「ハイ・・・あ、ああ、アル?どうした」
『ハイ。まだ起きてた?ちょっと聞きたい事があって』
「何だよ。そろそろ、オレ寝るから」
『君の家って、電話する時に服を脱ぐ癖があるって、あれ本当かい?』
 
 
軽く首を傾げて、右肩に携帯を乗せて。
自由になっている両手で、着たばっかのパジャマのズボンに手を掛けていた所でそんな事を言われて、
今自分のしてる格好を見て、はたっと気づいた。
電話をしてる時に脱ぐ癖が・・・・あ、ある!今、脱ごうとしてた、オレ!
あっぶねぇ、と思いながら、慌てて電話の向こうのアルフレッドにばぁか、と返す。
 
「んな癖、ねぇよ。くだらねー電話なら切る。じゃぁな」
『ウェイト、嘘つき。今脱ごうとしてただろ』
「・・・・・・・・・・・」
『ほら、黙った。図星?』
 
によ、と電話の向こうで笑うあいつの顔が思い浮かぶ。
ぴょんと飛び出たナンツケットがふりふり尻尾を振って、ぷすぷす笑ってるに違いない。
こうしている間にも無意識のうちに右手はパジャマのボタンを外して、ゴムのウエストに手を掛けてる。
うるせーな、だから何だよ。
開き直ってそう言って、マットレスにぼふっと腰掛けて、反動でゴムの部分を尻から下ろした。
確かに何でオレってば脱いでるんだろう・・・小さい頃からの癖だったから、特に気にはしてなかったけど、
改めてこうして電話しながら服を脱いでいるというのは、我ながら不思議な行動だ。
認める?というアルフレッドの問いに、認めるよ、と言いながら腰を上げて、するっと綿のパジャマを下ろす。
長袖から腕を抜いて、携帯を持ち替えて、反対側の手も抜いて。
新品のトランクス一丁の身体をふかふかした布団に投げ出したら、電話の向こうでDDDDと笑うアルの声が聞こえた。
 
「何笑ってんだよ、ばか。仕方ねーだろ、こっちのが落ち着くんだよ」
『俺ね、考えたんだよ。何で君の所って電話中に脱ぎ出す奴が多いのか』
「・・・・・・・・?」
『癖だろ?それ。癖ってのは長年掛けないと身体には染み付かない。
 的中させよう。ずばり、君の所は電話中にテレフォンセックスに及ぶ頻度が高いからだ』
 
テレフォンセックス。
当てていた電話越しからダイレクトに入ってくる言葉に、あんまりに頭に来て、何言ってんだこのばか!と
思わず電話を投げつけそうになった。
 
「人のお国事情をいちいちエロに結びつけんじゃねーよ、ばかちん!」
『絶対そうだって!断言するぞ、間違いない』
「認めねー!ただ単に、裸のが落ち着くだけだ!だいたいテレフォンセックスなんて、
 何処のポルノビデオだ。ばかじゃねーの」
『あれ?した事無い?』
 
予想外、とでも言うようなアルの声に、その反応が逆に予想外だと、オレもぅぐっと言葉を詰まらせる。
・・・・・・・・・・・なんだよ、ねーよ。だいたい、こんなに通信機器が発達してからは、お前と以外してないし。
お前はあんのか。だったらそっちのが問題だ。
静かにそう聞いてやったら、「ノーコメントで」とははははと大声で笑われた。
 
「なんだよ、それ。した事あんのかよ。答えによっちゃぶん殴る」
『過去のプライベートにまで口を挟んでほしくないな、アーサー。
 ねぇ、折角だから証明してあげるよ。した事ないなら、ちょうどいいだろ』
「え゛」
 
言うなり、電話の向こうで何かごそごそ、布擦れの音が聞こえ出した。
ごそ、ごそ。しゃー、ずるっ。かちゃかちゃと時折聞こえるのはベルトのバックルの音だろうか。
電話越しに、ちゅっと音を立ててキスされて、何やってんだと、ざぁっと血の気が下がった。
 
「なっな、な何やってんだ、バカ!何する気だ!」
『何って・・・言っただろ、テレフォンセックス。ほら、君も脱いで。ああ、脱いでるんだっけ?』
「ばっかじゃねぇの!おい、もう切るぞ!」
『待ってよ、ダーリン。俺ってばもうやる気まんまんで臨戦態勢なんだぞ』
「知るか!!」
 
