『ヘイ、ちょっと!何やってるんだよ君達』
『ハイ。アルフレッドじゃない。だって彼、ちょっとトんでたから』
『トんでって・・・何、これ。アッパー系?誰だい、こんなの飲ませたの』
『知らないわよ。倒れてたのを起こしてあげたら、こんな状態だもの』
 
アルフレッドの声。
また、似ている奴だろうか?ずんずん響く低音に混じって、アメリカ訛りの強い発音は聞きづらい。
なんで、こいつの家の奴らっていうのは、皆して歌ってるみたいに話すんだろう。
単語と単語が全部つながってるみたいな巻き舌は、とてもオレには真似できない。舌使いが巧そうだけど。
仰向けに倒されたまま、無様に足を広げてる情けない格好のままぼけっと見ていたら、
いつの間にかオレの上からどいた男が、かちゃかちゃベルトを締めながら、
アルフレッドの肩を叩いて笑ってた。
 
「おい、君、まさか突っ込んでやしないだろうね。俺の大事な人だぞ、全く」
 
ぷりぷりしながら、男の肩を叩き返すアルフレッド。
力が強すぎたのか、男はアウチと叫んで、それでもけらけら笑ってた。
悪かったよ、知らなかったから。心配なら縄でも付けておけよ。アルフレッド。
ご忠告有難う。早速そうする。さぁ、ダーリン!起きて、ああ、起きれない?
 
何が起こってるんだかわからない状態で、差し出された肉厚の手を見る。
見慣れた、暖かそうな、少し深爪気味の大きな手。
こてんと首だけ横に倒して、アル、と呼びかけたら、「ハイ」といつもの声が返って来た。
 
 
「っわ、」
「教えて、アーサー。何であんな所に居たの」
 
あの後は無理やり小脇に抱きかかえられて、無理やりタクシーに詰め込まれたあげく、
そのままこいつのアパートまで連れてこられた。
足でドアをばんっと開けて、土足のまま寝室へ大股で直行、放り投げられたベッドには
読みかけの雑誌が大散乱。
ぎし、カーテンを引かないまま、ネオンの灯りが反射する部屋の中ででかい体が圧し掛かる。
両腕を押さえつけられて、でもそれだけでも身体は期待に疼いて、喉はこくりと上下する。
アルの顔。今度は、本物だ。空色のビー玉の瞳に、オレと同じ色の乾いた金色の髪。ぽてっとした唇。
キス、キスがしたい。柔らかそうな、唇に口づけて、熱い舌を、からめとりたい。
上唇を軽く舐めて名前を呼んだら、思ってた以上に掠れてて、アルは軽く舌打ちしてオレの額にキスをした。
 
「今の君に何を聞いてもだめそうだね、このえろえろ大使。 
 奥にフォーマルな英国人がいるからって聞いて、まさかとは思ったけど」
 
そう言って、再度シャツのボタンを外しだす。
さっき慌てて締めたボタンだから、掛け違いだらけの変なボタン。
同時にボトムをトランクスごと下ろされて、一気に剥きだしにされる下半身に、
すぅっと寒くなる下半身に、ひゃっと声が上がった。
まだ何にもされてないのに、恥ずかしいくらいに勃ちあがってる、自分の性器。
何にもされてないってのは語弊があるかもしれない、だってあのパブで女達に触られまくったから。
でかい手にきゅっと包み込まれて、背筋がしなる。
ア、と声を出したら、アルはゆっくりとそれを上下に扱き始めた。
 
「ッ、ア、アル、は、ァ」
「手でいい?ダーリン」
「やっ、やだ、くち、口がいい・・・っ」
「わがまま」
 
とろとろの意識の中ではっきりしてるものはひとつ、快楽、快感。気持ち、いい。
暖かい手に扱かれて、それだけでイきそうになる。ぐちゅぐちゅ、音が出てるのは先走りの恥ずかしい液か。
唇にキスを落とされて、柔らかい感触にこれでしゃぶられたら、、どんだけ気持ちいいんだろうという
妄想が背中を押して、ぐっとアルの手の中の物の質量が増す。
肉厚の舌を吸いながら、もう一度「口でして」と頼んだら、アルは少し呆れた顔をして下半身に顔を埋めた。
 
「・・・っう、あ!ひぁ・・・!」
「・・・んん、っは、ちょっと、頭押さえないで」
「ひ、は、っはぁ、あ、すっげぇ・・・!」
 
蕩ける。
やばい、やばい、これ、すごい、溶ける、身体が下半身から溶けそう。
柔らかい、ふにっとした唇に食まれる感触、暖かく湿った口内の粘膜、根本から巻きつく火傷しそうに熱い舌。
軽く窄めて扱かれるように上下されて、やばい、それやばい、と声が泣いてるみたいになった。
 
