ジーザス。一体、誰なんだ。
誰だ、本当に、全く持って、非常に困るぞ!
「ん、ひゃ、やだ、アルぅ、もっと」
「ちょ、ちょっと、待ってアーサー、アーサー!」
「やらぁ」
「アーサーってば!」
誰なんだ!もともと酒が入るとエロエロになるこの人に、ここまでべろべろのめろめろになる位
酒を入れた、困った人は!!!
とろりと溶けた緑色の瞳で、愛しい元兄で恋人の男はしゅるりと自分の
タイを抜いて、慣れた手つきでカッターシャツのボタンを外す。
第三ボタンまで外した時にちらりと見えた色素の薄い乳首に、
ピンク色に染まった首筋や鎖骨にむらっとした自分を何とか抑えて、
俺は自分のジャケットを脱いでひっかぶせると、痩せた身体を抱えてレストルームに走った。
イヤーな予感は、してたんだ。
他の会議で遅くなって、少し遅れて参加した国連参加国の大きな会議。
遅れて来てみれば会議なんてのは名ばかりなんじゃないかと思うくらいの規模の大きな祝賀会場は、
久々に見る顔ぶれに溢れていて、何だか同窓会みたいな感じだった。
よう、合衆国!なんて肩を叩かれて見てみれば、相変わらず派手なジャケットを着た愛の国。
ハイ、と俺も笑い返してキスをして、調子はどうだいと声を返す。
フランシスは俺の尻を撫でながらキスを返すと、まぁ飲めと背の高いグラスを渡してくれた。
「何なんだい、このお祭りムードは・・・。今日は会議だって聞いてたんだぞ」
「お前が来る前に終わったよ。仕切りはルートヴィヒだし、
 いつもみたく口うるさく茶々入れる奴はいないしで、今日は早かったぜ」
「誰だい、その茶々入れる奴ってのは」
「お前だ、お前」
ゴスゴスとテキサスをつつくフランシスにはははと笑うと、渡されたグラスを一気に煽る。
機内で乾燥した喉に、しゅわしゅわ鳴る炭酸は有難く、心地が良かった。
周りを見渡せば、いずれも何度か顔を合わせ、時には銃を付き合わせた懐かしき国々。
歴史なんてのはまだまだ無いに等しい俺でも懐かしいと感じるのだから、
EUやアジアの奴らなんかひとしおだろう。
まだまだ国連加盟してない国も沢山あるけど、昔のように銃を向け合う機会が減り、
こうして酒を酌み交わせるようになったというのは、非常に良いことだと思う。
世界は、きちんと前進してる。
もう一杯、とフランシスにシャンパンのお代わりを頼んだ時に、
EU会議の時にはなんだかんだいつも彼と一緒にひっついてる、小さな島国がいない事に気がついた。
喧嘩ばかりしてるけど、結局付き合いの長い二人は、俺がいない時はだいたいいつも一緒にいるのに。
シャンバンを注がれながらあたりを見回して、目当ての人が視界に入らない事を確認すると、
ヘイ、とフランシスに呼びかけた。
「俺の恋人はどこだい」
「何号の方でしょうか?」
「からかわないでくれよ、君じゃあるまいし。アーサーだよ」
先ほどのお返しみたいにゴスゴス額をこづくと、フランシスはにやりといやらしい笑いを浮かべて
聞きたいか?と尋ねてきた。
聞きたいかって、当然だろ。
最近はずっとお互い会議だ外交だって、すれ違ってばかりだったんだ。
顔も見たいし、声も聞きたい。折角明日はオフにしたから、今夜の宿の事も話し合いたいし。
ぷーと口を尖らせて、再度「教えてくれよ」と聞いてみれば、彼はいやらしーい笑いを
崩さず、細くて長いやらしい指を立てて、あっち、と奥の方を指差した。
今思えば、この時点で予感はしてたんだ。本当に。
懐かしい顔ぶれ、振舞われる大量のアルコール、会議が終わった後の開放感。
フランシスに礼を言ってから大股で会場の奥へ行ってみれば、予感的中。
愛しい恋人はぐでぐでのべろんべろんになって、
あろう事かむきむきのルドウィグに馬乗りになって、けらけらと笑いながらスーツを剥いていた。
「ヴェー、やめてよアーサー。ギルベルトに怒られるよー!」
「るせーフェリシアーノ!てめーも剥くぞ!」
「ぅきゃぁぁぁぁぁぁぁ!助けて、ルーイ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・オー・マイ・ゴッド。
誰だ、あの人に酒飲ませたの。
皆あの人の酒癖は知ってるだろ、一体誰だ。
どうしてなにもわざわざ、猫にまたたびみたいな事をするんだい!
