side:U.S.A
「・・・ほんとに行くの?アル」
「うん。君は?」
「・・・僕はいいよ。アーサーさん、いい人だし」
「別に俺だって、アーサーが嫌な訳じゃないぞ。マシュー」
「知ってる・・・でもさ、」
「止めないでよ、ブラザー。俺は今日限りで、アーサーとの兄弟の縁を切る」
じゃあね。健闘を祈っててくれよ。
この日の為に新調した、深青のロングコートに、フランス側から流れたマスケット。アーサーはいつも、俺の青い目が綺麗だと、笑ってくれた。
相手はアーサー、腐っても大英帝国、覇権国家。
勝てるだろうか。勝たなければ。大丈夫。俺は強い。大丈夫だ。
足が震える、でもこれは決して恐怖から来る震えではなく。以前遠い東洋の国から聞きかじった言葉、武者震い?
かくんと抜けてしまいそうになる膝を叱咤して、前を向いて、拳を握る。大きい手。もう、子供じゃない。この手は昔のような、小さな手ではない。
守ってもらう、手ではない。
今日から俺は、君の手から独立する。
守ってもらうだけでは、嫌なんだ。
君と同じ土俵に、俺も立ちたい。君が何を見ているのか、感じているのか、聞いているのか。
何と戦っているのか。俺も、それが見てみたい。
後ろ姿はもう見飽きた。真正面に立って、両手を広げて君を抱きしめてあげる。
今度は俺が、君を守る。
アーサー。アーサー、この世で一番、綺麗な名前。
世界で一番、愛しい人。
君を手に入れる為に。
さあ行くぞ、アメリカ。親愛なる我が友、合衆国。
赤と青の星条旗靡かせ、あの人の元に。
「13の友よ、行こう、我が名はアメリカ。正義の名の下、自由を我らに!」
これは、愛のための戦争だ。勝利の女神よ、どうか俺の額に口付けを。
side:U.K
サー。準備が。
「わかった、今行く」
ばさり。
新調したばかりの赤いコート。
目立つからやめろと何度も言われた派手な軍服は、あのバカな弟に見せ付ける為だ。
アルフレッド。ばかに成長が早くて、生意気で、頭のいい、オレの自慢の、可愛い弟。可愛くて、その分、バカな弟。
何度言っても聞かない弟は、ついにオレの手を払って、喚きだした。
アーサー、俺、独立したいんだ。もう君の弟でもない。
君の手を離れて、一人で歩きたい。認めてくれよ。いいだろ?
バッカじゃねぇの。
あんなバカで単細胞で突っ走る事とでかい体しか脳が無い奴に、一人歩きなんて務まるものか。
オレの後ろに、いればいいんだ。ずっと、ずっと、ずっと、オレが守ってやるんだ。
世界はでかくて、黒くて、楽しい事なんて何もなくて。いくら傷ついたって、傷を癒してる暇などなくて。
ただひたすら走って走って、それでも終わりは無く、オレたちは引き返すことも前に進むことだって出来やしない。
あいつを傷つける奴は、許さない。あいつだって、わざわざあんな反吐の出るようなクソみたいな世界に、出ていく事なんてないんだ。
あいつは、何もわかってない。
こんなのは、ただの、子供の我儘だ。
出すぎた子供のお痛には、お仕置きが必要だ。アルフレッド。わかってるだろ?
深紅の軍服は、あいつが以前オレに似合うと笑ってくれた、オールドイングリッシュのバラの花と同じ色。
君の手から、離れたい。
思春期特有の、反抗期。こんなのは戦争ではない。調子に乗った子供の、疳癪だ。
二度とそんな言葉が出てこないよう、しっかりと教育し直してやる。悪い子には、仕置きも必要だ。
なぁ、アルフレッド?
お前は、オレを裏切ったり、しないだろ?
わかってるよ。愛しいオレの、アルフレッド。
「行くぞ。誇り高き海軍、我はグレートブリテン王国。調子に乗った植民地共を叩き潰せ」
これは決して戦争ではない。勝利の女神よ。どうか加護と慈愛を我が胸に。