「やっやだ、やだ、おい、落ち着け、アルッ!」
「落ち着いてるってば、アーサー。何度も言わせないでくれる」
「落ち着いてねぇだろ!おい、正気に戻れ!!」
「俺はいつでも正気だぞ。ほら、ねぇ、さっさと脱いでよ」
 
アーサー。
 
ひくっ、と鳴る喉、赤い顔。うるうるになった青い瞳に、少し舌ったらずになった、声。
畜生、流石は、オレの弟だ。
ただでさえ弱いその顔、アルはとろんとした顔でじりじり近づき、オレは思わず「わぁっ!」と声を上げて顔をぎぎぎと押してしまう。
ちょっと、と、不満そうに舌打ちしてオレの手をひっぺがす、アルフレッド。
吐く息はそのままオレの顔に、その息は限りなく・・・・酒臭い。
 
・・・ち、ちくしょ、畜生、誰だ、まだ、身体は未成年のこいつに、酒を入れたバカヤローは!
 
手首を掴まれて、そのまま自慢のばか力でぎぃっと押さえつけられて、酒臭い唇で、そのままキス。
ちょっとだけ苦い、アルコールの味のする舌、流し込まれる唾液、何度か角度を変えられて重ねられる唇に、くらくらする。
こいつほどではないけど、それなりにオレだって飲んでんだ。
角度を変えられる度に深くなるキスに、絡められる熱い舌に、至近距離で揺れる、閉じた瞼の金色の睫毛に。
流されてなるものかと思いながらも、大好きなこいつと、気持ちいい事の大好きなオレが抗えるはずも無く。
はふ、と呼吸の合間に呼ばれる名前、発熱しそうに熱い項、ゆるゆると、ゆっくり、髪の生え際に指を這わす。
アル、名前を呼んで、こちらから唇を重ねたら、アルフレッドはぐっとオレの髪の毛を引っ掴んで、
珍しく少し乱暴に歯をがちんとあわせてきた。
 
 
 
 
はぁ、はぁ、アーサー、
 
「っん、んん・・・ん、苦し、」
「ちゃんと、舐めてよ」
「ぅん、んー・・・!」
「あー・・・すっごい、エロい。ねぇ、顔見せて」
 
ぐっと両手で頬を掴まれて、無理やり顔を上げさせられる。
はずみで、かちっと前歯に先端が当たって、そうしたらアルフレッドの剥き出しの太腿はびくっと震えた。
 
「噛まないでよ」
「ご、ごめ、」
「弄って、自分で」
「ッ、ん」
「ほら」
 
元弟で恋人のアルフレッドの性器をしゃぶりながら、上目遣いで、青い瞳と目を合わせる。
エロい顔、してんなぁ。
流石はオレの弟だ、そんな事を思いながら、何でこんな事になってんのか、冷静な頭の隅で考えて、再び目を瞑って、
ぬるりと舌を動かした。
 
 
 
 
会議後の打ち上げ、軽いガーデンパーティ。
アルの姿が見えないと思ったら、突然BGMが激しいアメリカンロックに変わった。
ボン・ジョビ、エアロスミス、ミスター・ビッグ。しかも恐らくボリュームは最大、バカみたいにシャウトするボーカルに、思わず「うわっ」と耳を塞ぐ。
なんだなんだとざわつく会場、注がれる視線は、真っ直ぐオレに。
・・・・・な、なんだ、なんだよ、オレじゃねぇよ!
持ったままのモルトグラス、フランシスが手作りしたというチョコレートを口に含みながら、眉を顰めて、ついでに空いた片手で耳を塞いで辺りを見回す。
オレじゃねぇぞ、チョコレートを飲み込みながら叫んだら、「誰もお前だなんて言ってないでしょ」そう、同じように耳を塞ぎながら
フランシスがぼやいた。
 
「・・・アルフレートだろ、止めて来い」
「・・・アル?」
「こんな下品なメリケンロック爆音で流すの、あいつしかいないでしょー!美しくない、耐えられない、止めてきて!」
 
