よく出来た妻が居る。
 
マメで美人で身体は健康、更にオレ様に一途で素直で健気な、正直オレにはちょっと勿体ないんじゃないかと思うくらいの、良い妻だ。
あ?惚気?そりゃそーだ、なんたって花の新婚家庭、まだ子供はいないけど、まぁそのうち。
だってよ、まだまだラブラブなこの新婚生活、子供なんか居たって邪魔で仕方ねーっつの!
二人いれば万事オッケー、マンネリ?ケセセのセーだ、んなもんは枯れた老夫婦の言葉だっつの。
オレらはまだまだハネムーン帰りのらぶらぶ夫婦、ああ、同棲時代をそのまま持ってきた感じだぜ。
世の中の枯れた恋人たちよ、付き合いたてのあの頃を思い出せ。
ちなみにオレ様たちはその頃の仲の良さを10年単位で更新中。
たまには喧嘩もするけれど、基本的に女房が「悪かったから、機嫌を直してくれ」とオレの部屋の扉を叩いて喧嘩終了。
オレが悪い事もあるんじゃないかと、そう言いたいわけだな、その顔は。
ところがどっこい、あんまりオレ様が悪い事はないんだな。
喧嘩の原因は大抵女房の勘違い、オレが外で浮気をしてるんじゃねーかとか、携帯電話でいつも何を更新してるんだとか、
シャツについた口紅は何だとか、まぁアレだ、結構可愛いもんだろ、ハハハハーだ。
実態はただ単に昔っからの悪友たちの悪ふざけとかあいつの壮大な勘違いとか、そんなもん。
だいたいオレ様がお前以外に目移りする訳ねーだろ、このハニー。
あり?おーい、ハニー、ハニー、むきむきハニー。
 
 
ちょっと待っててくれ、呼んでくる。
よいせっと・・・あいっ、て、てててて、腰、腰痛ぇ・・・ ッんぎゃっ!あの、あの野郎、避妊具つけなかったなアノヤロウ!!!
あんにゃろ、待ってろよ、ちょっと旦那としての威厳をだな、クソ、クソッ、・・・た、立てねぇ・・・・・・!!!
 
 
「おいルツ、ルッツ!!このくそハニー!!」
「・・・ああ、兄さん。起き」
「兄さんじゃねぇだろ、アナタって呼べ!!」
「・・・あ、なた、        ・・・・・・・起きたか」
「おう起きたぜ、可愛いお前。テメ、昨日中出ししやがっただろ!」
「貴方が強請るから」
「強請ってねーーーー!!!」
 
だぁん!とテーブルを引っ叩くオレ。衝撃がそのまま腰にきて、ビキリと音を立てて脳髄直撃。
「痛ぇ・・・!」と叫んでへなへな床に突っ伏したら、妻はオレ様のことりのエプロンを翻して走ってきて、「にいさん!」とオレの身体を横抱きにした。
心配そうにオレを抱き上げる妻、どうだ、力持ちだろう、オレの女房は。
お姫様だっこにされながら妻の首に手を回す。相変わらず妻は心配そう。
男前の顔、金色の眉を歪めて、大丈夫か、と小さく囁く。
 
「すまない、昨夜少し強くしすぎたか」
「強くしすぎですよ、絶倫ハニー。旦那様はか弱いんだからもっと手加減しろ、バカルツ」
「兄さ・・・ア、あなたが俺を誘うから」
「オレ様の色香に惑わされただけだっつんなら、オレ様の魅力に免じて許してやろう」
「その通りだ、あなたはとても魅力的だから」
 
笑って、そのまま額にキス。オレもお返しに、目の前にある頬にキス。
ほらみろ、だいたい悪いのはこの妻だ。いや、これに関してはオレ様のありあまるこのかっこよさからくる魅力か?
かっこよすぎるのも困りもんだな、実際リアルに腰が砕けんばかりに痛ぇからよ!
 
