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「・・・・・・・・お前、どうしたんだ。一体」
「どうだい、アーサー!惚れ直しただろ、触ってもいいんだぞ、本物だぞ!」
ジャンクフード超大国、合成着色料と甘味料、化学調味料が華麗にキッチンを飛び交う名実共に
メタボリック先進国であるこの元弟は、その名に恥じない貫禄のある体格をしていた筈だ。
骨太なんだぞとはもはや言えないXLサイズのカッターシャツ、穴を増やさなければならないベルト、
はじける前ボタン。
最近は夜の営みにも支障をきたすほど育ってきた奴に対して少しは痩せろデブ!と
怒鳴ったのが、つい一ヶ月前。
少し空色の目が傷ついたように歪んだのは、自分でも自覚があったからなんだろうか。
だって、だって本当に重いんだ。サンドバックのような重圧に、むちっとした肉布団さながらの圧迫感。
正上位でする時の限界まで開かなければならない、悲鳴を上げる股。裂ける、裂けるまじで。
泣きながらそんな事を言った日には、のりのりだねアーサー!と言って更にバスバスがっつかれるし。
そっちはもう裂けねぇよどれだけやってると思ってんだ!股だ股!
見た目にも体の柔らかくないオレは、期待を裏切らずに大層体は硬くて。最近は股関節がずれそうに
なるまで開かされる足に、ほとほと涙が枯れ果てた。
しかも理由が、それくらいまで開かないとこいつが入ってこれないだなんて。情けなさ過ぎる。
あまりにストレートに言うのもアレかなと思って、最近はオレが上に乗って腰を振る事が多かったのだが、
その、騎上位で。ぷにぷにした腹に手をついて。
抱きしめて抱きしめられて、キスをしながら愛されるのが好きな、このオレが。
元弟の前で、恥を忍んで、自分から上に乗って、気持ちよくしてやろうと、頑張ってやってるのに。
「君って本当、自分で動くのが好きだよね。すきもの。淫乱。エロ大使」
耳元でからかうように笑われて、頭に血が上って、上りすぎて、キレた。
「このくそデブ!ブタ!10キロ痩せるまでツラ見せんな!!」
裸同然のアルフレッドをベッドから蹴り落とし、そのまま玄関から放り投げ、おーいアーサー!と呼ぶ声に
舌打ちして鍵をかけたのも、一ヶ月前。というよりも、さっきの話とこれはイコールだ。
ばん!と扉を閉めると、オレはむかむかしながら再度扉を蹴っ飛ばす。
くそ、くそ、くそくそ、アルの野郎!お前がデブだからオレが上に乗らなきゃならねーんじゃねぇか!
バックだと顔が見えないからイヤだし、座位でも結局足は開かなきゃならねーし。
少しはおあずけくらったままダイエットにでも励め、ばぁか。メタボ。KY。
バスローブのまま再度舌打ちしてから、オレはどすどすと寝室へと戻った。
・・・何だよ、別に、あいつの残り香で抜こうなんて、そ、そんな事全然考えてないんだからな!
オレだって途中でおあずけ状態でいくらもにゃもにゃしてるからって。
オレはそんな変態じゃない、変態じゃない!断じて!!
・・・で、今の状況に戻る。
きっかり一ヶ月後にオレの家を訪れたアルフレッドは、それはそれはセクシーになっていた。
いい具合にそぎ落とされた頬の肉、締まった腰、力を入れてない状態でもむきっと見える、血管の浮いた二の腕。
もともと骨太の高い身長は、顔こそアルフレッドのままだがぱっと見はいかがわしいストリッパーのようだ。
恐る恐る触ってみれば、暖かい体にとくとくと血液を流れる感触がわかった。本物だ。
「すごいだろ!本物だぞ、触ってもいいんだぞ」
べろっとトレーニング用のTシャツを捲って、アルフレッドは大層立派になった腹筋をご披露する。
割れてる。
6パックに、アルの、腹が!!