ブロンドを振り乱しながら、ワイングラスを傾けて、わっと泣き出すフランシス。
だったら、お前が止めてこいよ!ばこすとさらさらのブロンドを引っ叩いて、ぐいーとグラスを煽る。
琥珀色のストラスアイラを一滴残らず口に含んで、モルト樽でつけたレーズンも手に取って。
もしゃもしゃ、茎ごと齧って睨んだら、フランシスはぱちりと金色の睫毛をしぱたかせて、「喧嘩でもしてんの」と呆れて言った。
 
・・・・・・してる訳じゃないけど。いや、してんのか?ただ単に、あいつが何か知らないけど怒ってて・・・
何かしたのかと聞いてもぷくっと頬を膨らませて「いいよ、俺も同じことをしてやるから!」と怒鳴ってばんっと扉を閉められたのが、今日の朝。
会議でも直接のやりとりは無いまま、顔を合わせてこっちが挨拶しようとしても完全無視。
むかついたっつーよりも何だかショックで、一体何で怒ってんだと頭を巡らせても思い当たることもナシ。
気まずい、そう、ぼそっとフランシスに言ったら「なおさら行って来い!!」と長い脚で背中を蹴っ飛ばされた。
 
・・・・・・・・・・・・・・・で、今、この状態だ。正直、オレが何故どうなってこんな事になってるのかが一番わからない。
視聴覚室をノックしてそろっと中を見たらこいつが居て、それが何でか、泥酔してて。
普段絶対にアルコールなんて口にしないから、転がった酒瓶にぎょっとして近寄ったら、そのままでっかい手で腕を引っ張られて、
床に押し付けられて、ひん剥かれた。
 
 
 
 
「ぅあ、あ、あっ!無理、むり、ぃ、アル、アル!」
「無理じゃないだろ、エロ大使。ほら、ちゃんと支えてよ」
「ヒッ、あ、あ、あ」
「きっつい、力抜いて」
 
ぱちん、と剥き出しにされた尻を叩かれて、ロクに慣らしてない状態で、バックから無理やり突っ込まれる。
スラックスのみを脱がされた身体は視聴覚室のオーディオ機に乗せ上げられ、あちこち妙なボタンがいっぱいある電子板は、
何処に手をついていいのかわからない。
こ、これ、主電源、どれだ?
目の前にあるのは透明なガラスに、丸い平型のマイク、誤って声なんて拾われたら、たまったもんじゃない。
ぞわっと背中が鳥肌立つのを自覚して、ぴかぴか光るボタンのランプにぎょっとして、頑張って踏ん張って、何とか必死に声を耐える。
冗談じゃねぇ、これ、主電源落ちてねぇじゃねぇか、スピーカー何処だよ、
ぎ、と奥歯を噛んで、手を前のガラスについて踏ん張ったら、アルフレッドは「きついってば」と文句を言って、
再度オレの尻をパン、と叩いた。
 
「痛った、ア、アル、なぁ、ば、場所、変えて・・・」
「どうして?ここ、すごくいいじゃないか。目の前の透明ガラス、あっちの部屋から来た人に丸見えだし」
「や、ッ」
「そのマイク、電源入ってる?さっき俺が爆音で流したロックみたいに、会議場全体に聞こえるんじゃない、君の声」
 
ぎち、ぎち、あまり濡れてない状態でゆっくり突っ込まれながら、熱を帯びた声で、耳元で笑われる。
はぁ、いつもよりも少し上ずった声、いつもベッドで聞かされる、大好きな声。
ぐいっと目の前にあるマイクを口元に近づけられて、まさか、と思いながらも鳥肌が立った。
 
「ねぇ、ほら。声、出してよ」
「やっ、だ、抜けっ・・・!」
「やだってば、折角入ったのに」
「ッア!」
 
ずる、ちょっとだけ引き抜かれて、その後根本まで、一気に突っ込まれる。
痛いくらいに尻を掴まれて、ぐぅっと広げられて、でかいのがぎちぎち、腹の中で一杯になる。
はは、すごい、やらしい
酒臭い息で笑って、アルフレッドはもう一度ゆっくり腰を引いて、そのまま音が出るくらいの強さで、オレの腰を引っ掴んで、がんがんと腰を打ち付ける。
ぅあ、ずるっと、ついてた手が滑って、というよりも、立った状態では身体を支えてられなくて、がくがくと下半身を揺さぶられてひん、と勝手に喉が鳴った。
 