煮えた頭がぴーと音を立てる前に切ってやろうと、通話終了ボタンを押そうとしたら、
熱を帯びた38度の声で、アーサー、と名前を呼ばれて、かぁっと顔が熱くなった。
はぁ、電話の向こうのアルの声が高くなる。ごそごそ、聞こえるのは布擦れの音と、少し荒い、息遣い。
ちょ、ちょっちょ、ちょっと待てよ。な、何してんだよ、アルの奴。おい、おいって。
電話越し、ナマで聞くよりも少しだけ低いトーンの恋人の声。
再度、アーサー、と切なそうに名前を呼ばれて、無意識にごくっと喉が鳴った。
 
「な、何やって、おい、ちょっと、ほ、ほんとに切るぞ」
『待ってってば。ねぇ、君もしてくれよ。君の声が無いと、イけない』
 
ね、と擦れた声で言われて、耳元にくっつけていた電話を離したくなる。近い、声が。
っふ、と詰まった声が電話越しから聞こえて、もう一度俺はごくっと喉を鳴らした後に、ゆっくりと右手を胸に這わせた。
色の薄い、胸の飾り。女なんかじゃないのに、ここを好きになったのって、そういえばいつからだろう。
親指と人差し指できゅぅっと摘んで引っ張ったら、ひぁっと小さな、高い声が無意識に出た。
やば。ちょっと、オレ。
電話の向こうで、アルが笑ったのがわかる。
オーケイ、ノったね。
ちゅぅっと携帯からキスの音が聞こえて、ああ、畜生、と思いながら、オレは電話を持っている手を持ち替えた。
 
 
 
 
『ちょっと、まだそっち触らないでくれよ。いつも俺そんな触り方しないだろ』
「・・・さっ、触ってねぇよ、ぁ」
『先に内腿撫でて、爪で引っ掻いて。ちゃんと足広げてる?』
「ぅん、あ、はぁ・・・っ」
 
なんて事はない、流石は、オレだ。
ただ、こいつにノせられて、ちょっとしてやられたような気はするけど、電話をしながら
大股開いて、お互いに気持ちよく一人エッチしてるだけだ。
テレフォンセックス?そんなんじゃない、そんな、お決まりの王道ポルノみたいなもんじゃ・・・あ、ん。やば、気持ちいい。
ちゅく、電話の向こうで何かの水音が聞こえる。
はぁっと聞こえる、聞きなれた熱そうな息に、イヤでもこっちの熱もぐんっと増した。
言われるままに、大きく開いた内腿をかさかさした手の平で擦る。
違う、こんな手じゃない。いつもだったら、少し肉厚ででっかい、すべっとした掌がゆっくり撫でてくれるのに。
時々、ちゅぅっと唇をつけて、軽く吸って、跡をつけながら。
腹につきそうな自分の性器。触りたい、触りたい。さっき、我慢できずにちょっと扱いたら即効バレて
「ちょっと、」と非難がましい声を出された。
 
「っあ、アル、ぁ、し、したい」
『ねぇ胸は?弄ってる?ちゃんと両手使ってよ。折角電話越しにセックスしてるんだから、一人でしてる時みたいにしないで』
「んっあ!ひぁ、あぁあ!」
 
肩に携帯を押し当てて、左手で言われるままに乳首をぎゅっと引っ張る。
自分の手の筈なのに、違う手みたいな感覚だ。
いつもアルが噛んでくるみたいに先端に爪を立てたら、痛いくらいの感覚に喉から高い音が出た。
あ、やだ、だめ、だめだ。
はぁはぁ、喘ぎながら内股に彷徨わせていた手を上を向いてる性器に当てる。
先端から蜜を流すそれに右手を添えて軽く握ったら、ぐちゅ、という淫猥な水音が漏れた。
 
「はっ、はぁ、ぁ、アル・・・!」
『あーあ、もう、ちゃんと焦らしてよ、エロ大使。我慢の一つも出来ないのかい』
「っだって、あ、ぁあっ・・・」
『名前呼んで、アーサー、俺の名前』
 