メタボリックシンドロームの定義は、男性ウエスト周囲85センチ以上。その定義をクリアするんじゃないかという
勢いでまあるくぷよぷよしてた、アルの腹が。真っ白でつるつるで、それが少し気持ち悪かった、あの腹が。
右手を掴まれて腹を触らされて、ぼこぼこした筋肉の感触に思わずごくりと息を飲んだ。
「おま・・・・これ、一ヶ月で、」
「俺だけの力じゃないけどね。トレーナーに一ヶ月間びっちりついてもらったら、案外楽勝だったぞ!」
ははははは!とアルが口を開けて笑うと、触っている腹筋もわさわさ揺れる。少しきもちわるい。
見慣れない、アルフレッドの体が気持ち悪い。顔も、匂いも、確かにアルフレッドなのに。
体つきが違うというだけで、もう別人だ。ていうか、この変わり様は、別人だろう・・・後ろから見たら絶対無視する自信がある。
「内臓脂肪ってのは中性脂肪だからね、落ちるのは早いんだよ。あとはEMSと超音波を使ってね。
 いまやダイエットは科学の力で寝ながらにしてできるんだ、全く素晴らしいと思わないかい」
外で話しているのもなんだと思って家に招いたら、アルフレッドは当然のように靴をほっぽって、ずかずかと寝室へ
向かっていってしまった。
待てよ、折角だから紅茶でも。
そう言ってティーカップを用意しようとしたオレの左手を握って、無理やりずるずる引きずって。
「おい、ちょっと、アル」
「いいだろ、アーサー。俺は君の為に、ここまで頑張ったんだ。ご褒美くらいくれたっていいだろ」
「ら、楽勝だって言ってたじゃねぇか!」
「それでも食生活はだいぶ改善したし、大好きなアイスだってスナックだってここ一ヶ月は口にしてないんだぞ!
 大好きな君は側にいないし、こんなストイックな禁欲は初めてだ」
ばんっと寝室の扉を乱暴に開けて、アルフレッドはダブルのベッドにオレの体を放り投げる。
こんな日に限って寝室はぐちゃぐちゃで、まだパジャマだって仕舞ってないのに。
毛布、毛布も干してない。シーツも。
続いて圧し掛かってくるアルフレッドにその事を言ったら、ぷぷぷと小さく笑われた。
「どうせベッドも毛布も、ぐちゃぐちゃになるんだから構やしないよ」
少し丸みのなくなった顔で、そう言って。
体つきは別人なのに、耳元で低く名前を呼ばれるその声は当たり前だけどアルフレッドのままで、
何だか安心したと同時に腰が痺れた。
「っん、あぅ、あ、アルぅ・・・!」
ぐいっと膝頭を掴まれて、左右に割り開かれて。
久々に正上位でアルフレッドを受け入れて、抱きしめられる感覚に涙が出た。
胸に重なる胸板は、厚い。背中に手を廻したら、他人の背中に触れているようで少し鳥肌がたった。
「久々だから?アーサー、すごく熱い」
「い、言うな、お、お前が別人みたいで・・・っ」
「違う奴としてるみたいで、興奮する?」
べろりと耳の中に舌を突っ込まれて、瞬間大きく体が跳ねた。
興奮するかって、バカ、畜生、するに決まってるだろ馬鹿野郎。
むにむにとさわり心地のよかった背中の肉はきちっと締まってるし、抱きしめられる二の腕はがちがちだし。
前は、もちみたいに柔らかかったのに。
何よりも、広げている内腿にささる腰骨が。がすがすと動かされる度に刺さるアルフレッドの腰骨が、痛い。
前みたく目一杯まで開かされる事はないけど、視線を下げれば、以前は腹の肉で見えなかった結合部が
目に入って恥ずかしい。すごく!