「あ、る、やだ、やだってば・・・!」
「なんで?ここ、好きだろ」
「ぅ、あ、あ!あ!やだっ、あ!」
 
腰を高く高く上げられて、浅い部分にある前立腺を擦り上げられる。
行為になれた身体、突っ込まれて喜ぶどうしようもない身体は簡単に快感を拾って、ぞくぞく、おかしな感覚を生む。
こいつとのセックスは、だいたいいつもがっつくのはオレで、もっと、と泣いて強請るのもオレで。
やだ、こんな否定の言葉はいつだってウソばっかりで、それを知ってるアルだって、プレイの一環として、楽しんでるはずなのに。
今回ばかりは、ほんとにイヤだ。
ぞくぞくするスリルとか、背徳感とかよりも、こいつとは、普通にベッドで裸で抱き合って、きちんとしたセックスするほうが、好きなんだ。
第一、お前だって、そういってたじゃねぇか。
こんな誰かが来そうな場所であるとか、声とか、カッコとか、制限のあるようなやりづらいセックスなんかよりも、そっちのがいいって。
何よりも、オレのこんな姿、誰にも見せたくないって、言ってくれた時は、嬉しかったのに。
 
「ぁう、あ、あー・・・ル、ある、」
「気持ちいい?ねぇ、エロ大使。顔見せてよ」
「っひ、あ、やぁ、」
 
ずる、後ろで粘着質な音を立てるのは、さっきパーティでオレが食ってたチョコレート。
フランシスのお手製の、あんまり甘くない生ショコラ。まさか、こんな使われ方をされるとは。
ふわりとカカオの匂いが鼻を突いて、こんな視聴覚室で、元弟とセックス。使う潤滑油は、チョコレート。
しかも相手はほぼ泥酔、酒臭い息がうなじにかかって、本気でオレって何やってんだろうと、泣きたくなった。
 
「アル、アル、ヤだ、」
「やだやだって、可愛くないな、ちょっと、君やっぱりこっち向いて」
 
むっとした声、その後に突然ズルッと抜かれる性器、ひぁっ!とぞくぞく背筋が泡立つのと同時に、ぐるりと視界が180度回る。
視界に入るのは白い天井、少し目元の赤い、アルフレッドの顔。
だん!とミクスチャーブースに身体を押付けられて、片足を担がれて、右手を添えて、もう一度、ゆっくりと突っ込まれる。
 
「っぅ、う、うー・・・!」
 
ずぶ、ずぶ、わざとやってんのか、ゆっくりゆっくり進む、アルの性器。
肩に担がれた左足、太腿に手を添えられて、ぐっと尻を開くように押付けられる。
ぅあ、あ、や、やだぁ、身を捩って否定の言葉を投げれば、アルはアルコール臭い息で、ははっと笑う。
 
「挿れるんなら、早く挿れろって?ねぇ、ちょっと、見せてあげたい、俺らが繋がってるトコ。チョコでべたべたで、すんごいエロい」
「ば、ッか、抜け、抜けよッ・・・!」
「いつもベッドで言ってるみたいに、おねだりしてよ、アル、もっと、早くって。ねぇ、ハニー」
「ッヒ、あ!やだっ、やだぁぁあっ!」
 
言うなり、ものすごい勢いで挿出開始。
押付けられたミクスチャーテーブル、平べったいポタンが、背中にあたってちかちか光る。
や、やだ、これ、おい、ちょっと、アルフレッド!
本気で、さっきこいつが爆音で流していたみたいに会議場に音が漏れてたらどうしよう、こいつに限ってそんな変態的な趣味はないとは思うけど、
酔っぱらってる状態だ、信用できない。
一応、オレの元弟だ、酔ったらどれくらいぶっ飛ぶかなんて想像できる。
音源がオンになってることだって、もしかしたら、本当にあるかもしれない。
イヤだ、と唇を噛んで声を耐えれば、アルは前立腺を狙うように更に足を高く担ぎ上げて、浅く早く、結合部を凝視しながら、腰を早める。
時たま一番奥までずんっと突かれて、ひぁっ、と高く声が上がる。
もう片方の足も、アルの肩に担がれて。上半身をくの字に折り曲げられるように押付けられるでかい身体、頭の横に突かれる、大きな手。
突いた手の下には、そこにも何かの、光るボタン。振動に合わせて、切れたり、点いたり。
何のボタンなのか、ぞわぞわ走る悪寒、休む事無く突かれる性感帯、恐怖と快感がないまぜになって、それでも必死に声を抑える。
息のかかる距離まで顔を近づけて、肘を折ってオレの額にキスをしたアルは「声、出してよ」とくすくす、耳の近くで小さく笑った。
 
