「っあ、ん、そこ、アル」
 
びく、びくと身体が震えて、つま先がきゅっと丸くなる。
せわしない呼吸をしながら自分で足を持ち上げて広げてる彼は、
俺じゃなくとも見た目にはコールガールにしか見えないだろう、この、えっち大好き人間。
広げた足の間に中指と人差し指を揃えて突っ込んで、音を立ててかき回してやれば、
アーサーはひんっと鼻を鳴らして気持ち良さそうに背中を反らした。
 
「気持ちいい?ここ?」
「そこ、ッあ、やだ、」
「ヤじゃなくて、気持ちいいって言ってよ。アーサー」
 
根本までぐぅっと指を突っ込んで前立腺を引っ掻いたら、アーサーはぼろぼろ
涙を流して「きもちいい」と泣く。
一体、この人っていつからこんなになっちゃったんだろう。
幼い頃、俺と一緒に居た時は、当たり前だけど予想もしたことなかった。
2世紀という月日が短いとは感じないけど、まさかまさか、こうして元兄とセックスする関係になるだなんて。
気持ちに気づいて強引に、ほぼ強制的に身体の関係を結んだのは俺ではあるけど。
恐怖と背徳感でがちがち奥歯を震わせていたアーサーは、それでも決して俺を拒まなかった。
身体はすんなりと開いて、かさついた肌は汗に濡れると吸い付くように身体に馴染んむ。
愛してるぞ、アーサー。
リップサービスみたいな睦言を言って、ぐっと彼の中に入ったとき。
ああ、この人って慣れてるんだろうな、と初めてなのに何となく思った。
 
 
「あ、アル、アル、いきたい……ッ」
「……いいよ、出して。飲んであげるから」
「っは、あ、やぁ、やだ」
「……ん、む、……ほら、アーサー」
 
むちゅ、と先端にキスをして、ずるずると音を立てて飲み込む。
唾液を絡めてわざと音を出してやれば、彼は引き攣った悲鳴を上げて喉を反らした。
 
ぐい、細い腰が押し付けられる。押し付けられた腰が、びくびく揺れる。射精する時の、彼の特徴。
薄目を開けて顔を見れば、とろっと溶けた緑色の目と目が合った。
やらっしい。なんだい、その目。
男の癖に、ポルノビデオの女優みたいな顔して、お尻に指突っ込まれながらフェラチオされて。
アルぅ、甘ったるいその声は、俺以外の人間だって、知ってるんだろ。
ちょっとだけそんな事を思って、がりっと先端に歯を立てたら、アーサーは一際大きな声で叫んで俺の髪の毛をぎゅぅっと掴む。
指を突っ込んでるとろとろのそこが、引き千切られそうにきゅぅぅぅと収縮した。
 
「っ、イタイのが好き?変態」
「やだ、言うな、……っ!っあ、あ、アル、いく、出る……っ」
「ん」
「……っ、あ、っあ、あ……!」
 
びくん。
身体が一層弓なりに反って、口の中のものが弾ぜる。
喉元まで咥えているものが上顎を叩いて、青臭いもので口の中が一杯になる。
少し眉を寄せて吸い上げて、頑張って気合で飲み干して。達している間も指を増やしてぐちゅぐちゅ中を掻き混ぜたら、
アーサーは上ずった声を上げて泣き出した。
 
「あ、っあ、アル、アル」
「……は、気持ちよかった?ダーリン。ほら、君も」
「……ん、ん、っんんんん!」
 
手の動きは止めず、身体を伸び上がらせて半開きの唇にキスをする。
青臭い舌を突っ込んで舌を絡めたら、彼はむずがって、イヤがってぶんぶんと首を振った。
随分と自分も変態臭くなったなぁと思う。
喉の奥にからみついてるような気がする、彼の体液。
最近ようやく飲み下す事のできるようになったそれを、一緒に味わって貰おうと角度を変えて口付けて、唾液を流し込む。
泣きながらこくこくと唾下する恋人の愛しい事といったら、ない。
我ながら随分とおかしな事に喜びを感じていると思いながら彼の足を抱えて肩に担ぎ上げたら、
アーサーは唇を合わせたままぴくっと緑色の目を開いた。
知ってるんだぞ、期待してる、その瞳の色。
テキサスを外して、笑って目元にキスをして、自分の準備に入る。
少しだけ扱いてからぴたりと開いた尻に先端をくっつけたら、
ぬるっとした温かい感触に腰が痺れた。
 
