じゃら、じゃら。繋がれた鎖が床に当たって音を立てる。アニ銀色ギンイロアタマが、目下メシタれる。
鎖が揺れるたびに繋がっている首輪も揺れて、喉仏に当たると少し苦しい。
縛られている腕を、開放して欲しいと思う。触りたい。その色の薄いプラチナの髪を掴んで、思う様に揺さぶりたい。
必死に息を整えながら名前を呼んだら、小さくと笑われて歯を立てられた。
「ッ、兄、さん」
「ん、む・・・いくとき、言えよ」
「・・・・・・・・・っ、・・・、」
「んん、んー」
ぱちぱちと、暖炉の火がはぜる。
じわりと汗が滲み出てくるのは、暑い位に上がったリビングの室温か、それとも彼の痴態での興奮か。
開いた足の間に四つんばいで蹲るギルベルトの方こそ、犬という形容詞が相応しい。
わざと音を立てて舐め上げられる感触に、足が跳ねる。意地でも声は出さんと唇を噛んで耐えていたら、上を見上げるアメジストの瞳と目が合った。
あの寒い冬の国から帰って来た後、ずいぶん痩せてしまった体、薄くなってしまった色素。
それでもぎらぎら光る赤い瞳は健在で、特にこんな風に情欲に濡れた時は、宝石のように光を反射する。
目を合わせたまま、見せ付けるようにして赤い舌を出して頂をくすぐる彼に、ぞくぞくと背筋が粟立った。
「・・・手、手を、外してくれ。兄さん」
「ダーメだっつってんだろ、ルツ。今日はオレがするんだ」
ちゅぅ、と音を立てて口を外すと、兄は伸び上がって首輪ごしにキスをする。
暖かい口腔の代わりに与えられたのは彼の冷たい掌で、細い指が絡まるのにまた喉が鳴った。
目の前に来たギルベルトは、可愛いなぁと小さく笑うとべろりと俺の眼球を舐める。
尖った舌を涙腺に突っ込まれて、思わず目をぎゅっと瞑ると、彼はもう一度可愛いと耳元で囁いた。
可愛いじゃないだろう、可愛いじゃ。もう昔みたいな子供じゃないんだ。だいたい、こんな格好で、こんな時に。
抗議するようにぐりぐり頭を押したら、いてぇよと言って笑われた。
デニムのボタンを外して、前を寛げて、彼は自分の物も取り出す。
座った自分の上に馬乗りの状態で足を広げる彼は、何とも淫猥な空気を醸し出していて。軽く自分で扱いてから、彼は俺の物と一緒くたに握って
上下に動かし始めた。
ひく、と息が上がる。俺の声ではなく、兄の声だ。
マウントポジションで軽く背筋を反らせて、掠れた声を上げながら彼は細い指を二つの性器に絡ませる。
お互いが同じ性を持つという事を嫌というほど認識させられるこの行為が、彼は好きなようだった。
ルツ、と薄目を開けて、気持ちよさそうに息を吐く。白い顔に生気が宿るように、頬がほの赤く染まっていく。
二人の体の間でぐちゃぐちゃなる音がリビングに響いて、頭が沸騰しそうになった。
くそ、やりたい、突っ込みたい。突っ込んで、噛み付いて、思う存分揺さぶりたい。
ぎしぎしと後ろに縛られた両手を動かすが、流石に自分で選んだ紐だ、きしみはするが千切れる気配は全く無い。
軽く舌打ちして、下からせりあがってくる激情に耐える。だんだんと手の動きはエスカレートしていって、上に乗っているギルベルトは
腰を振りながら高く鳴き始めた。
デニムが邪魔だ。セックスしてる時のような彼の動きに、目の前で自慰をされているような痴態に、目の前が赤くなる。
はぁ、と獣のような息を吐けば、唾液の垂れた唇で噛み付くように唇を塞がれた。
「ッ、ルツ、ルツ、ん、んんん」
「・・・兄さん、入れたい、入れたい。頼む、手を」
「だぁめ」
「兄さん、」
一回イけよ、と耳に舌をつっこまれて、意地でもいくかと頭を振ったら、がぶりと耳を噛まれた。
こんな時、経験値の差は大きいと思う。体位的には自分が上ではあるが、結局イニシアチブを取っているのはいつでもこの兄だ。
それがたまに悔しくて、縛り上げて自分の思うように滅茶苦茶にしても、最後はいつも笑って胸に抱いてくれる。