「腰が痛いのか?丁度今、掃除が全て済んだ所だ。中国で学んだマッサージでご奉仕しよう、旦那さま」
「お?でもよ、腹減ったろ、オレ様作るぜ、お前の為に」
「いい。貴方の身体の方が大切だ」
「いい妻を持って幸せだぜ、ハニー」
「同感だ、ダーリン」
 
ふふっと笑って、お互いよく似た形の唇にキス。
そのままオレの身体を横抱きにして、むきむきの妻は寝室へ。
ああ、何てよく出来た妻だろう。な?オレ様の女房にしちゃちょっと勿体ねぇだろ、誰にもやらねーけどな!ケセセセセーだ!
 
その後、妻からの愛溢れるマッサージにオレ様のかよわい腰は更に悲鳴を上げる事となる。
うん?予想通り?いつからの予想だよ。オレ様的にはいつ、どの時点でフラグが立ってるのかわかりゃしねぇ。
取り合えず分かるのは、どうしようもなく心も身体もこのでっかい女房に愛されまくってるって事だけだな。
このばかでかく重たい愛情は恐らくオレ様くらいしか受け止めてやれるのはいねぇだろう、それくらいオレの器量はでっけぇんだよ、思い知ったか愚民共。
 
「っあ、あ、アッ、これ、ほんとにマッサージなのかよぉ、ルツ・・・ッ!」
 
・・・って おいこら!
夫婦の営みを覗き見すんじゃねぇ、コノヤロウ!!
シッシッ、これ以上見せねぇぞバーカバーカ!
強いて言えば、こんな風にビデオとかに撮るのは止めて欲しいなとは思うけどなー・・・
いや、単純に、その、恥ずかしいしよ、あんだその顔、やんのかやんならルツが相手になんぞ!
ぁあ?オレ様は残念ながら腰から下がスプラッターだ。
ルーツー!お前、血ィ出るまでやんなっつってんだろーがよ!!
ぷりぷり怒れば、妻はしょんぼりした顔で救急セットを持ってオレの身体を介抱する。
可愛いもんだろ、たまに愛情表現がすぎて飼い主突き飛ばすでっかい犬みたいなもんだと思えば、ほら、オレ様ってでっかい犬も大好きだしよー。
何が好きかって、こいつに似てんだよな、犬って。従順で、頭よくって、賢くて、ほら、こいつみたい。
はは、ルツ、おい、ちょっと、そんなトコまではいいぞ、ひはははっは、舐めんなって、いいよ、舐めなくて、
いや、いいって、いいって、ちょ、おい、おい、おい、落ち着け、オチツケ!!待て!
待て、待てって、ま・・・・
 
アッーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!
 
 
 
 
「・・・ダーリン、飯は今日は俺が作ろう」
「・・・頼むぜ、ハニー」
 
・・・たまにおいたが過ぎるけど、何もかも、オレ様の魅力が強すぎるせい、んでもってこいつがオレ様を好きで好きで仕方がねぇっていう、何とも名誉ある贅沢な悩み。
新婚一年目、相変わらずらぶらぶで仲が良すぎるオレたちではあるがきっとこの先100年はこのまんま。
なんたってオレ様たちはお互いおんなじ血が通ってんだからな、この二人以外いらないし、ありえねーの!
ん?今なんかおかしな事言ったか?ハハハ、うらやましーならそう言えよ、この愚民!
仲良しの秘訣?そうだなー、お互いにいつも誠実で居る事、自分の事よりも相手の事、こんくらいか?
まぁ別に普通の事だよな・・・あいってててて・・・クソ、あんにゃろ、無茶しやがって・・・
 
「おーい、おくさま、オレ様の愛しいオクサマー!旦那様は腰がへばって立てねーぞ!」
「今行く、おい、ダーリン、何故この卵はこんなに焦げるんだ!」
「てめー!フライパンに焦げ目付けたら殴られんのオレだからな、とっとと迎えに来い!!」
 
あともう一つ、この女房は意外に飯を作るのがへたくそだ。
それ以外、今の所不満はねーな。
 
あ、あとかっこよさの秘訣なら企業秘密だ。オレ様がこれ以上かっこよくなっちまったら妻がやきもちやくからな、わりぃな!