よう。オレだ、オレ様だ。
あ?ギルベルと様だよ。世界で一番かっこよくてちょっぴりセクシーでこの世の何よりも愛される存在、弟のルートヴィヒの兄貴のギルベルトだ。
そう、オレ様には弟が居てな。
オレ様に似て聡明で、オレ様に似てかっこよくて、オレ様に似て可愛くて素直で強くて優しい男前のドイツ人だ。
何がいいって、全ていい。
顔や声は勿論の事、性格だって真面目で真っ直ぐで正義感に溢れ、曲がった事は大嫌い。
少しカタブツだが、どっかのワインの国の奴みてーに下半身と自分の性欲に真面目で素直な奴よりもいいだろう。
ここだけは今のオレ様と違う点だが、身体つきも素晴らしい。
硬く鍛えた上半身、シックスパックに割れた腹筋、がちりと硬い三角筋、女であれば誰しも見惚れる広背筋、血管の浮き上がる上腕筋。
ここだけの話だが、もちろん持ってるモノもいい。
沈静状態であれだけのもんなら、たいしたもんだ。
合うコンドームを見つけるのには苦心しそうだが、そこは贅沢な悩みってものだろう。
なぁ、ルツ?
酒を飲みながら、兄弟二人でそんな話をして、盛り上がっていた時に。
何と愛しい我が弟は、軽く口ごもって、ばつが悪そうに俺の目を見て、こう言った。
「いや……まだその、恥ずかしい話なのだがそういう経験がないのだ」
「あ?何だよ、ナマかよ?駄目だぜルツ、きちんとそういうのはしねーとよ」
「いや、そこではなく。その。まだ女性とそういう深い仲になった事が無いというか」
「…………あぁ?」
「した事がないのだ」
セックス、というものを。
おお、神よ。
思わず持っているグラスが手から滑り落ちそうになる。
目の前が暗くなって、こちらを見る弟の顔が二つにダブる。
まじかよ、ここでオレが思ったことは、たったひとつ。
世の中の女どもよ、一体何をしているんだ。
こんなにいい男が、20歳にもなって未だにラブリーなチェリーだと?
全く持って見る目が無い、何と、勿体無い事を!!
「兄さん?」
「ちょっと待ってろ、オレ様が何とかしてやる。お前みてーな強くてグッドルッキングなナイスガイが未だに童貞だなんて、そんな世の中があってたまるか!」
がたぁん!と座っていた椅子を倒す勢いで立ち上がると、オレはそのまま着の身着のままタクシーに飛び乗って、携帯電話を片手に国際空港へと車を飛ばした。
「そんな訳だ。ちょっとお前ら協力しろ」
降りた地はフランス、シャルル・ド・ゴール空港のゲートをくぐってから、すぐにタクシーで悪友の家へと向かって走る。
この間からアントンが泊まりに来てる事は知ってんだ。子分にキレられて帰る場所が無い時は、いつもこいつはここに来る。
予想通り酒盛りになってるボヌフォワ家のドアを叩いて開口一番に事の経緯を話したら、二人は頭にハテナを沢山飛ばして首を捻った。
「協力て……」
「お尻貸せって?」
「んな訳あるかこの髭野郎!お前のケツ毛もしゃもしゃの尻なぞルツの前に出せるか」
「んまぁ失礼!お兄さんのお尻の毛ふわふわよ!」
「親分わしゃわしゃやで」
「ケツ毛の話はどーでもいんだよ」
「お前陰毛もないもんね」
「どーでもいーっつてんだろ!!」
ケセーッ!と吼えて、オレは急遽集まってもらった悪友三人の前で地団太を踏む。
「女だ、女!誰か紹介しろ」
「えー。ルーイに?」
「自分で探して貰た方がええんとちゃうの。お膳立てって余計なお世話やんねぇ」
「駄目だ。あいつが変な女に引っかかっても困る。あいつはああ見えて結構押しに弱いんだ。
 いいか、まず胸はでかくなくちゃ絶対駄目だ。
 変な仕事の女も許さねぇ、出来れば年下がいいか……いや、あいつ結構甘えただから年上のがいいか?