「すごい、アル、アル、アル、あ、気持ちいい・・・っ」
「・・・ん、む、ねぇ、扱かれるのとべろべろに舐められるの、どっちがいい?」
「っは、あ、あ、ど、どっちも」
 
顔を上げて、下半身に埋まってるアルフレッドの顔を見る。
オレと同じ金色の髪の毛、同じ色の睫毛、顰められた眉毛。
少し湿って濃い金色になった自分の陰毛、ぽってりとした唇から覗くのは色素の薄い自分の性器。
荒い息が抑えられなくて、はぁはぁ言いながら、音を立ててしゃぶり上げるアルの頬を掴む。
瞳が合う。いつもより濃いブルーの丸い瞳。上目遣いのまま、見せ付けられるようにべろんっと先端を舐め上げられて、
オレは悲鳴を上げて名前を呼んだ。
 
「腰、もう少し浮かせて」
「っひ、ぁ、や、止めちゃやだ・・・っ」
「止めないから、後ろ弄ってあげるからさ、ほら」
「ぅ、ん、んん、う、ぁ、あ、あぁああ・・・っ」
 
つま先でスプリングを押して、軽く腰を浮かす。すぐに頭の上にあったピローが下に入れられて、
腰がベッドから少し浮いた状態で、つぷっと一本指が入れられたのがわかった。軽い圧迫感。
それすら今は、すごい、イイ。
鉤つめ状に指を曲げられて、中をかき回される。ローション、使ってないのに。
眩暈がしそうな気持ちよさに、薄目を開けて見てみれば、アルが指と一緒に唾液を流し込んでるのが見えた。
ぐ、ぐちゅ、音がやらしい。出してる音が、無機質なローションだのワセリンだのじゃないと思うと、余計に興奮する。
前立腺を擦られて、アルぅ、と泣きながら髪を掴んだら「なに」と返事をされて、指を増やされた。
ぁう、あ、あ、声が、上ずる。
突っ込まれてからじゃ出来ない、指の動き。ばらばらに動かされて、かき回されて、背筋がぶわっとあわ立つ。
やば、やばい、気持ちいい、ひっくり返った声でそう伝えたら、アルはそう、と笑って、舌を出してべろっとオレのを舐め上げた。
 
「っあ、だめ、出る、出る、いくっ・・・!」
 
瞬間。耐えていた射精感が突き上げて、オレはアルの顔がそこにあるにも関わらず、つま先をびぃんと伸ばして、吐精した。
やば、ごめん、アル。心の中で思いながら、びゅく、という衝撃の度に声を上げて身体を跳ねさす。
愛しい男の顔に精液をかけて果てるというのは、思っていた以上に、最高に気持ちがよかった。
 
「ちょっと・・・これは無いんじゃない、ポルノビデオじゃないんだから」
「っは、はぁ、はぁ、あ、ご、ごめん、アル、気持ちよくて・・・」
「・・・何だか素直だね。毎回そうだと、可愛いんだけど」
「ん゛」
 
白濁に濡れたテキサスをかちりと外して放っぽりなげて、アルは頬に飛んだオレの飛沫を指で拭うと、
二本揃えて口に突っ込む。自分の放ったものとはいえ、ぬるくて青臭い味と感触に、やら、と首を振って嫌がった。
 
「君の出したものだろ、俺の顔にぶっかけておいて、きちんと綺麗にしてよ。
 ほら、足上げて。挿れてあげるから」
「んっ、んむ、ん、んんんん゛ん゛・・・!」
「すごい、今出したばっかりなのに全然萎えてない。君って効きやすいんだね。ラブドラッグ」
 
ずるっと指が抜かれた後は、やけにでかくて熱い質量の物が当てがわれて、オレは口に指を突っ込まれたまま
瞳を開いて、悲鳴を上げた。
 
 
 
 
「ッ、ア、アル、アル、きもちいい・・・・っ!」
「っん、んー・・・ちょっと、熱っつい」
「はっ、は、あ、あぁ、あ、アル、もっと・・・っ」
 
足を抱えられて、腰の下にピローを突っ込まれて、ぎりぎりまで足を広げて正常位で迎えて。
ぐぅっと奥まで突っ込まれた時に、反動でまたイくかと思った。ちょっと出た。
やばい、どうしよう、すごいイイ、気持ちいい。
突っ込まれて、まだ動いてない状態で、なんでこんなところてんみたいになってんだろう。
おんなじように全裸になったアルフレッドの背中に爪を立てて、早く早くと腰を振る。
ちょっと、と非難がましく軽く睨まれた後に緩く挿出が始まって、浅いところを突かれながら
その度に、びく、びく、と身体を跳ねさせた。
 