ぎゅぅぅと目を瞑って激情に耐えていたら、熱のこもった声でアーサー、と名前を呼ばれた。
「な、っに、ひゃ、ァ!」
「可愛い、かわいい。俺のアーサー」
「や、やだ、」
「自分の体が締まると感じるけど、君って結構小さかったんだな。腰なんて、簡単に折っちゃいそうだぞ」
そう言ってオレの体を持ち上げると、座位の姿勢にしてアルはむぎゅぅぅぅと強い力で腰を抱く。
急激に変わった中の角度と、へし折られそうな強い力にヒッと無意識に悲鳴が上がる。
やめろ、と声に出して嫌がったらアルフレッドは笑いながら上下に腰を動かした。
「ほらアーサー、いつもみたいに腰振ってよ。好きなんだろ?」
「や、やっ、だ、アル!」
わかってない、オレはでっかい体で抱きしめられて、一杯キスされながら揺さぶられるのが好きなんだ。
こんな風に上に乗って動くのも、後ろからがっつかれるのも、シーツを握ってイくのだって、好きじゃない。
お前を抱きしめたい、抱きしめられたいんだ。アルフレッド。
無理やり騎上位にさせられて、でかい手で腰を支えられて、揺さぶられる。
体はこんなに締まったのに、むっちり肉厚な掌は変わらないままだ。
腹筋に手をついてずるっと腰を上げたら、間髪入れずに下に叩きつけられて、思わず手をついている腹に爪を立てた。
自分で動けとか言っておいて、ちっとも動かさせてくれない。畜生、どっちなんだ。
背筋にも筋肉がついたから、動きやすいんだろうか。
がっちり腰をホールドされてガスガス突き上げられて、オレはただただ叫んで泣いた。
「アル、アル、いく、ん・・・・あ、いきそう、あ、あ!」
大きく足を開かされて、容赦なく前立腺を突き上げられて、背筋ががくがく震えた。
涙が出る。いきたい、出したい。でもそれよりもっと、お前に触りたい。
股関節が外れるくらいまで開かされる足も、終わった後に出来る腿の肉擦れも、結局はこいつに
愛されてると感じられるなら、どうだっていい。
触りたくて、抱きしめてもらいたくて、ゆさゆさ揺すられながら両手を伸ばしたら、
テキサスを通した空色の瞳が細くなった。
アーサー、と名前を呼ばれて、体を起こして、抱きしめられる。
ぎゅむぅと力任せに抱きしめられる腕は少し苦しくて、手を廻した背中はいつもの背中よりもだいぶだいぶごつごつしてて。
別人みたいな体に、それでも立ち昇る汗の香りはいつも通りのアルフレッドで、汗でつるつる滑る背中に
何だかすごく興奮して、同じように名前を叫んで、吐精した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っていう、夢を見た。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・最悪だ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
一人ぼっちのダブルベッドの上で、オレは小さく大きく溜息をつく。
死にたい。
死にたい、死にたい、死にたい・・・・・・・・・・・・・             ・・・・・・・・・・死にたい・・・・・。
ベッドの上にあるのは、オレが長年使っている羽毛の枕と、アルフレッドの匂いの染み付いたテンピュールのブルーの枕。
やけに夢の中でリアルに感じたあいつの匂いは、コレのせいか。よりによって、夢オチ。夢オチ・・・・死にたい。本気で。
いたたまれなさにばふっと枕を投げて布団に包まると、シーツからも同じ匂いがした。あいつのよくつける、オレの好きな香水の匂い。
すん、と鼻を鳴らすと、だいぶ薄くなってしまったけど、それでもきちんと香る、汗の混じったアルの匂い。変態か、オレは。
会わなくなってから一ヶ月、汚いと思いながらも結局シーツも毛布も替えられない。
会議やらパーティやらでホテル泊まりになる事も多いが、それでも一週間に一度はぱんぱんと布団を干して、
3日に一度はシーツも取り替えていた、オレが。
今にして思えば、結構アルフレッドはこんな遠い所まで、よく来てくれていたんだなぁ。
何となくあいつの匂いを消したくなくて、シーツを換える日ってのは、アルフレッドが遊びに来ていた日とかぶっていたから。
「・・・・・・・・・でも流石にコレは・・・・・・・換えないとな・・・・・・・・」
誰に言うわけでもなく、再度死にたいと溜息をついて、オレはごそりとベッドを立った。
「よーう、アーサー。どうしたよ、エッチな夢見て夢精でもしたような顔して」
「黙れヒゲ。毛周期毎に黒色レーザー当てて永久脱毛すんぞ」
「まぁ怖い。欲求不満?」
「ぅるせえ、黙れ」
止めたタクシーに乗り込んで、ふぅとタイを解いて一息ついたら、バタバタと続いていやらしい顔の隣人が乗り込んできた。