 出来れば国籍はドイツがいいかな……文化が同じ方が結婚した時にいいだろーし、いや、待てよ。
 結婚……となると、一人娘は避けたほうがいいかな……婿養子に来てくれって言われても困るしな」
「あのー」
「もしもぉーし」
ぶつぶつ、そうか、結婚か。
ぽわんと浮かぶのは、顔にモザイクの入った弟の嫁と、隣で幸せそうに笑うルツ。
あの弟が結婚か……つうことは、オレ様に妹が出来るって事か。
妹。オレ様に、妹?い、妹!!
「だったら尚更変な嫁じゃ許さねー!」
「落ち着いてジルベール!」
「嫁どころかまだ彼女も居てへんよ!」
「彼女どころか童貞なんでしょ」
「彼女以前の問題やんなぁ」
ドーテイなぁ。
ふぅ、と生暖かい息を吐く悪友二人に、オレ様も意気消沈して続けて息を吐く。
なんとも、むっつり堅物、真面目に手足が生えてるような弟らしいじゃないか。
大方結婚を考えるような相手じゃないと、身体の関係など以ての外だとか何とか思ってるんだろう。
全く愛すべき存在だ。今時貴重だ。否、草食男子がブームの今、流行に乗ってると言えばそうなるのか。
「男は肉食であるべきだと思うんだ」
「同意するけど何やの急に」
「お前、昔から主語抜かして喋る癖あるけど未だにわかんないよ」
不器用な真面目さは、肉親として、兄としては皆に大手を振って自慢したいくらい可愛いあいつのチャームポイントではあるが、
一応身体年齢20歳の男として、果たしてそれはどうなんだ。
身体の機能的に色々と辛い事もあるだろう。
女の身体は柔らかい。いい匂いがして、理由無く、抱きしめれば本能的に安心する。
人の身体を持ってる以上、他の誰かから与えられる安心感や温かみというものは、自然に求めるものではねーんだろうか。
こういうことは教えてやるべき事でも無いから正直オレが心配する事でも無いと言えば、それまでだけど。
あいつがこっそり隠してる、恐らく命の次に大事にしてるマニアックなエロ本コレクション。
童貞の想像力っていうのは、すごいんだ。
しかもそのまま大人になって、あいつの場合、更に身体がむきむき強い。
あんな想像力豊かなままで、夢見るまんまで、これ以上大きくなってみろ。
犯罪に走ってしまいそうで、正直お兄ちゃん心配なんです。
「走らん」
「走んないでしょルイは……」
「わっかんねーだろ、お前ら!童貞舐めんなよ、本気で女の足はツルッツルだと思ってんだぞ、女はトイレには行かねーって思ってんだぞ!」
「それお前やろ」
「朝起きた時の女の顔に髭が生えてた時のオレ様の絶望ったら無かったぜ……女にもチンコ生えるんだな。エリザの言ってたとーりだぜ」
「それって……」
「言わないで、言わないであげてアントワーヌ……!お兄さんさっきから涙が止まらない」
髭の生えた顔を覆って、わっと泣く真似をするフランシス。憐れそうな目でこちらを見るアントーニョ。
何が何だかわからねーが、取り柄会えずオレ様を可哀想な感じにするんじゃねぇ。
まぁ、オレはともかく。そんな訳だ。オレ様の可愛い弟がこれ以上不名誉な現在進行形の記録を更新しないうちに、誰かかわいー女を紹介してやってくれ。
ちなみにオレ様、わかっちゃいると思うが友達いねぇ。
一人楽しすぎる、言っとくが強がりなわけじゃねーぞ。ほんとに楽しいんだよ、友達なんかいらねーよ!
「……そんな訳で、あいつらの女友達の、フランシーちゃんとアン・トニ子ちゃんだ」
「どうも〜フランスィーです」
「ふそそそそー宜しくなぁ」
アントンとフランツに紹介してもらった女二人。
ちょっとガタイはいいけど、まぁこの弟もむきむきだし。
逆にこれだけ体がしっかりしてる方が、元気な子供だって生んでくれるだろう。健康そうだし。
金髪のフランシーちゃんは少し毛深い。だって顎に毛が生えてる。
もしかしたら気にしてるかもしんねーから、言ってねぇけど。オレ様だって女に「毛が薄いですね」なんていわれたらショックだしな!