普段とは違う、ベッドの中でしか出さない、甘い声。
いつもバカな事しか言わない、こんな事に無縁そうなこいつだから、よけいにギャップで興奮する。
オレなんかより、ベッドでのこいつの方が、よっぽどエロだ。
アル、とこっちも負けずに甘く名前を呼んだら、愛してるぞなんて、完璧に予想してなかった返事が返ってきた。
熱い声。畜生、負けるか。
ぐ、ぐちゅ、痛いくらいに握って、リズミカルに上下に扱く。
扱いてるうちに先走りの液はだらだら、握ってる右手にとろとろ流れる。
いつも「女の子じゃあるまいし」とからかわれるけど、この事か。全体に塗りつけるみたいに手のひら全体で伸ばしたら、
滑りの良くなった性器がぐん、と質量を増した。
はっ、あ、ぁ、アル、アル、アル。マットレスに倒れて、顔を横向きにして携帯を耳に当てながら、うわ言みたいに名前を呼ぶ。
ごくっと向こうで喉が上下する音が聞こえて、向こうも興奮してるのかと思うと嬉しくなった。
はぁ、はぁ、息が上がる。電話から聞こえる、あいつの声も。
どっちが煽ってんのか煽られてんのかわかんなくなって、無意識に自分の胸に爪を立てた。
ぎゅぅ、指で摘まむ乳首は軽い痛みを訴えて、それでもぐりぐり先端を潰す。
いつも、アルは痛いって言っても噛むのを止めてくれない、それを思い出して、きりきりきりきり、爪を立てる。
右手の動きが速くなって、あ、やばい、いきそう、そう涙声で電話に訴えたら、ちょっと待って、と上がった息で制止された。
 
「やっなっ、あっ、いく、いく、アル」
『待ってってば、待って、挿れたい。挿れさせてよ。解して、後ろ』
「な、に、言って、っあ・・・」
『聞いてる?ダーリン。一人でイく前に、後ろ自分で解して』
 
ね。
電話越し、耳に携帯を当ててる状態で、上がった息でちゅぅぅっと音を立ててキスされて、びくっと体が跳ねた。
 
 
 
 
「・・・っ、ん、んんんん・・・・・んー!」
『可愛い声。アーサー、何本入ってる?』
「っあ、に、にほん、んんっ」
『どの指?』
「はぁ、あ、な、かゆびと、くすりゆ・・・っ、ゆび、はぁ、ぁあ!」
『いいよ、掻き混ぜて』
 
バカみたいに指示を貰って、きもちいい?と尋ねられる声に、電話越しなのにこくこくと頷いて、足を広げた真ん中に突き立ててる指をぐるぐる回す。
中で少し広げて、折り曲げて、引っ掻きだすみたいにかりかり擦る。
震える手でベッドサイドに入ってるローションを取り出して、口で蓋を開けて。
ストロベリーの香りのするそれを下半身にぶちまけて滑りをよくしたら、指を前後させてる個所はちゅぷちゅぷと厭らしい音を立てた。
はぁ、はふ、頭の悪そうな息使いは、さぞかしだらしない顔をしてるんだろう。
電気をつけっぱなしの部屋で、全裸で大股開いて尻の穴弄ってるオレの姿は、きっと果てしなく滑稽に違いない。
どうせ、相手には見えないからどうでもいい。
胸につくくらい足をぐぅっと折り曲げて、もっと深くまで触って欲しくて、根本まで指を突っ込む。
ぐずぐずに蕩けたそこは、3本目の指もあっさりとすぐに飲み込んだ。
 
『いいよ、アーサー、俺もいきそう。ねぇ、もっと鳴いて』
「やだぁ、やだ、やだ、アル、届かない、ん、あぅ・・・っ」
『大丈夫だよ、君が好きなのは結構浅い所だから。
 君ってば入れる時より抜く時の方が感じるんだから、突っ込むだけじゃなくてちゃんと出したりしてよ』
「んん、ぁん、あ・・・っ」
 
ああ、すっげぇ、やばい、気持ちいい。
一人でしてるのに、手は間違いなく自分のものなのに、半端なく興奮する。
煽っているようにわざと出す甘い嬌声は、そのまま自分の耳にも入ってダイレクトに脳髄に響く。
向こうにいるアルも、同じように興奮してるんだろうか。オレの声を聞いて、想像して、一人で抜いてるんだろうか。
電話片手に自慰してる恋人を想像して、アルぅ、と掠れた声で名前を呼んだ。
なに?アーサー。掠れた、弾んだ声。ああ、やってるんだ。
自分で、いつもオレに突っ込んでるでっかいのを取り出して、肉厚な手で、透明な液を擦り込みながら扱きあげて。
オレみたいに、後ろに指突っ込んだりはしてないだろうけど。そういえば、アルフレッドが一人でヤってるとこって、見た事無い。
どんな顔してんだよ、と聞いてみたら、『写メールでもしてあげようか』と冗談みたいに笑われた。
 