いやらしい、いつ見ても会議中でもいやらしい。クソ、今日は一人で帰りたかったのに。
久々に徴集された会議には、アルフレッドの姿は無かった。
別に、わざわざ合衆国が出向いてくるような会議でもないから、別段不思議ではなかったのだけど。
少し期待してた自分がますます嫌になって、さらにむすっとする自分が死ぬほど嫌だ。
永久ループ。こんな日はさっさと帰って、一人でさっさと寝るに限る。
によによ笑ういやらしーい顔をはたいて、「寝る」とぷいと顔を背けると、フランシスはそういえばと声を出した。
今日は特にこいつとは話をしたくないと頑なに思っていたのに、出てきた名前に思わず驚いて振り返る。
「こないだ、アルフレートと会ってよ」
「アルと!?」
振り向くと同時に、フランシスの大爆笑。
我ながらものすごい勢いで振り向いてしまった事を恥ずかしく思うよりも、指差して爆笑したフランシスへの怒りの方が勝った。
「な、何笑ってんだ!」
「反応しすぎだ、ブラコン!」
「ブラコン言うな!」
げらげら笑うヒゲをばこんと叩いて、アルフレッドがどうしたと聞いたら、フランシスは頭をさすりながらもう一度
「ブラコン」と笑った。
どこで会ったんだよ、と小さく睨みながら言うと、奴はにやにや笑いながら口の端を上げる。
むっかつくなぁ、こいつ、本当。いつか殴ってやる。
「会ったっつっても、あいつの家の公園で見かけただけなんだけど。
 何からしくねぇ事してたから、面白くて」
「・・・・・・・・・・らしくないこと?」
首だけフランシスに向けていた体を直して、軽く眉を顰めて尋ねてみたら、奴は楽しそうに思い出し笑いをして、噴き出した。
「派手なジャージ着て、ランニングしてんの、公園。すげぇ目立ってたぜ、あの合衆国がランニング」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ははは、と笑うフランシスの言葉に、思わずかちりと固まった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・ランニング?アルが?
あんなに、運動嫌いで、いつも非効率である事を馬鹿にする、努力が嫌いなアルフレッドが。
オレの夢の中でさえ、楽してヤセてたあのメタボが。
うそつけ、と聞いてみたら、フランシスは本当だって、と手を叩いた。
「あんな珍しいもん、久々に見たわ。いやぁ、面白かったな。アルフレートのランニング」
もしかして、もしかしなくても、それってオレが言った一言だろうか。
笑うヒゲに、少しだけむっとする。
あれから確かに、訪ねて来ないし。連絡もないし。
頬が少し赤くなるのを自覚しながら、フランシスにそんなに笑うな、とまた睨む。
顔の赤くなったオレを見て、再度爆笑したヒゲは、オレの頭をぽんぽん叩きながら「だってよ」と言葉を追加した。
「ランニングしてんのに、右手にはチョコバーだぜ!痩せたいのか太りたいのか、全然訳がわからねぇ」
爆笑するフランシス。思わず、俺も表情をなくした。
・・・・・・・・・・・ばっかじゃねぇの、あいつ。
笑えるだろ、と肩を叩くヒゲに、少し破顔する。いや、笑うっていうか、呆れた。
非効率な事は嫌いなくせに、好きなものはいつもどちらも選べない、否、どちらも選んでしまう、
いつまでも矛盾した子供みたいな所は昔と全然変わってない。
可笑しそうにしてるフランシスとは違う笑顔を浮かべながら、オレは何だか胸がほんわかするのを自覚した。
目を閉じて、ぜーぜー言いながら公園を走るアルフレッドを想像すると、激しく可笑しい。
やたら力は強いけど、長距離とかは専門外のはずだ。可笑しい。オレも見たい。
それじゃいつまで経ってもマイナス10キロなんて、出来るわけねぇだろ。
大嫌いなランニングなんかして、何やってんだ。
ふふ、と笑うオレを見て、フランシスは「最近はレアなもんばっか見るな」となんだかよくわからない憎まれ口を叩いた。
今日は最悪な事があったから、さっさとホテルに帰って、ルームサービスでも取って、さっさと寝ちまおうとおもってたんだけど。
気が変わった。笑いながら、フランシスに悪ぃと目線で投げてから、運転手にプリーズ、と声をかける。
「ホテルに行く前に、国際空港に寄ってくれ。まだフライトあるだろ」
ワシントン行きの。
オレに似て頑固な所がある元弟は、恐らく本気で10キロ痩せるまで、顔を見せないに違いない。
それまでなんて、待ってられるか、ばぁか。そんな非効率なダイエットで。
空港についたら起こしてくれ、と再度窓に向かって目を瞑るオレを見て、フランシスはもう一度いやらしい顔をして、
「ブラコン」と言いながら小さく笑った。