少し日に焼けた肌が健康的なトニ子ちゃんは西寄りの方言がチャーミングだ。
会ったときからぷすぷす楽しそうに笑ってるし、きっとルツと一緒になったら暖かい家庭を築いてくれるに違いない。
「オレ様の弟を頼むぜ!オレ様に似て、かっこよくてちょっぴりセクシーで可愛いやつだからよ」
そう、八重歯を出して笑ったら、目の前の女二人は何故だか涙を流して爆笑した。
で。ルツに紹介してやったら、こんな反応。
「……何の真似だ。フランシスにアントーニョ」
使い古された言葉ではあるが、まさに苦虫を噛み潰したような表情を作ってルツは唸った。
「はぁ?何言ってんだよ。あいつらの女友達だぜ。お前にぴったりだと思ってよ!感謝しろ」
「……………………」
「何だその顔は!額に手をやるな、失礼だろ!ワリーな二人とも、こいつちょっと照れてるみたいで」
眉間を揉むようにした後に天を仰ぐ弟を見て、オレは頭にポコポコ湯気を立てる。
あんまりコッチ方面の教育はしてやらなかったが、女に対してどういう態度をしたらいいか、いけないか、大人の男ならわかるだろーが。
ほんとにお前は、そうか、だから未だに童貞なんだな。女心のわからん奴め。
パコンとあまり身長差の無い頭を叩いて、後ろに居る女二人に向き直る。
悪い奴じゃないから、嫌いにならないでやってくれ。
そう、銀色の眉毛をちょっと下ろして頼んだら、二人の女は堪え切れないとでも言うように、地面に突っぷしてばんばんと叩いた。
「?どうした、地面に虫でもいんのか?」
「まじで、マジで言ってんのジルベール、ちょっと、俺と結婚して」
「ぁあ?」
「……一体、何なんだ。兄さん、仕事がたまっているんだが」
「だからっ、お前に女を紹介して」
「何で気づかんねや、あほか!」
二人は涙の滲んだ目を擦って、ばっさと長いウィッグを放り投げる。
出てきたのは長年付き合いのある悪友二人。出てきたっつうか、言われてみれば顔が同じだ。騙された!!
「なんだよ、てめーらかよ紛らわしい!」
「お前の鈍さの方が紛らわしいよ!」
「あほや、ほんまにあほの子や!気づいててわざとやってるんかと思っとった」
「もう行っていいか。兄さん」
「待てってば!」
はぁー、とわざとらしくため息をつくでかい弟、わざとなのか、無意識に出てしまっているのかは置いといて。
ちょい待ち、とむんずとセーターを掴んで引き寄せる。
伸びる!と再度怒鳴られても負けてらんねー、だって、ここで引かれる訳にはいかんのだ。
残念ながらオレ様には紹介できるような女の知り合いはいねーし、こいつにだって、居たら今頃童貞の訳は無いだろうし。
こいつらに頼るほかねーんだ、こいつの純潔を奪ってくれるような、素敵な嫁を探すのは!
「どんな女がいいんだ、ルツ!」
「何なんだ一体、さっきから!」
「オレ様はお前に女を作ってやりてーんだよ!」
「いらん気を回すな!」
「じゃねーとお前、一生DTだぞ、そのまま死んだら妖精になっちまうぞ!」   ※DT=DouTeiの略
「大きなお世話だ!!!」
休日という事で、いつもはオールバックに撫で付けてある髪を下ろしてる弟。
ポコポコポコっと湯気を立てて怒る姿は、何ともまぁ愛らしい。
こんなに可愛い弟が一生童貞だなんて、オレ様は兄として、どうにも切ない!兄貴としてどうにかしてやりたいんだ、弟よ。
「心配すんなって、オレが選んだ相手なら間違いない」
「……だから……」
「お前みてーないい男が一人楽しすぎるなんて、そんなことあってたまるか」
肉親である贔屓目なしにしたって、こいつは十分かっこいい。
仕事も出来るし誠実だし、出来るなら幸せになってもらいたい。
オレが帰ってきてからというもの、オレにつきっきりで外にだって遊びに出てないし、こいつが安心して身体を預けられる様な場所を、作ってやりたい。
損得無しに、愛されるって幸せなんだぞ。悲しいかなオレにはそんな場所は、若い時から出来た試しはなかったけど。
いろいろ忙しくてそれ所じゃなかったからよ……でも今は時代も違う。国が個人の幸せを求めたって、いいじゃねーか。
アントンとフランツがによによぷすぷす見守る中、オレは「な」と弟に向かって笑いかける
ルツは一瞬口ごもって、その後もう一度ため息をついて、がりがりと短めの金髪をかき混ぜた。
それでその後、「好いた人が居るんだ」と白状した。
何だ、とオレ様。
そんなら心配ない、こいつに好かれて嫌がる女なんて居るもんか。
心の中でほっと胸を撫で下ろして、その後ばんばんと広い背中を何度も叩く。
何だよ、そう言う事なら、そいう言えよ。今度連れて来い、オレ様の未来の妹に乾杯だ!