「力、抜いてくれよ」
「っ……、ぅ、う、うー……!」
 
左手で内腿を開いて、右手を添えながらゆっくりと先端をもぐりこませれば、ぎゅっと締め付けてくる入り口、直腸。
あんなに広げたのにまだ狭い彼の体ってのは、一体どうなっているんだろう。
セックスに使っているココだって、元々使用用途は違うだろ。男としてどうなの、アーサー。
ずぶずぶと、わざとゆっくり入れてやったら、入ってくる感覚がわかるのか、足を開いたままぶるぶると頭を振る。
は、あ、アル、アル。
肩に担ぎ上げた膝頭にキスを落として根本まで埋めたら、アーサーは虚ろな目ではふ、と熱い呼吸をした。
 
「わかる?俺の。アーサー」
「……ぅ、あ、わ、わかる、」
「前にしてた人と、どっちが硬い?」
「…………ッ!」
 
ずる、一旦腰を引いて、角度を変えて、叩きつける。
ひゃっと声を上げて背筋をのけぞらせた恋人は、ぎぎっと俺の背中に爪を立てた。
神経質そうな、常に深爪の指は爪を立てられても大して痛くはない。
それよりも、ぎゅうぎゅぅ搾られる入り口のほうが痛いんだけど、アーサー。
腕を外して、シーツを握らせてから細い太腿を抱えて、立ち膝の状態で腰を振る。
大きく広げさせて結合部が見えるように腰の下にピローを突っ込んだら、挿れる前に注いだピンク色のローションが泡だって見えた。
 
「ねぇ、教えてよ、どっちが硬い?今までの君の中で、俺は何番目?」
「っあ、あ、あ、やっやだぁ!」
「ヤだじゃなくてさ、答えてよ、アーサー!」
「ヤだ、ぁあ、やだぁ!」
 
気にいらない、面白くない。
普段はしっかりスリーピースのスーツなんて着こんで、ボタンは首元まできっちり絞めて、
タイすら外では絶対に外さない、紳士ぶった顔して、格好して。
こんなぐちゃぐちゃな顔して大股広げて元弟にお尻に突っ込まれてよがってるなんて、お笑いじゃないか。
一体いつからなんだよ、アーサー。
俺が小さな頃から?一緒に寝てたあのベッドで、誰かと一緒にこんな事してたんだ。
こんなふうに、あんあん喘ぎながら、涎垂らして、ポルノ女優みたいに足開いて。
俺にあんな偉そうにエチケットだマナーだ何だって叱っておきながら、君はこんな事してたんだろ?
面白くないにも、程がある。
綺麗な顔して育てた俺にこんな事されてる君も、そんな君が愛しいと思う俺も。
担ぎ上げた足を開いて、身体をくの字に折り曲げて上から叩きつけるようにしてやったら、
身体の硬い彼は少し苦しそうに体を捩った。
 
「っひぁ、あ、痛ぁ……!苦し、いッ」
「ちょっと我慢してよ。やりやすいんだから」
「ぅあ!あ、あ!やっ、あ、アル、壊れる!やだぁぁぁああ!」
「壊れやしないだろ、慣れてるんだろ!」
 
肩に乗せた両足、白い太腿を掴んで、ベッドが軋むくらいに大きく揺さぶる。
ぎしぎしうるさいダブルのベッドは頑丈だけれども、それでもこんな風に大人の男二人が激しいセックスする用になんて出来てないんだろう。
煩い程に鳴る軋みの音は、高く泣き叫ぶアーサーの声を誤魔化してはくれない。
慣れて無い、慣れてなんか、ない、ぼろぼろ泣く彼に苛立って、腰を掴んで、引っ張り上げる。
顔を横に傾けてシーツに顔を埋めて、涙を流しながら声にならない声を上げる彼にこれでもかと言うほど強く腰を叩きつけたら、
一瞬大きく瞳が開いた後に、くたぁっと全身の身体から力が抜けた。
…………ちょっと、まだ、飛ばないでよ。
はぁはぁ言う自分の口もとをぐいっと拭って舌打ちして、力の抜けた足を抱え直して、彼に構わず、がくがく揺さぶる。
身体を前に倒して左の乳首をがりっと噛んだら、すぐにアーサーの意識は覚醒した。
覚醒、してるのかな、虚ろな瞳。ひん、と、出てくるのは頭が悪そうな息遣い。
何処を見てるのかわからない瞳にまた頭に血が上って、腰を少し引いて前立腺をえぐったら、
それでようやく「きゃぁっ」と悲鳴の上がった彼と瞳が合った。
 