「ほら、マイク。ここまで近づけなくてももう聞こえてると思うけど」
「・・・・・ッ!!」
「アーサー、ほら、ねぇ。気持ちいい?いつもみたいに、言ってってば。可愛く、いい、って」
 
ぶつん、音が聞こえたと思ったら、スピーカーから反響する、アルの声。
ねぇ、アーサー?
声を拾ったマイクは、そのままスピーカーに伝わって、反響する。
狭いミクスチャールーム、目の前にあるのは平マイク、口元に持ってこられて、はぁはぁ、自分の声も、反響する。
冷えた背中が一気に粟立って、一瞬、快感よりも嫌悪が勝つ。
いい加減にしろ、そう、怒鳴ってやろうと息を吸ったら、そのまま、アルコール臭い口に塞がれた。
 
ん、む、ぐ、
火傷しそうなくらいあっつい舌がぬるっと入ってきて、そのまま、奥に引っ込んでる舌を絡め取る。
何度も変えられる角度、むぐむぐ、食ってるみたいに舌を噛まれて、んむっと口の中で抗議する、苦しい。
角度を変えるたびに漏れる水音、ちゅく、という小さな音すらマイクは拾って、狭い部屋に濡れた音が反響する。
飲み込みきれずに流れる唾液、アルはそれを左の人差し指で拭って、そのままオレの耳の穴に突っ込む。
ぐちゅ、鼓膜を犯される様な濡れた音に、びくんっと身体が大きく、しなった。
合図のように、再度前後に動かされる腰。深いディープキスをしながら、ゆさゆさ、ゆさゆさ揺さぶられる。
両足は相変わらず、こいつの肩に。無茶な体勢でキスして、動くもんだから、自然にがちんと前歯はぶつかる。
痛い、そう思って眉をしかめて顔を背けたら、がっしと両頬を押さえつけられて、もう一度、唇で唇を塞がれた。
 
「っん、ん、ん、んん、んん、んー!んー!!」
 
ぐちゅぐちゅ、絡められる舌、がすがす、奥まで突っ込まれる性器、くの字に折りたたまれた身体が、悲鳴を上げる。
瞑った目からは涙がぼろぼろ、自由になってる両手で、ぐいぐいとアルの金髪を引っ張って掻き毟る。
やだ、やだやだって、アルフレッド。
身体が痛い、繋がるならきちんと抱き合いたい。唇をくっつけられたまま、後頭部を押さえつけられて、更に深く、奥まで入れられる熱い舌。
キスが激しくなるのと比例して性器の出入りも早くなる、前立腺がごりごり擦られて、意識が飛びそう。
はぁ、ぁ、んぅ、んんん、近くにあるマイクがお互いの呼吸の音声を拾って、耳を犯す。
自分の喘ぎ声なんて、聞きたくない。
自由になる両手、アルの髪に突っ込んでた右手で、遠くにやろうとばしんと叩く。
アルはそれを見て、音を立てて唇を離すと、片手で唇を拭っていやらしく笑った。
 
「あ、いいこと考えたぞ。君が声を聞かせてくれないなら、こっち。あはは、ねぇ、ちょっと変態くさいかな」
 
拭った手でマイクを掴むと、アルは下半身にマイクを向ける。
そのまま固定、オレの両足を抱え直して、まさかと目を丸くするオレの瞳にキスをして、わざと音を立てるように、大きく挿出を開始した。
 
くちゅ。スピーカーから聞こえる、濡れた音。
やりやがった、ざぁっと血の気が引いていくにも関わらず、頭と体の温度は一致しない。
狭い部屋に、自分たちの繋がってる音が、卑猥に響く。
派手に動けば、その分音も倍に、耳から犯される感覚に、オレは首を振ってイヤだと泣いた。
 