シャツを剥かれながら困惑してるルーイは何だか呆然としてて、ああ、若い彼は
こんなアーサーを見るのは初めてなのかも知れない。
とろんと呂律の回らないアーサーを腹の上に乗せて、軽く口を開けてぽかりと見ている。
待ておらぁ!と怒鳴るアーサーと、きゃぁぁぁぁと泣きながらスラックスのベルトを抑えるフェリシーアを見て、
何かがぶちっと切れて乱暴にグラスを置いてから、俺はつかつかと輪に囲まれてる3人に歩み寄った。
「ヘイ、ダーリン!何やってるんだい、君って人は!!」
「ア、アルフレート!」
「・・・助かった・・・」
ぐいーっとシャツの首根っこを持って軽い身体を持ち上げれば、圧し掛かられていた
ルドウィッグと、スラックスをずり下ろされそうになっていたフェリシーアノが安堵の息をつく。
助かったじゃないぞ、ルーイ。君、もっとしっかりしてくれよ。アーサーに操奪われるぞ。
酔っ払ったアーサーは最凶なんだからな。
じろりとテキサスを光らせてルーイを睨んだ後は、この恋人だ。
くたりと下半身は未だルーイの身体に馬乗りになってる状態で、俺を確認すると
へらりと笑って、アル、と腑抜けた声を出す。鼻にかかった、甘えるような声、とろんと蕩けた瞳。
ちょっと、君、他の奴らにもそんな顔見せていたんじゃないだろうね、冗談じゃないぞ。
一言文句を言ってやろうと思ってすぅっと息を吸ったら、言葉を発する前に、
逆にぐいーとジャケットを引っ張られた。ちょ、ちょっと、ちょっと。
軽く宙に浮いていた彼の身体は再度ルーイの腹の上に乗っかり、
ルーイは鳩尾に落ちてきたアーサーの尻に、ぐぇっと小さな悲鳴を上げる。
近年稀に見るばか力でジャケットを引っ張るアーサーに、ちょっと!と怒鳴る前に、
何とそのままむちゅぅぅぅっと派手なディープキスをかまされた。
目の前にはチョコレート色の瞳をまん丸にするフェリシアーノ、彼の体の下にはシャツを肌蹴られたルドウィッグ。
そのまま後頭部を掴まれて、目を瞑りながらむぐむぐと舌を貪られる感触に、本気で頭が痛くなった。
「・・・ッ、んぐ、ちょ、」
「ん、ひゃ、やだ、アルぅ、もっと」
「ちょ、ちょっと、待ってアーサー、アーサー!」
「やらぁ」
「アーサーってば!」
・・・・・・・・・で、冒頭の状況だ。
べりぃっと根性で彼を引き剥がし、ジャケットを被せ、丸めて脇に抱えて。
脇腹でむーむー言う彼を無視して、口を拭ってから、相変わらず呆然とするルーイたちに軽く頭を下げてから、
俺はダッシュで会場を後にした。
「あのねぇ!!アーサー、君いい加減飲みすぎだぞ!」
「っわぷ、つ、冷たい!冷てぇ、アルフレッド!」
「冷たくなきゃ醒めないだろ!ほら、水も飲んでよ」
「やぁらぁあー!」
レストルームに駆け込むなり、手洗い場のコックをきゅうぅっと捻って、シンクにアーサーの頭を突っ込む。
急激に浴びる冷水にアーサーはぎゃぁぎゃぁ喚いて、呂律の回らない舌でやめろばかぁぁぁと叫ぶ。
彼は酒が入ると最凶最悪になりはするが、決して酒に弱いわけではない。
こんなにぐらぐらになるまで酔っ払ってるっていうのは、それ相応に飲んでるってことだ。
折角合衆国から長い長いフライトで飛んできたというのに、このままじゃ明日のオフまで
二日酔いで寝られかねない!
