「・・・どうだった?」
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・すごかった。
何がって、全部、色々、すごかった。女の身体って、すごい。ちゃんと男を受け入れるように出来てる。
そんでもって、男の身体よりも体力のない身体になってみて、改めて思う。
・・・こいつ、若い、ほんとに若い。
 
ぐたっと力の全く入らない身体、男の時よりも、だるさが残ってるかもしれない。
余韻?そんなのよくわからん、オレは女じゃないし、女を抱いた事もないし。今身体は何故だか女の身体だけど。
重力に逆らうことなく枕にずぶずぶ埋もれていたら、アルフレッドはもう一度、ちょっとだけムっと頬を膨らませて「どうだった、」なんて聞いてきた。
ソレ、雑誌で読んだ事あるぞ。
セックス終わった直後に感想を求めてくる男は最低。
なるほど、気持ちがよくわかる。ちょっと黙ってろ。寝かせてくれ。
 
「アーサーってば」
「・・・っるせぇな、色々痛ぇんだから、そっとしといてくれよ・・・」
「痛い?あ、血、出たもんね。すぐ拭くから」
「ッい、いい、いい、触んな、自分でやる!」
「遠慮しないでよ、後戯も男の甲斐性だろ」
 
してねぇよ、怒鳴って、上半身を起こすアルの身体をぺしんと叩く。
まだ汗の引いてない胸、あんまり変わって無いと思っていた自分の手は、アルの胸板に当てれば結構小さい。
力の入らない手でぺしぺし叩いてたら、アルは笑って、サイドボードに置きっぱのバスタオルで俺の身体を拭き始めた。
バ、バスタオルで血を拭くな!!膝頭を掴まれてがばっと広げられて、ぬるぬるしてる内腿をごしごし拭かれる。
でかく開いた足の間に、アルの身体。視覚的に昨日の夜のカッコを思い出して、ついでに、声とかこいつの体温とかも思い出して、
急激に体温が上昇した。
ぽい、とタオルをベッドの外に捨てられて、アルはオレの内腿をぺたりと触る。
 
「ヤ、だ、ってぇ・・・、」
「・・・感じださないでくれる?別に、変な事しようとした訳じゃないんだけど」
「だったら触んな!、ッ!」
「君、男で良かったよ。女性の身体だとエロ度が更に上がって、困る」
 
ぴくん、内腿を撫でられて、もう少し開くように促されて、薄くなった背中が勝手に跳ねる。
男の時とは違う、セックス後のべたべたした内股。確かに気持ちが悪い、拭いてもらうよりも、シャワーを浴びたい。
シャワーも浴びたいけど、寝たい。体よりも、何か、精神的にふわふわしてて、このままの状態で眠りたい。
それでもでっかい手に触られれば、あんなに限界突破してた身体が、勝手に反応して、火が灯る。
 
「、ん、いい、って、さわんなって」
「・・・ゴム、しなかったから」
「あとで流す・・・」
「子供とか、出来ないかな」
 
お互いに汗臭い身体。
耳元でぼそりと聞こえたアルフレッドの言葉に、オレはぱちりと目を開く。
 
「・・・・・・・・できるわけねーだろ」
「だよね」
 
笑ってテキサスを外すアルフレッド。
かちりとベッドサイドに置いて、そのままキス。
何かわからないけど、お互い目を開けたままだったから、いつ閉じるのかなと思って水色の瞳を見てたら、逆に目元を押さえられて、視界をふさがれた。
ぬるり、入ってくる、アルの舌。唾液を流し込まれて、こくんと小さい喉を鳴らす。
もう、味なんか覚えちまった。ちょっと肉厚で、柔らかくて、あったかくて。
左手で目元を押さえられたまんまで、こっちも口を開けて迎え入れる。舌を伸ばして、絡めて。
響く水音、わざとなのか、少し煽るように。
後始末をする為に内腿に添えられていたアルの右手、ぐっと力が入ったと思ったらそのままぱかりと開かれて、びくっと、まさか、と口を離して、頭を振った。
左手は、目元から外されない。
 