「ヤっ、やだっ、やだ、やだヤだぁぁぁあああっ!!やだ、いやだぁぁ!」
「あー、すっごい音、派手で、気持ちいい、アーサー、アーサー」
「ヤだっ、あ、ぅあ、あ、うー・・・!」
「ねぇ、イっていい?締めて、もっと、もっと、アーサー。名前呼んで、俺の名前呼んで」
「やだっ・・・!あ、あっ、あっあ、あぅっ、あ、」
「アーサーってば」
「ひゃっあ、あぁあ、あー!やだぁ、あぁ、あ、あ」
 
わんわんと反響する自分の高い高い喘ぎ声、マイク通すとこんな声になるのか、息遣いと、嬌声と、卑猥な水音。
オレとアルが、セックスしてる音。耳の傍で何度も何度も上がった息で名前を呼ばれて、反響してる音と混じって、おかしくなる。
耳を塞ぎたい、塞げない、元弟である恋人はオレの腰を固定して、本能だけでゆさゆさ揺さぶる。
音も比例して大きくなって、部屋に響く自分の声で自分が何を叫んでるのわからなくなって、アーサー、動物みたいな声でオレの名前を呼んで、
ぶるっと背中を震わせたアルに、中で出される、そう思った瞬間に一気に下半身から強い強い射精感が突き抜けた。
 
「アル、アルッ、中はやだ、やだ、出すな、ヤだ、ぁ、あ、あぁっ!」
「ッ、一緒にイけない?あ、ごめん、駄目だ、ごめっ・・・」
「やだ、やぁ、あ、あっ、あ・・・!熱い、やだぁ・・・!」
 
ぎりぎりっと腰骨を砕かんばかりに掴まれて、ぐぐぐと腰を押しつけられて、直腸の奥に熱いものが叩きつけられる。
獣みたいな荒い息、何度か強く奥まで突っ込まれて、とぷとぷ注がれてるこいつの精液がその度に派手な音を立てた。
はぁっ、はあ、はぁ、はぁ、出しやがった、この野郎、足元にはくしゃくしゃになったスラックス、まだ出してない状態のオレの性器は
未だに透明な液を流しながら天を向いて、びくびくと二人の身体の間で小さく震える。
どさっと覆いかぶさってくる、でかい身体。白と水色のクレリックシャツにグレーのジャケット、オレも同じく色違いのシャツに、黒いベスト。
上半身が乱れてないだけに、何やってんだか、と上がった息でぜいぜい思う。
突っ込まれたままの性器、抜けよ、と掠れた声で伝えたら、アルはテキサスをかちりと外して、額に浮いた汗を袖で拭った。
 
「まだ、君、イってないだろ」
「いい、いい、って、抜け、もういいから、」
「よくない」
 
むちゅっと重ねられる肉厚な唇、酒臭い舌。
んぐ、と舌を絡ませられながら、下半身に伸びるこいつの手を払おうと手を伸ばす。
そしたら逆に手を掴まれて、そのまま、こいつのでっかい手と一緒に、自分の性器を握らせられた。
 
「ぅ、ん、ッ」
「俺の突っ込んだまま、自分でヤって、イって」
 
はぁ、と至近距離で囁かれる声。
ほら、と促されて、軽く上下に扱かれる。中途半端に高められた熱は、すぐに再発して、こいつのリード無しにも勝手にゆるゆる、手が動いた。
下半身から動かされる丸型マイクはそのままオレの口もとにセットされて。
自分の喘ぎを大音量のスピーカー越しに聞くのは激しく恥ずかしかったけど、もう、今更どうでもいいと、こいつのを尻に突っ込まれたまま、
オナニーしながら泣いて、最後はアルフレッドの腹に射精した。
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・そんでもって、そのまま二回戦に突入された。
 
がすがすと腰を打ちつけられながら、オレは別の意味でも泣きながら、アルの背中に爪を立てる。
今後、こいつの傍には酒は置かない。
酒癖悪い奴って、ほんとに最悪だと、自分の事を棚に上げて、何度も身体を揺さぶられるままにただただ、泣いた。
 
 
 
 
「死にたい」
 
・・・・・・・・・・・・・・死にたい、死にたい、死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい
本気で死にたい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 誰か、殺してくれ・・・・
 