冗談じゃないぞ、と思いながらがぶがぶ水を飲ませたら、いい加減にしろぉ!と
何処にそんな力が余ってたのか、強烈なアッパーが下から飛んできた。
「むぁっ!くそ、避けんな、このやろう!」
「当たったら痛いじゃないか!酔いは醒めただろうね、アーサー」
「もともとオレは酔っ払ってなんか、いねぇ、よ!」
「そっちは鏡だぞアーサー!」
するりとアッパーと避けると、アーサーの痩せた身体は軽く宙を浮き、
軽く俺を睨みつけるとむきーと唸って、入り口の鏡を蹴っ飛ばす。
がんっと容赦なく響く音に、いつもの鉄板入りのブーツではなくて良かったと思った。
酔っ払った大英帝国が会場のレストルームの鏡を破壊なんて、またいいネタだ。
ローファーのトゥで硬質な鏡を蹴っ飛ばしたアーサーは、痛ってぇ!と叫んで蹲ってしまった。
「何処が酔っ払ってないって言うんだよ・・・もう、帰ろう。会議は終わったんだろ?」
「るせぇ、オレは酔ってねぇぞ、あんくらいで、酔ってなんか、いないんだからなばかぁ」
ぺたり。
乱れたスーツ姿で床に座り込むと、アーサーはオレは酔ってないと呂律の回らない舌で叫び出す。
酔っ払い程、酔ってないと言いたがるのは何処の国でも一緒なんだろうか。
だめだ、この最悪酔っ払い。折角明日は久々にデートでもしようと思ってたのに・・・。ああもう。
もう、連れ帰って寝かせよう。それで、明日は二日酔いで死にたい死にたい言ってるこの人を
眺める事にでもしよう。あーもう、頭にくる。本当最悪。
自分があまり酒に酔わない体質だからなのか、こうやって酒でふらふら気持ち良さそうにしてる
彼を見ると無償にむしょうに、頭にくる。
アルコールなんて、俺からすればただの合法ドラックだ。
依存性が高くて、自分ひとりだけハイになって、本性さらけだして気持ちよくなって。煙草も然り。
真っ赤な顔をして、くにゃりと身体の力を抜いてうとうとし始めた彼を見て、更に呆れた。
「ちょっと、アーサー?こんな所で寝ないでくれよ。タクシー拾うから、待っててよ」
「寝てねーよ、アル、なぁ、どこいくんだよ」
「言っただろ、タクシー拾いに、」
「やだ、いい、いらない」
鼻にかかるような声で首を振る彼に、ぴきりと再度青筋を立ててから、構ってられるかと
座り込んだ身体を跨いで扉を開ける。
開ける、いや、開けようとドアノブを掴んだ時に、軸足にぎゅぅぅっとしがみ付かれて、
俺はそのまま体勢を崩して、目の前のドアにばんっと頭から突っ込んだ。
テ、テキサス、大丈夫か、テキサス。割れてないか。
ごっという音と共に扉に熱烈なキスをした俺は、テキサスが割れてないかどうかだけ
確かめると、座り込んでる恋人に、何すんだい!とぎろっと睨みつけた。
いくら温厚な俺でも、さすがにきれそうだ。久々に会った、ずっと会いたかった愛しい人が、このザマ!
「アル、ここにいろ。オレ、オレ」
「ここって、トイレだぞ!早く家に帰ろうよ」
「やらって・・・・アルぅ」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと、ちょっとちょっと、アーサー!!」
こ、こ、この最悪酔っ払いえろえろ大使。
俺の足元にしゃがみこんでいたアーサーは、ふらふらとした手つきで俺のベルトに手を掛けると、
かちゃかちゃと音を立てながら外しにかかってくる。
目元を見れば、相変わらずとろんとして何を考えているのかわからない。
アーサー!大声を出して腕を取るが、腕が使えないとわかったら何と口でジッパーを挟んで
じぃっと引き下げてくる。
随分と器用じゃないか、君!
引き剥がしてやろうと、水で濡れた金髪を掴んでみれば、アーサーは痛ぁ、と
甘ったるい声を出してこちらを見上げてきた。
視線を下ろせば、第三ボタンまで外されたカッターシャツ、アルコールで桃色に染まった上半身、
蒸気したほっぺた、瞳孔が大きくなったうるうるの瞳。
ぐっと一瞬怯んだ隙に、アーサーは無理やり俺のスラックスを引っ張り下ろして、
無自覚だったけど半勃ちになってた俺のを、小さな口でぱくりと咥えた。