「何、」
「もう一回、いいでしょ、アーサー」
「・・・はっ?や、やだ、お前、ちょっと、」
「子作りしようよ」
 
クス、左耳間近で、聞こえるアルの笑った声。からかうような言葉、でも、息は弾んでる。
ぞわわっと背筋が粟立って、やめ、と抗議の声を発する前に、内股にいた手が伸びて、中指が一本、ぬるりとそこに入ってきた。
 
「ッ!!」
 
びくんっ!
一気に意識が、下半身に集中する。そのまま中で、くんっ、と折り曲げられる指、覆われてる掌の下で、ぎゅぅっと両目を、強く瞑る。
視界を塞がれてる状態で弄られる性感帯。この身体でのセックスの仕方は、昨夜のうちに勝手に覚えた。
勝手に濡れる、準備の要らない楽な身体。無茶な体位もすんなり出来る、柔らかい、女の身体。
少しだけ線の細くなった自分の身体でアルフレッドの背中に手を回せば、泣きたいくらいに、安心する。
強く抱きしめてもらえば、愛されてるって、安心する。泣きたくなる。涙が出る。
 
っは、ぁ、あ、やだ、
 
ぼろっと出てくるのは、指を増やされて勝手に出てくる生理的な涙か。
響く水音に混じって耳元で聞こえる、アルの荒い呼吸、興奮してる。オレに。この身体に?女になった、オレに?
 
「女性の身体だと、出したのそのままでも寝られるんだな。いつも君、腹痛くなるって、掻きだしちゃうから」
「は、ぁっ、や、やだ、拡げんな、やだ、アルッ」
「どろどろ。興奮する」
「ッ、あ、ヤ、ヤだ、挿れんな、やだ、 ッあ、あぅ、う、う・・・ーーー!」
 
ぬるり。
弾んだ息のまま、オレの視界を塞いだまま。
左足を持ち上げて、一気に侵入してくる、アルフレッドの性器。いつもは、こんなすぐには突っ込めない。
ローション使って、時間かけて解して、準備して、洗ってない日は、ゴムつけて。
何て楽ちんなんだろう、男とセックスする為の身体。こんな風に、心は全く同意してない状態でも、アルの顔が見えなくても。
身体は勝手に突っ込まれた性器をきゅぅっと締めて、始まる抜き差しに悦んで、喘ぎにしか聞こえない高い掠れた声を出す。
自分の声じゃないみたいだ。実際、いつも聞いてる自分の喘ぎじゃない。誰の声だろう、いつも以上にアルフレッドを興奮させてる、この、声。
派手な水音を立てながら叩きつけられる腰、掴まれていた左足はアルの肩に担がれて、ぐっと身体をくの字に曲げられる。
いつもはぎしぎし、身体が痛むのに、痛くない。くっと下半身に力を入れれば、耳元でアルの息を飲んだ音が聞こえる。
激しくなる挿出、合わせて、リズムに合わせて上がる、自分の悲鳴。
ぱちゅ、ぱちゅ、下の方から、ポルノでよく聞く卑猥な音が聞こえる。
アル、アル、手を伸ばして、汗でつるつる滑る背中に爪を立てて、名前を呼ぶ。
呼び返される名前、アーサー、オレの名前。愛してるぞ、耳元で言われて、塞がれていた手を外されて、明るくなった視界の中、水色の目と目がかちりと合う。
 