そう言って笑って、後ろに居る悪友にも声をかけたら、ルツは「それは無理だ」と形のいい眉を歪ませた。
「何でだよ?オレ様嫁いびりなんてしねーぞ」
「どうしていきなり嫁になるんだ」
「お前に口説かれて落ちない女なんていねーだろ」
「何を馬鹿な事を……」
「あ。まだそーゆー関係じゃねーんだな。ケセセ、お前、オレ様に似てちょっとシャイだからなぁ。、なぁ、どんな女かだけでも聞かせろ」
「……いや、あのな。兄さん」
弟は口ごもる。
後ろに悪友二人の控える中で、弟思いなオレ様は、まさか、と少しぴんとくる。
ずっと童貞を守っていた、オレ様のことが大好きな兄弟思いの弟、たった一人の肉親にも言えない、もしくは、言いにくい事が。
あるとしたら、非常にそれはナイーブな事に違いない。
「……マニアックな趣味なのか?イヌとか……?」
「……兄さん」
「……オレ様、お前の趣味なら口出ししねー。でも、せめて人間であってくれ」
「……分かった、もういい、白状する」
天を仰いで、その後ゆっくりうな垂れる弟、ごくりと鳴るのは自分の喉。
大丈夫だ、ルツ。お兄様はどんな事があっても、お前の味方だ。
ルツは少しだけ躊躇した後に、「俺が好きなのは、兄さんなんだ」と呟いた。
「ずっと好きなのは、兄さんなんだ。
 そういう対象も、兄さん以外考えられないし、いつも頭の中はあられもない兄さんの姿で一杯だ。
 ついでに、持っているエロ本のコレクションも、すべて顔を切り取って兄さんの写真を貼り付けてある。
 貴方の入った後の風呂は興奮しすぎて自分が自分で居られなくなってしまう程だ。残り湯を飲んだ事もある。
 だが、本物の兄さんで脱☆DTする訳にはいかないだろう?
 だから、俺はこのままでいいんだ。貴方以外にはぴくりとも反応しない、自分でも困っている。不便な身体なんだ」
そういう訳だからもう、放っておいてくれ。
はぁ、と少し顔を赤らめて溜息を吐く、いかつい弟。
形の良い眉は少し下がり、何とも切なそうに寄っている。
言ってしまった、そう言いながら、ルツはゆっくり背を向けて、とぼとぼとそのまま歩き出した。
でっかい背中が、何だかとっても、寂しそう。
後ろで笑いを堪えきれなくなってる悪友二人をパァン!パァン!と二度程平手でひっぱたいて、オレはそのまま、でかい身体に向かって走り出した。
「ルツ!」
「ぬぉっ」
「ルツ、お前って奴は!」
「兄さ……兄さん、セーターが伸びる、鼻をかまないでくれ!」
どぉん!とタックルするように背中に圧し掛かって、感動で止まらなくなった涙をすすって、ついでに出てきた鼻をすする。
昔オレが一生懸命編んでやったセーター、穴が空いてものびても縮んでも、こいつは丁寧に直しては、こんな寒い日はいつも着る。
兄さんに包まれているようだ、そう言って、幸せそうに古いセーターを撫でては笑う。
『俺が好きなのは、兄さんなんだ』
愛しい、世界で一番大切な弟に言われて、嬉しくない兄なんて居るんだろうか。
頭の中はいつもオレ様で一杯で、オレの残り湯まで飲んでしまう可愛い弟。
思い返せば、オレのクローゼットからお気に入りのパンツが無くなっていて、それをこいつの部屋から発見したなんて事は何度もあった。
そうか、あれは、このオレ様が好きだったからか。恋をしていたんだな、ルツ!このオレに!