『イきそうで泣きそうなアーサーの顔想像して、やってるよ』
「っあ、あ、あ、アルッ、アル、いきそう、もっと喋って」
『いいよ。ねぇ、下の口の音も聞かせてよ。ダーリン』
「へっ、へんたいっ!」
『君に言われたくないんだぞ。あー、やば、いきそう』
 
は、ふ、電話越しの声もだんだんと間隔が狭まって、断続的な音になる。
イきそうな時の、アルの顔。金色の眉毛がぎゅっと寄って、ちょっと柔らかい頬が紅潮して、青い瞳が少し潤んで。
薄く開いたぽってりした口から発せられる名前は、オレの名前。いつもオレの名前を叫んで、セックス覚えたてのガキみたいに、腰振って。
アーサー、アーサー、浮されたように呼ばれる名前に、引き摺られてこっちもずくずく下半身が痺れる。
中に突っ込んでる指をぬぷぬぷ出して、入れて、ひ、は、と呼吸のままに声を上げる。
ちかちか、頭の中で真っ白なスパーク、足元からきゅぅぅぅぅっとせりあげる、射精感。
ぅあ。いく。
仕上げみたいに、電話の向こうからじゅる、と何か吸われる音が聞こえて、
オレは携帯に頭を擦り付けて、びんっと足と背中を突っ張らせて、
シーツや身体が汚れるのも構わずに、勢いよく射精した。
 
「・・・っあ、ぁ、っあ」
 
びく、びくっと断続的に奥に残っていたものが搾り出されて、その度に敏感になってる体が跳ね上がる。
はぁっ、はぁ、はぁ、息が収まらない。全力疾走した後みたいだ。
電話越しのアルフレッドの声もだいぶぜいぜい掠れてて、もしかして、一緒にイけたんじゃないかと、
嬉しくなって、顔が緩んだ。
アル、突っ込んでる左手をずるっと抜いて、未だ熱の醒めない声で小さく問いかける。
何?はぁはぁ、向こうも整わない息のまま、聞き返す。甘い声。終わった後特有の、ピロートークみたいだ。
愛しい。好きだ。
顔を見てる状態じゃ絶対に言えない、でもいつも、思ってる。
いつのまにかでかく育った男の身体も、ちょっと汗臭い匂いも、オレの上で切なそうに眉を顰めて腰を振る姿も、
テキサス越しの、空色の瞳も。手も、声も、体温も。
 
会いたい。
そう、小さく呟いたら、電話の向こうから『了解』という声。
 
と、共に、窓の下に、ぱぱっと眩しい灯りが点いた。同時に鳴らされる、パンっという軽いクラクション。
え?
思わず、目が丸くなる。
電話越しと、窓の下から同時に聞こえる、ばたんっという、車のドアの音。身体を起こして、ベッドサイドの窓に近寄る。
窓から消える、カーランプの光。
まさかと思ってカーテンを開けたら、予想外だけど予想通り、トレードマークのフライトジャケットに金髪の男がこちらの窓に手をふりふり、
「ハロー」と声を上げて笑ってた。
 
『ハロー』
同時に聞こえるのは携帯電話のスピーカー。窓の下には、口パクで笑う、今してたテレフォンセックスの相手。
うそ。そう思って裸のまま固まってたら電話から楽しそうな笑い声が聞こえた。
 
 
『ヘイ、ちょっと。開けてよ、ダーリン』
「ア・・・アル?おい、ちょっと、ウソだろ」
『また君の見てる空想だとでも?おあいにくさま!君の声ってば、外まで聞こえてたぞ。このエロ大使』
「・・・・・・・ッッ!!」
 
からかわれるように笑われて、瞬間がーっと顔に血が上がって、思わず携帯を投げつけそうになる。
二階から右手を振りかぶったオレに、窓の下に居るアルフレッドは『ちょっと、開けてってば、寒いぞ』と文句を言いながら、
こつこつこつこつ、扉を叩く。
一階の、リビングの奥から聞こえるノックの音。どうやら、夢でも空想でもないらしい。
アル、ちょっと、え、ほんとに?
 
 
慌てて飛び起きて、ほっぽり投げてあったパジャマを引っ掴んで。
電話越しに、『早く、ベッドで続きをしようよ』そう低い声で笑いながらドアをノックする相手に、「ライト」と笑いながら階段を下りて。
 
 
扉を開けるのと同時に携帯を切って、そのままでかい身体に飛びついた。