涙でぼやけた視界の中、アルフレッドは、動きを止めて、ビー玉みたいな青い瞳をでっかく開いた。
 
「な・・・っんで、泣いてるんだい、君」
「・・・・、・・・・・・・?」
「ごめんよ、痛かった?」
 
はぁ、はぁ、まだ、お互い息は上がってる。
肩に担ぎあげてたオレの足を降ろして、汗に濡れたオレの額を手で拭って、アルは心配そうに、オレの顔を覗き込む。
水色の瞳の中に映るのは、眉を顰めて、決壊したダムみたいにこめかみまで涙をだらだら流してる、自分の顔。
鼻を鳴らしたら、すん、と嗚咽みたいな声になって、それで、ようやく自分が泣いてる事に気がついた。
困った様に、まだ紅潮してる顔で、アルがオレの髪の毛を何度か梳く。中途半端で辛いだろうに、それでも動きを止めて、大丈夫?と聞いてくる。
 
「・・・あのさ、それ、感じすぎて泣いてるとかじゃないよね。ごめん、すぐ抜くから」
「アル、」
「何?」
「お前、オレの身体が女になって、嬉しいか」
 
合わせている水色の目は丸くなる。
言ってみて、自分の言葉に、涙に感情が追いついたように。ぼろぼろぼろっと更にダムは決壊、ずずっと鼻をすすって、もう一度涙声でアルに尋ねる。
女の方が、やっぱり、いいか。
自分で言って悲しくなって、それでその後、ひくっと一回、喉を鳴らした。
丸くなったアルの瞳は戻らない、そのうちに、金色の眉毛が「?」の形に、眉間に寄りだす。
どっちだよ、鼻を鳴らしながら手で目を擦ってアルに聞いても、アルは更に不思議そうに首を傾げるだけ。
 
「え・・・ごめん、言ってる意味がよくわからないんだけど。君が女性だといいって?え?」
「だからっ、男と女、どっちが好きかって聞いてんだよ!」
「いや、そりゃ、女性の方が好きだけど」
 
どっちが好きか嫌いかと聞かれれば。
そう、付け足して言うアルに、がんっと頭を殴られたような衝撃に、オレはついに、泣きだした。
何、何なんだい、ちょっと、アーサー!?
突っ込まれたまんま、女の身体でセックスしてる途中の状態で、オレは、わぁぁぁぁぁぁ、と声を上げて、泣き叫ぶ。
 
「ちょっちょ、ちょっと、アーサー!?ねぇ、何?なんなんだい、俺そんなに酷い事言った?」
「うっ、るせ、うるせぇ、ばか、ばかっばか!ばかぁ!」
「ばかとは何だい、ばかとは!」
 
ぼろぼろぼろぼろ泣きながら、突っ込まれたまま、足はでっかく開いたまま、俺はわんわん声を上げて、アルフレッドの肩とか胸をかをばしばし叩く。
訳がわからない、頭に「?」を一杯飛ばして何度もオレの名前を呼ぶアルフレッド。
お前なんかに、わかるもんか、「言ってくれなきゃわからないだろ!」うるせぇ、ばか。
ずっとずっと、突っかかってはいたんだ。
もともとストレートなこいつに、女とヤった事のないオレ、加えて何年も何年も、こいつに弟以上の感情を持って、片思いしてたオレ。
愛されてる事に自信がなかった訳ではない、でも、不自然だろう、男同士のセックスなんて。
大変だし、お互い痛いし、決して綺麗なモンでもない。ヤってる方だって、女の身体のが気持ちいいだろう。あんな硬い身体よりも、こっちのほうが。
考えないようにしてたんだ。ネガティブループにはまる前に、お前に愛されてる自信を持とうと、思い当たる可能性、そんなものは力づくでねじ伏せる、そんくらいにならないと、
こいつと居ても不安で押しつぶされて、死んでしまう。
もう一度信じてみようと決めたんだ。こいつの気持ちを疑わないようにと、それなのに。
 
子作りしようよ。
 
「どうせ、どうせっオレはお前の子供なんて、生んでやれねーよ!だったらお前の種残せるような、そのへんの一般人の女とヤってろよばかぁぁぁあーーーーっ!!」
 
うわぁぁああぁぁんっと大声あげて号泣するオレに、アルフレッドは本当に何の事だかわからないとでも言うように頭に沢山のハテナを飛ばして、
「本当に変な人だ」とでも言うように、頭を傾げた。
 