「あー、すっごい、ちょっと、君、あんな軽いドラッグ一つでこんなとろとろにならないでよ」
「あ、ん、ひぁ、アルぅ・・・!あ、あッ」
「もう・・・あ、すご」
 
目元にキスを落とされ、ちゅるちゅる耳を吸われながら、がくがく揺さぶられる。
背中に手を回したら汗でつるつる滑って、ぎ、と肩甲骨に爪を立てて引っ掛ける。
しがみついて、腰を浮かせて、もっと、もっと奥までとがっついて、泣いて。泣いて。
あまりに煩く叫ぶものだから、途中でアルに「もう、うるさい!」と口を塞がれてひっくり返された。
ひっ、ひく、喉が鳴る。だって、だって。やばいんだ、蕩けそうになるくらい、気持ちいい。
手で口を塞がれて、むぅむぅ言いながらぼろぼろ涙を零して、バックで腰を突き入れられる。
無意識に腰が上がって、ぺたりとシーツに顔を伏せて後ろを見たら、眉をしかめて熱っぽい顔で声を抑えてる
アルフレッドと瞳が合って、それもまたずくっと腰にきた。
テキサスの無い顔は意外に童顔で、昔のアルフレッドを思い出す。
あの頃は、まさかこいつとこんな関係になるとは。全く全く思わなかったけど。思ってたらイヤだけど。
っは、ぁ、アーサー、
必死で声を抑えて発熱しそうになる声でオレの名前を呼ぶのは、弟ではなく、恋人の声。
愛しくて、愛しくて、もう、それより今は気持ちよくて。
リズミカルに動く腰に、ひゃっと裏返った声を出してシーツに突っ伏して、
「奥にかけて」と泣きながら叫んだら、アルはぐっと怯んだ声を上げて、その後コンドームのない状態で、逐情した。
 
 
・・・・で、その後。
もう一回、と強請ってしゃぶって突っ込んでもらって、また泣いて。
もうだめ、無理、とへろへろになったアルの上にまたがってあんあん鳴きながら気がつけばもう第4ラウンド。
流石に最後はアルフレッドも勃たなくて、それでも「やだぁ」と泣きながら強請るオレに、
恋人は文句をいいながらも手と口を駆使してイかせてくれた。
というよりも、オレの方もきっともう出るものなんて出尽くして、イった感じなんてほとんどわからなかったんだけど。
ほぼ失神したみたいな感じで意識を手放したオレは、翌朝むっつりと苦虫噛んだアルフレッドの腕枕の上で目を覚ました。
 
「・・・喉が痛い、腰も。底なし。エロマシーン」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・泣かないでよ、ダーリン。薬は抜けた?」
「・・・ひ、ひっく、ぬ、けた」
「・・・もう、泣かないでってば。あれさ、俺があそこに居なかったらどうなってたと思うんだい、輪姦されるぞ、君。
 しかも合意の上の輪姦。最悪」
 
返す言葉が無い・・・情けない。
自分の性癖と酒癖の悪さは自覚していたが、まさか合法ドラッグにも弱いとは・・・。
確かに、あの状態でアルフレッドが来てくれなかったら、間違いなく輪姦されてた。
こいつの言う通り、きっと合意の上で、自分から強請って腰振って、恐らく終わった後に死ぬほど後悔してる事になってただろう。
もう二度とダウンタウンには行かない、そう伝えたら、そうしてよと掠れた声が返ってきた。
 
「エロい恋人を持つと、それだけで苦労するんだから、自覚してよね」
「・・・わかった」
 
けほ、叫びすぎた喉が痛くて同じように掠れた声を出して返事をしたら、アルは随分素直だね、と軽く驚いて、笑った。
確かに喉は痛くて、身体もだるくてシーツとかべしょべしょで気持ち悪いんだけど、後味は最悪なんだけど・・・。
そういえば、ここってアルの部屋か。久々に来た、こいつの部屋。
相変わらず片付いてない部屋は物が散乱してて、ごちゃごちゃ訳のわからないものばっかで、後で片付けてやろうと思う。
もう、一眠りしてから。
ちょっと寝るよ、俺。そういってオレの頭を撫でるアルフレッドに、言おうか、言うまいか、少しだけ悩んでから、あの、と結局切り出す。
 
「あの・・・・」
「・・・・・・・・・・・無理。もう、無理。エロ本ならそこにあるから、それでして」
「違、そうじゃなくて」
 
撫でてる手が、ぼっふぼっふと叩く仕草に変わる。
いや、流石に今日はもういい。オレももうくたくただし、明日会議だし・・・って、そうじゃなくて。
もう一度ちょっと考えてから、やっぱり「あのさ、」と小さく小さく、切り出した。
 
「アレ・・・あのラブ・ドラッグ、今度また二人で使いたいんだけど・・・・」
 
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 
悩んだ挙句に言った言葉は、瞬く間にアルフレッドの顔を心底微妙な微妙な顔に曇らせた。
その後真っ赤になったオレが恥を忍んで「な、なぁ、なぁ、いいだろ」とゆさゆさ身体を揺するオレに、ぷいと背中を向けるアルフレッド。
なんだよ、なんだよ、なぁ、アルフレッド!背中向けんなよ!
 
ぐす、と鼻声になったオレに、アルは「本当に、エロい恋人を持つと大変」と小さく言って、振り向いてオレの肩を抱いた。