ギギギギと奥歯を噛んで部屋の隅っこでしくしく泣いてたら、やけにすっきりつやつやしたアルフレッドが、
かちゃかちゃベルトを締めながら「ははは」と笑った。
 
「得意の『死にたい』?君、俺とセックスしてる時もよく死ぬって言うけど、あれ口癖なの」
「っるっせーなこの酔っ払い!!どうしてくれんだ、本気で、本当に、スピーカー繋がってたら、どうしてくれんだ!!」
 
もう誰にも顔を合わせられない、オレの声だけじゃないけど、アルの声も入ってるけど。
いや、声だけじゃない、こいつ最後の方とか調子乗ってマイク下の方に・・・・  ・・・って、うわ、うわぁぁぁっぁぁっぁぁあああああ!あー!
 
「駄目だ、無理だ、ちょっと、一緒に死んでくれ!!」
「やだよ」
「ヤだじゃねーよお前だって明日から、どうするんだよ、あ、あんな、あんなっ、お前、酒抜けたら死にたくなるぞ、その前に一緒に死のう!!」
「何で死ななきゃならないんだよ、バカアーサー。スピーカーの音源は全部切ってあるから、安心してよ」
「・・・えっ」
「ついでに俺、酔ってないぞ」
 
ひらひらと手を振って、じぃっとジッパーを上げるアルフレッド。
顔は紅潮してるけど、目元はしっかり、口調もいつもと変わらない。けろりと言う言葉には、確かに酔いは感じられない。けど。
吐く息は酒臭い、アルコールの匂い。足元に転がるのは大量のビールの缶に、ウィスキーのボトル一本・・・いや、酔うだろ。
 
「君がいつもいつも楽しそうに飲んでるからどんなもんだろうと思って、酔っぱらうのって・・・
 確かに少し気分は高揚するけど、別に楽しくもなんともないじゃないか。
 こんなものにいつも君はお金と時間をかけて、俺の信用を失ってるの?馬鹿じゃないの」
 
ぷぅっと頬を膨らませて、「君と同じように、大々的に酔っぱらって世間に迷惑をかけてやろうと思ったのに」とぼやくアルフレッド。
確実にオレの血を引いて、酒乱の気があるとは思ってたのに。
・・・うわばみだったのか、こいつ。
けろりとしながら「苦いし、コーラの方がよっぽど美味しい」と舌を出すアル。
大酒飲みではあるかもしれないけど、そういえば、こんなに飲んでる筈なのに下半身は元気だし、何だ、ああ、何だ、畜生。
へなへなと、もともと砕けていた腰が更に壊れて、そのまま、下半身丸出しのまんま、オレは床に両手を突く。
 
「でもさ、ちょっと興奮したな。君も良かっただろ?また、やろうね」
「・・・もう、こんなのは本気で勘弁だ、お前の言う通り、ベッドで安心してヤる方が数倍いい」
「そうかな。楽しんでたと思うけど・・・あ、スピーカーは切ってたけど、多分あの監視カメラには映ってると思うぞ。
 これ、中のテープどうやって外すのかな」
「・・・監視カメラ?おい、これ、何処の部屋から見れるようになってんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ」
 
・・・・・・・・・・・あ、じゃ、ねぇよ、この野郎。
誰かに見られてたら、本気の本気で、死んでやる!
 
 
 
 
その頃の監視ルーム。
 
「・・・でぇじょうぶかい、お菊ちゃん」
「キク?キ・・・キク、キク!」
「ああ・・・ほ、本望です、アーサーさん・・・これが・・・萌え死・・に・・・」
「キク?は、はなぢ、はなぢ、すごい!」
「お、お菊ちゃん、しっかりしてくんな!おいカルプシ、医務室運ぶぞ」
「キクに触るな!」
「んな事言ってる場合じゃねーだろお前はよ!!」
 
たまたま居合わせた本田さんとサディクさんとヘラクレス。
本田は「冬コミのネタ、頂きました・・・」というダイイングメッセージを残して、静かに鼻から血を流して倒れたという。
 
後日ダビングされた、無音のテープレコーダーが闇ブローカーの間で高値で取引されたというのは、それはまた別の話。