それでも、最中は彼を翻弄しているのは自分である筈なのに今のこの状況。これで先に達してしまうなど、冗談じゃない。
主導権は俺だ、俺に寄越せ。
ふーふーと荒い息を吐いて目を瞑ると、二つの性器を握っていたギルベルトの手がごそりと動く感触がした。
ふっと軽くなる悦楽に、小さな溜息が出る。
うっすらと目を開けて目の前の兄を見れば、目元を赤らめて、何かを企むように笑っていた。
「ギル・・・」
「今日は、オレが突っ込んでもいいだろ」
妖艶に三日月になる赤紫の瞳に、発せられた言葉に、比喩ではなくぐらりと視界が揺れた。
「ちょ・・・っ待て!待て、待て、兄さん!」
「あんだよ!いい雰囲気だったのに、ぶち壊すな!」
「冗談じゃ・・・、ッ!兄さん!!」
「おらおら、素直になれよ、イヌ」
何処まで冗談なのか本気なのか、否、どこまでも本気なのだろう、この兄は。
座位で向かい合っていた俺の体を押し倒すと、何処にそんな力があるのか、がばっと俺の足を広げて、体の間に押し入ってくる。
素っ裸の体に、彼のデニムの素材がざりざりと伝わる。ついでに、男らしく硬くなった彼の象徴も。
いつもはこちらの役目であるローションを下半身にぶちまけられて、中指をぴたりと尻の間に這わせられて、ぞわぁっと全身に虫が走った。
じょ、冗談じゃない、冗談じゃ!!
確かに愛しい、大切な家族だ。恋人だ。男同士である以上、体を重ねるにはどちらかが負担をしなければならない部分があることも
知っているし、彼にそれを押し付けている事もわかっている。
彼しか知らない俺とは違い、もともとストレートな彼はセックスで女役をしている事にも、不満はあるだろう。それは分かる。
分かるが、それは納得して体を開くという事にはイコールにならない。
腹筋を使って根性で起き上がり、じゃらっと首輪の鎖を鳴らして部屋の隅まで逃げる。
くそ、何であんな甘い雰囲気から、兄から逃げ出さなければならないんだ。しかもこんな格好で。
びん!と鎖が張る限界まで逃げると、ギルベルトは待てコラァ!と怒鳴ってどすどす足を鳴らしてと追って来る。
当然、彼も下半身丸出し臨戦状態のままだ。お互い何とも情けない状態に涙する間もなく、追いつかれたと思ったら
左肩を掴まれて、派手にひっくり返された。
立ったままの状態から突然視界が天井になり、くらくらとカルく頭を廻す。
「へへん、本田に教わってたんだ。柔よく剛を制す、今のオレがお前に勝つにはコレしかねぇと思ってよ!」
綺麗にキマッたチイ外刈りに高らかに笑い、のしっとマウントポジションで圧し掛かるギルベルト。
俺によく似た切れ長の目は爛々と輝いていて、下から見上げると意外に大きな喉仏が見えた。
押し付けられた両肩が痛い。覆いかぶさってくる、やけに熱い体も、呼吸と一緒に上下する胸も。
いつもとは違った声で熱っぽく名前を呼ばれて、柄にもなくびく、と体が跳ねた。
自分の知らない兄を見ているようで、少しだけ好奇心が芽生え始める。抱かれる側ではなく、抱く側の、兄。
どんな顔をして腰を振るのか、遂情するのか、興味が無いわけでは、もちろん無い。
「いいだろ、オレだってたまには突っ込みてぇもん。童貞も処女も、オレがもらってやるよ、ルツ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「出来るだけ優しくしてやるよ。可愛いオレの犬」
ちゅぅぅぅと音を立てて、吸い上げるように髪の生え際にキスを落とされた。
こうやって、自分とこんな関係になる前までは、女を抱いていたんだろうか。
強い者と快楽が何よりも好きな人だから、もしかしたら女だけではないかもしれないけど。
まだ逞しかったその両手で体を弄って、切ない息を吐いて、熱に浮かされたように名前を呼んで。
達する時だけに見せる、赤く光る目に涙を浮いた表情を、他の相手にも見せていたんだろうか。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「っぉお?な、何だ、何だよ」
