甲。
優しく優しく、暖かい顔をして、彼は撫でる。やさしく、やさしく。聞こえるのは、ドイツ語の、子守唄。
聞いたことのない、変わった音色の音。聞いたことがない筈なのに、何故か懐かしいと感じる、音。声。
俺が小さな頃に、こうして彼も歌ってくれていたのだろうか。
愛しそうに顔を綻ばせて、目を瞑って。笑って。
腕の中で何か地球語ではない言葉を発している赤ん坊は、兄の撫でている指を一本取って、小さなその手で、きゅぅっと握った。
俺の親指程の、小さい小さい、作り物のような小さな掌。
いつしか、この掌も大きくなって、きっと何かを掴むのだろう。
俺が小さな小さな赤ん坊の頃、この人は、俺に何を掴ませたかったのだろうか。
人か、武器か。果たして、世界か。
 
自らを冬の国に差し出して、俺を守ってくれたその身体は、俺に何を求めていたのだろう。
兄さん。そう、小さく呟いたら、彼は「何?」と閉じていた目を開けて、歌うのを止めた。
 
「やはり、代わってくれ。俺にはどうも、苦手なようだ」
「何でぇ。かっわいいのに、仕方ねーな。ほら、来い来い」
「・・・慣れてるな」
「おかげさまで」
 
うとうとし始めていた赤子は、俺の手を離れて兄の腕へと渡ると、いよいよ目を瞑って、浅く寝息を立て始めた。
すぅ。あぶ。よしよし、ほら、寝ろ。
とんとんと独特のリズムを刻みながら、細い細い腕で赤子を抱く、その姿。
幸せの縮図のような兄の顔を見て、俺は背中を向けてキッチンへと踵を返す。
ソースパンに入った、ぬるくなった哺乳瓶が、何故だか見てて悲しくなった。
 
 
 
 
「・・・おい、この手はなんだ」
「今日は、イヤだ。あかんぼいるし」
「邪魔だ、この手」
「ヤだっつってんだろ、変態。どけよ、ルツ」
「イヤだ」
 
ぎし。
平均の成人男子の体重よりも軽い彼、重い俺。
大の男が二人で乗るにはいささか小さいベッドは、無理やりに兄を押さえつけることで悲鳴を上げる。
ぎし、ぎし。スプリングよりも買い換えるべきは、常に彼を縛り付けてるベッドレストだろうか。
暴れなければ何もしないのに、いつも外そう外そうともがいて騒ぐから。
やめろ、バカ!てめ、正気か、ふざっけんな、この野郎!
じたばた、通例通りに暴れる彼を押さえつけて、サイドボードの引き出しに入っている、手に馴染む皮紐を取り出す。
縛る角度、関節、どこをどう押さえたら身動きが取れなくなるのかは、長年の経験でよく知ってる。
馬乗りになって、両足で肩を押さえつけて、びんっ!と皮の紐を引っ張って見せたら、兄はざぁっと真っ青に顔色を変えた。
 
「ちょ、ちょっと、本気で嫌だって、おい、ルツ!」
「言っただろう、今日はどうしても、俺がしたいんだ」
「ヤだって・・・ッ!い、痛って、ぇ!おい!」
「暴れてくれて構わない。そっちの方が、興奮する」
 
ぐっと白銀の髪を引っ掴んで、喉を反らせてから細い首に縄を巻きつける。
しゅる、そのまま胸を通して、後ろ手に纏めた両手首へ。じたばたもがけばそのまま首が絞まる。
押さえつけた身体を引っくり返して、腰を高く上げさせて、下着を剥ぎ取って、足首をベッドサイドに縛り付けて。
勢いよく白い尻を叩いたら、彼はヒッと悲鳴を上げて、小さく泣いた。
 
部屋の奥には、先ほど彼が寝かしつけた、すやすや眠る赤ん坊。
守る事が約束された、罪を知らない、真っ白な生き物。
俺たちには決して生み出すことの出来ない、尊い生命。
 
電気が煌々と点く中でちらりと横目だけで確認して、兄の縛り上げられた首の紐を引く。
ひぅ、か細い呼吸で悲鳴を上げた後、兄は「せめて、違う部屋にしてくれ」と、ぼろぼろ涙を零して、言った。
 
 
 
 
預かった赤ん坊、彼の昔の知人というのは、冬の国で出会ったという、女だった。
昔と言っても俺たちにしてみればほんの僅かな時間で、それでも人民にとっては長い長い、成長の時間で。
出会った時はまだ幼かった彼女が結婚をして、子供を産んで。
周りは廻るましく変わっていくのに自分の身体は止まったままだと言う事は、少し寂しいと、彼は言っていた。
特に兄は。きっとこれ以上、変わりはしない。
痩せ衰えていく事はあっても、成長という名前で大きくなるという事は、恐らくこれからも無いだろう。
 