「嬉しいぜ!早く言えよそういう事は!」
「な、何だと」
「世の中で一番大事なお前に愛されるなんて、オレ様超幸せ者の兄貴だぜ」
「に、兄さん、本当か?本当に」
「当たり前だ。これで、晴れて童貞卒業出来るな。オレ様鼻が高いぜ、オレのルッツ」
「童貞卒業……!これで卒業出来るのか……!?」
「ついでにオレ様という恋人もゲットだ!やったなルツ!」
「兄さん!」
「ルツ!」
そのままひしと抱き合うオレ様たち、うおおおおルッツ、超苦しい。背骨が折れちまうぜお前の愛で!
一生懸命育てた息子みたいな弟、血を分けたたった一人の家族、ついでに今日から恋人同士。オレ達は二人で何役もこなせる。
ブラボー、なんて素晴らしい!
可愛い妹も欲しかったけど、こいつが望んでるのがオレ様ならば、それはそっちも大歓迎だ。
だってオレはこいつ以上に大事な奴なんて居ないから、可愛い妹が出来たってそんなに愛情はかけてやれねーかもしれねーしよ。
「オレも愛してるぜ。愛しい兄弟。お前の脱☆DTの手伝いが出来るなら、こんなに嬉しい事はねー」
「兄さん、今日は何て素晴らしい日なんだ。霧が晴れたようだ。貴方の顔が涙の所為で歪んで見える」
「オレ様ぬぐってやるぜ、お前の涙を。きっと明日はもっといい日になるから泣いてる暇なんてねーぞルツ」
「おお兄さん!」
「まずは童貞卒業だ!オレ様精一杯お役目果たすからよ!」
「ああ、いろいろとやりたい事があるんだ。朝まで付き合って貰えるか?ダーリン」
「お安い御用だぜオレのハニー」
そのまま、弟はぐわっとオレの身体を横抱きにして、お姫様ダッコのまま足元軽やかに走り出す。
おいおい、ちょっとこのカッコは恥ずかしいな!まぁお前がやりてーんなら好きにしろ。
一部始終を近くで見ていた悪友二人、アントンとフランツは、ひぃひぃ笑いながら「幸せになれよ!」と大きく両手を振ってくれた。
ああ、言われなくても幸せだ!
だってこのでっかい弟の幸せがオレ様の何よりの幸せだからよ。喜んで受け止めるぜお前の愛!
軽やかな(といっても男二人分の体重が走る訳だから、はたから見れば戦車が特攻しているような姿だが)足取りで家まで走ったルッツは、
幸せそうな顔を崩さず、寝室のベッドにオレの身体を放り投げて、嬉しそうにクローゼットの扉をバァン!と開く。
中から出てきたものは何ともいかがわしい小道具の数々、流石はオレの弟だ。中途半端な事はしねぇ。
最早コレクターの域に達するマニアックな道具たちを片手に、ルツは笑みを崩さずに、オレの身体に乗り上げた。
目が超怖ぇ。童貞って本気で怖いよな。
「止まらなくなったら、気絶するまで殴ってくれ」
「その前にオレが気絶しないように頼むぜ」
「その時は冷水を浴びせて叩き起こす」
「上等だハニー」
これから一体どんな事をされちまうんだか皆目検討はつかないが、それでもこいつの幸せの為なら、オレの身体の一つや二つ。
ああ、オレ様って本当に幸せ者だ。
何たって大事な奴から必要とされてんだもんな。よし、オレ様頑張るぜ。
だから、少しは手加減してくれよ。オレのルツ。
そのままふかふかのベッドの上で、オレ達は笑いながら服を脱いで、かちりと寝室の電気を消した。
「ルツ、おい、無理だ、イヤだ、これは勘弁マジで無理だ!」
「いや、このセックス入門書には大丈夫だと……」
「それ入門書じゃなくて上級者向けのポルノ雑誌だろうが!!ビールジョッキなんて入る訳ねぇだろくそタコ!!」
「だがこのビデオでは」
「これだから童貞はうわうおああああああ無理無理無理無理むりぃいいいいいいい!!!!!」
ああ、さよならオレの尻の穴。
ブラボー、兄弟。それでもオレは、幸せだ。