突然急激にやるせなくなって、反動をつけて、腹に乗ってる兄ごと一気に起き上がった。
ころんと転がるギルベルトは、往生際の悪い奴めと唸って、再度腹の上にのし上がる。
興味が無い訳ではない。抱かれる事に、ではなく、この兄がどんな風に俺を抱くのか。
一緒になってからまだ一世紀も経っていない。この人を語るには俺はまだ知らない事の方が遥かに多い。
愛している彼がしたいと言うならば、反論する事は何一つない。抱きたいというならば、抱かせてやろう。
ただーーーーーーーーーーーーー思いを行動で示すには、俺はまだ幼すぎた。
ぱき、ぽき、と間接の鳴る音に、不審そうに顔を曇らせる兄に笑いかけて、後ろ手に縛られている手を小さく動かす。
縛られた紐は千切れる気配はない。初心者にしては、結び方も上々だ。緩まないように、結び目が痛くならないように。
流石は俺の兄、やるじゃないか。
銀色の眉を顰めて何してんだ、と唸るギルベルトは、次の瞬間更に目を丸くする。
しゅるり。
手品のように外された紐を片手に笑ってやると、ギルベルトはすざっと勢いよく俺の体の上から跳び退った。
まさか、こんな場面で役に立つとは。感謝する、と言っておこうか。本田。
「なっ、な、ななな・・・!絶対ぇ、取れねーように縛った筈だぞ!お前の真似して」
「俺も、本田に教わっていたんだ。東洋スパイご用達、縄抜けの術」
「・・・・・てっ、めぇ!今まで隠してやがったな!」
「痛いんだ、結構。間接戻すのも面倒くさい」
流石に4時間以上も肘から縛られていたので、急激に巡った血液に腕が痺れている。肩の関節も痛いし。
外した関節を再度ぱきっと入れ直しながら、こきこきと首を鳴らす。じゃらり。首輪の鎖が音を立てる。ああ、両手の自由が利くっていい。
多少痺れて感覚は鈍いが、問題ないだろう。兄の体を組み敷く位は。
声も出なくなったギルベルトの細い肩を力任せに掴んで、そのまま勢いよく絨毯の上に押し倒した。がんっと頭を打っているが、大丈夫だろう。
待て、待て!と叫んで暴れる彼の足を両足を乗せて押さえつけ、片手で両手をひとまとめに縛り上げた。我ながらいいスピードで。
中途半端に脱げている彼のデニムを引きずり降ろして両足を抱え上げ、もう一つ縛るものはないかと辺りを見回したら、自分の首輪についている鎖が目に入る。
きらり。ホノオ反射ハンシャして、ギンイロヒカナガクサリ
ああ、いいじゃないか。最高に。
もがく兄を両足で踏みつけて押さえながら、首輪についている鎖をじゃらっと外す。無意識に唇を舐めたら、ギルベルトはひっと息を飲んだ。
「抱かれてやってもいいんだが・・・やはり、俺はこっちの方がいいんだ。兄さん」
「うそつけっ、てめぇ!外せ!ヤらせろ!」
「ああ、ほら兄さん。やはりコレは貴方の方がよく似合う」
「ッ、てんめぇ・・・・っ!」
じたばた動く足を折りたたんで広げさせ、膝の裏にじゃらじゃら煩い鎖を通す。
そのまま首に引っ掛けて固定させたら、何とも素敵な芸術品が出来た。
どうせだから首輪もつけてやろうと自分の首に手を掛けたら、解除かキーが必要なのか、かちりとロックされていて外れない。
まぁいい、首輪がついていようと無かろうと、確かに俺はこの人の犬で、主人だ。
調教には慣れてる。限界を超えない程度の拷問も。この人の為なら、いくらでも跪く事だって出来る。
ただ、俺たちには今この関係がベストなのだ。否、俺にとって。なあ、そう思わないか。兄さん。
いつも笑わないだの堅物だの言われてる俺を、ここまで興奮させてくれるのは、間違いなく貴方だけだ。
愛しき兄、ギルベルト。さあ、楽しい夜にしよう。
形勢逆転。思わず出た笑いと、比例するように青くなるギルベルト。
「さぁ・・・いい声で鳴いてくれよ。兄さん」
長さの余った鎖をびんっと張って圧し掛かると、兄は畜生!と怒鳴って大人しくなった。
大変タイヘン素晴スバらしい夜だった。