国としての勤めを果たした彼が、ここに留まる理由はなんだろう。
もしかしたら、彼は、ここに居なくても良いのではないだろうか。
俺の側に居ずとも、俺の手から離れて、それこそ、人民のように相手を決めて、連れ添って暮らしたとしても。
何の咎があろう。誰も、責める者など、居ないのではないだろうか。
彼は、もう俺たちとは違う。
役目の終わった、自由な人だ。
 
そう、思ったときに。
翌日、預かっていた赤ん坊を、母親である女性に返す時に。
少し寂しそうに笑う彼を見た時に。
手から何かが滑り落ちていくような、冷えた感覚に、思わず背筋が凍って、震えた。
 
「いい子だったぜー、全然泣かねぇし、よくミルクは飲むし。
 また、預からせてくれよ。あかんぼグッズなら一杯あるからよ!」
 
ははははは!と声を上げて、彼より少し低い位置にある、女性の顔に笑いかける、兄。
年の頃は俺たちと同じくらいだろうか、人間一人産んだとは思えない、華奢な身体つき。
赤子と同じくらいに白い肌、柔らかそうな髪の毛。
有難う、と笑いながら、昨夜兄が抱いていた赤子をその手に抱いて。
最後にもう一度抱っこさせてくれ!と強請る兄に微笑んで、愛しそうに赤子の頭を撫でて。
 
自分はここに居るのに、兄は、自分を見てくれない。
強い者を好み、弱い者を懐に入れたがる、加護欲の強い、兄。
小さく、ふにゃふにゃした、弱い生き物。生命を生み出すことの出来る、強い女性。
自分には、どちらも彼の希望を満たしてやる事は出来ない。
どんなにどんなに頑張っても、彼の理想にはなれない。
小さな赤子を挟んで笑う、一組の男女を見て、急激に胸が締め付けられて、泣きたくなった。
 
 
 
 
「あーあ。行っちまったなー。かわいかったなー、赤ん坊」
 
車で来ている女性に手を振って見送って、彼はちぇっちぇーと陽気に舌打ちして、な、と沈んでる俺に話しかける。
ふざけながら、少し寂しそうな横顔。ちっちゃかったな、こんなんだったな、そんな風に笑いながら、空を抱く真似をして、目を細める。
愛しそうに。俺の知らない顔で、守るものを手に抱く、聖母のように。
俺は怖くなる。知らない彼がここに居る、怖くなって、目の前が暗くなる。兄さん、名前を呼んでも彼はこちらを向いてくれない。
 
そんな顔をして、笑わないでくれ。
愛しそうに、俺以外のものを思い出して、幸せそうに、笑わないでくれ。
怖いんだ。兄さん、貴方が、怖くなって俺はどうにかなってしまう。考えてしまう。考えはループして、回る、回る。
この人が、俺を捨てて、何処かへ行ってしまうのではないかと。
 
兄弟で、男同士で、加えて、人間でもないという俺たちは、この先に、彼との未来に何の希望も抱けない。
世界が二人だけの物であれば、二人だけの世界ならば俺は手放しで受け入れよう。だが、世界は広く、俺たちを囲む周りは限りなく大きい。
彼と一緒に居たい。望めるものであれば、彼の中には、俺以外の人間なんて存在して欲しくない。
嫉妬か、焼き餅か、そんな、可愛い言葉ではない、ただ、ただ、怖い。
気づかせないで欲しい、この人が、俺との不毛な関係に、その未来の暗さに、進んでいる道の、罪の深さに。
神を罵倒して、冒涜して、自分の欲望のままに彼を引き摺り下ろした俺が、今更、それでも、願わずにはいられない。
どうか、この人を連れて行かないで。
彼が願う、他の所へ。俺以外の、暖かい所へ。何を捨ててもいい、彼だけは、俺の元に。
祈っても、祈っても、こんな風に、俺以外に笑顔を向けている彼を見るだけで、心は簡単に悲鳴を上げる。
 
沈んだ面持ちで兄の服をぎゅぅぅぅと掴んだら、彼は「何だぁ?」と笑って、俺を見上げた。
 
「お前も、赤ん坊欲しくなったか」
「・・・いらない。兄さんだけでいい」
「そうか?可愛いぞ、きっと、お前の子供なら。オレにも似るだろうし」
「いらない」
 
貴方以外、いらない。欲しくない。貴方も、俺以外のものなど、欲しがらないでくれ。
小さく声に出して、頭を垂れて言ったら、兄は困ったように眉を落とす。
 
「お前が、誰かと早く幸せになってるのを見てぇんだけどなぁ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「心残りがあるまま、消えるのは嫌だからよ」
 