 
 
 
「・・・・・・で、この場合、俺が謝った方がいい訳?男の身体の君よりも、女性になった君に興奮してゴメンナサイって」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あとは何?女性よりも男が好きです、だっけ?ナチュラルにゲイ専宣言?いや、別にいいけどさ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 
目を点にした状態で固まるアル、わんわん泣くオレを何とか諌めて、オレは引っくり返った声で、ひくひく、思ってた事をぶちまけて。
全部告白し終わった後に、アルは「ばっかじゃないの」と予想に反して笑いだした。
 
「女性が好きなら、女性といるよ。君だって、男が好きだから俺と一緒に居る訳じゃないだろ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・ジーザス、まさかそれ?そういえば君って俺とこうなる前からゲイの受け専だもんね」
「ちっ、違う!オレは、」
「知ってるよ」
 
弾かれるように顔を上げれば、更に声を上げて笑うアル。からかわれてるような感覚、でも、悪くない、嫌いじゃない。
ぐしゃぐしゃと掻き回される濡れた金髪、湿った頭皮にキスを落とされて、恥ずかしさと、くすぐったさと、なんだかやりきれない切なさに顔を伏せる。
でかい胸に寄せられる頭。とくとく聞こえるこいつの心臓の音が愛しい。
いつだって、オレは怖いんだ。こいつがまたオレから離れたいって言うんじゃないか、やっぱり、男のオレなんて、イヤなんじゃないかって。
こいつが好きだ。すごく、すごく、でも、好きな分だけ、怖いんだ。
しくしく、しくしく、胸の中で静かに静かに泣いたら、アルは「珍しい、デレた君」と愛しそうに笑って、オレの背中をゆっくり撫でる。
頬を掴まれて、上を向かされる。涙の膜の張る視界、ぱしっとしぱたかせたら、アルはテキサスを外して、オレの額に口付けた。
 
「ずいぶんと気障な事を言ってあげようか、アーサー。君はそういうのが好きみたいだから。
 俺は、君の身体が男でも女でも、どちらも好きだよ。この先世界が変わって君がどんな姿になっても愛してるから、心配しないで」
 
・・・まぁ流石に、君が突然子供の姿になってしまったり、逆に歯が抜けた人生の大先輩のようになってしまったら、社会的にアレだけど。
セックスだけが愛の証である訳ではあるまいし。
君はそれを随分と重要視してるみたいだけどね。
 
からかうように言ってから、涙の乗ったオレの瞳をべろっと舐める。
ぅわっ、と反射的に目を瞑ったら、アルは笑ってそのままオレの身体ごとベッドにどさりと沈み込んだ。
 
「寝よう、何か疲れたぞ。君には愛されたり泣かれたり怒鳴られたり、変な勘違いをされたり、ああ、何て忙しい」
「・・・わ、悪かったな、だって、」
「でも、女性になった君に興奮したのは本当だぞ。だってすごく新鮮だから。また明日にでも男の身体になってたら、それもすごく興奮するんだろうな」
「・・・・・・・・・・」
 
お休み、スウィート。
テキサスをサイドボードに置いて、俺の身体を押しつぶしたまま瞳を閉じる、愛しい男。
単純で、まっすぐで、言葉に裏表が無い、オレの元弟。
 
色々まだまだ不安はあるけど、不安になったら、その度に言おう。そうして、また前を向く勇気を、こいつから貰おう。
こいつは、オレが好きだって、その度にきっと言ってくれるから。
 
「・・・オ、オレも、お前がどんな姿になっても、好きだからな」
 
そう小さな声で、あったかい胸の中でぼそりと言ったら、頭の上から「サンクス」と笑う声が聞こえた。