「ねぇ、ちょっと、集中してよアーサー。俺を見てよ。ちゃんと、俺だけを見てよ」
「はぁ、あ、ッアル、あ、あ、だ、だめ、だめだ、もう……っ」
「駄目じゃなくて、名前を呼んで、俺だけにして。愛してるって、言ってくれよ」
「あ、いして、る、から、ぁっ、あ、あ、あ!もう、やだぁ……っ!」
 
出るものも出尽くした彼の性器は、立ち上がっては来ない。
アル、と泣きながら、力なく叫ぶ細い身体を抱きしめて、もう一回、とお願いして『愛してる』と言って貰う。
愛してる、愛してる、アル、アルフレッド。
 
嘘つき。
君が愛してるのは、昔の俺だろ。今の俺じゃなくて。
力の抜けた身体を抱いて、湿った頭皮にキスをして、同じように愛してると叫んで、
俺もコンドームの薄い壁越しに、射精した。
 
 
 
 
独占欲は、決して強いほうじゃないと思う。
自分の好きな事は他の皆にも伝えたいし、楽しい事や嬉しい事は、皆で分かち合いたい。
欲しいと思った物は全力で取りには行くけど、後生大事にいつまでも持ってるほど、凝り性でもない。
どちらかと言えば、この人にいつも言われるように、飽きっぽい性格ではあると思う。
嫉妬もしない。してる時間があるなら、自分を磨く。
過去の事は済んだ事、過去は変えられないから悩んだって無駄。それより今、明日より今。
そうやって、今までだって生きてきたのに。どうして、彼の事になると俺はいつも冷静さを欠くんだろう。
彼の過去に嫉妬して、昔の自分に嫉妬して。自分に苛立って、彼にぶつける。
最悪だ。我ながら。
青い顔をしてくたりと意識を手放してる彼の、湿った金髪を軽く梳く。
目じりからこめかみには、流れた涙の跡。ナトリウムで赤くなった下瞼。
セックスっていうのは、お互いの愛を確かめあう、心と身体の繋がりの筈だ。
こんな風に、無理やり聞きたい事を言わせて自分の感情を叩きつける物ではない。わかってる。
わかってるのに。さら、と髪を撫でたら、すくっと浅い寝息が聞こえた。
 
「ごめんよ、アーサー」
 
君は、弟としか見れない俺とのこんな関係を、望んでいなかった筈なのに。
君を傷つける気なんて、ないのに。
一体、何処で間違えたんだろうなぁ。灰皿に押し付けてある彼が吸った煙草に火をつけて、口をつけて、吸ってみた。
美味しく無い、全く気持ちがわからない。咽る程でもないけど、もう一度肺に入れる気にもなれない。
早く、大人になりたい。祈って願って走り続けて、身体は大きくなったけど、心はずっと昔のままだ。
彼の過去に嫉妬して、過去の自分に嫉妬して、いつまでたっても、追いつけない。
こんな風に身体を繋げたって、無理やり愛してるって言わせたって、虚しいだけだ。
それでも俺は止める事が出来ない。どうしたらいいんだろう。ねぇ、アーサー。
このままじゃ、いつか二人ともおかしくなる。その前に、今の俺を愛してよ。受け入れてよ、俺を通して、過去のアルフレッドなんて見ないでよ。
 
フィルターぎりぎりまで吸った煙草を灰皿にぎゅっと押しつけて、俺は湿ったシーツに包まったアーサーの隣に滑り込む。
涙の跡のついた頬に軽くキスを落としたら、彼は小さな声で、アル、と俺の名前を呼んだ。