 
ははっ、と笑う、愛しい顔。
俺によく似た笑い方、彼は俺と一緒に居る時は、いつもこんな笑いをする。
何かを諦めたような、それでも強がるような笑い方。
いつもいつも、この顔を見る度に、俺は胸が痛いんだ。知っているか、兄さん。
俺は胸が痛いんだ。
 
「兄孝行だと思って、頼むぜ。ルツ」
 
胸が痛い。いつかは消えるんだと、どうして俺の前でそんな事が言えるんだ。
兄さん、貴方は、ちゃんと俺を見ているか。俺が、貴方以外の者と幸せになれると、貴方以外の前で笑えると、本気でそう思っているのか。
貴方に恋い焦がれて、苦しんでいる俺を、見ているか。弟としてじゃなく、家族としてじゃなく。国としてじゃなく、個人として。
貴方を大切に思う一人の男として、見ているか。
怖いと感じるのは、いつも一人で自己完結しているこの人の心だ。
何を言っても「お前の望む通りに」、だってオレは、もうきっと消えるから。
最終的にいつも俺を許し、甘えさせてくれる兄の本心が見えない。
何も言ってくれないのが悲しい。不安もあるだろう、心を見せてくれない事が悲しい。彼の強さが悲しい。
愛してるよ、オレのルツ。
俺が言わせてるのか、本心なのか、それすらも、分からなくなる。
俺を愛してくれているのであれば、一人で消えるだなんて、言わないでくれ。
消える時は、俺も一緒に。
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・言える筈は、無いけれど。
 
「・・・俺が幸せに、なれば兄さんは満足か」
「お前、我儘だからなぁ。さっさと相手見つけてくれねーと心配で何処にも行けねーだろ」
「我儘か?」
「わっがままだよ、バカルツ」
 
ケセ、笑う兄に、手を取って、左手を頬に持って行く。
とくとく、左手首から感じる、暖かい脈。まだこの人は、俺の傍にいる。
この人だけいれば、それでいい。俺はそれだけでいい。何度も何度も伝えてるこの言葉を、彼は真正面から受け止めてはくれない。
受け止める訳には行かない、そう思っている事も知っている。
こちらに帰って来てから日に日に薄くなる彼の色素、月日を追うごとに鮮明になる赤い瞳。
血の色の様だ。痩せ細った外見を気にしてか、彼が外を出歩く事は殆ど無い。
どんな姿になっても、俺は、貴方が。
必死に伝えても、彼はいつもの様に笑うだけ。
 
「子供も、伴侶も、いらないんだ。俺は、貴方だけいれば、それでいい」
「・・・だからよぉ」
「兄さんがやってくれ。伴侶も、子供も、友人も、仲間も、親も、兄弟も、恋人も。
 俺が寂しくない様に、兄さんが居なくなったら、俺は一人になってしまう」
「一人じゃないだろ」
「貴方が居ない世界なんて意味が無い」
 
俺の為にこの世界に留まっているのならば、どうか、俺の為に消えないで。
 
顔の近くに持っていた手首に小さくキスを落として、祈るように小さく呟く。その後、笑う。
赤い瞳。とくとく、俺と同じ身体に流れる血、その色と同じ、ルビーの瞳。
彼は一瞬おかしな顔をして、その後すぐに、いつものように八重歯を見せて、笑った。
 
「甘えんぼ」
「何とでも言ってくれ」
 
こちりと額を合わせて、二人同じ顔して、小さく笑って。
その後薄い唇を軽く合わせて、彼はくしゃくしゃと俺の頭を掻き混ぜる。
ほんとに、でっかくなりやがって、そう、先ほど赤ん坊を見ていた瞳と同じ目で、俺の頭を撫でて呟く。
彼にとっては、俺はまだまだ小さな赤ん坊で、我儘で自制の利かないただの子供なのかもしれない。
自分が居ないと、こいつはまだまだ駄目だなぁ、そんな瞳で俺を見て、笑う。
それでもいい、彼が居なければ俺はきっと駄目になる。それが彼の存在理由なら、それで彼がここに居てくれるのならば、理由なんてどうでもいい。
 
可笑しそうに、でも少し寂しそうに、いつもの顔をして笑う彼に俺も笑って、繋いでいた指を解いて、身長差のある頬に軽く添えて。
銀色の髪の毛を掻きわけて、形のいい額に唇を落としたら、彼は「身体だけはでかくなりやがって」と言って、噴き出した。