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「いいかフェリシアーノ。情けは掛けるな、思いっきりやれよ、容赦なく」
「・・・ヴェー・・・いいの?兄ちゃん・・・」
「相手を人だと思うな、アレはただの変態、世界のゴミだ」
「ヴェー」
 
あー。
なんやなんや、かわいこちゃんが二人もおるでー左右対称にくるんを持ったかわいこちゃん二人・・・何やん、天国?ここって楽園?
あれーロヴィーノ俺の服着とる・・・ちゃうわ、俺が借りてた服や。ん?じゃぁ俺何着とんの?あれぇ?
てゆか、んむ、なんや、な、何で俺縛られとんの、縛られてるってゆーか、ちょっと、これ、はりつけみたいになっとるんやけど・・・・
おーいロヴィ、ロヴィ、キリシタンごっこ?俺イエスさま役ぅ?ほんならロヴィとフェリちゃんは天使やね!
折角やから羽根とかつけて、そう、その手に持ったトマトの天使みたいな・・・・そう、後ろの籠いっぱいに入った、トマト、みたい な・・・ ・・・・??
何やの?その、トマト。と。そのカッコ。
 
「いくぞ!せぇーのっ!」
「ヴェー、ごめん、アントーニョ兄ちゃん!!」
 
二人は鏡みたいに左右対称に振りかぶって、アメリカの大リーグのピッチャーみたいに、持っていたトマトをすごい勢いで俺にべしゃぁっと投げつけた。
 
 
 
 
「や、やめ、やめやめ、やめてぇな、やめてぇええロマーノ、フェリちゃん!!」
 
そのまま次々と投げつけられる熟したトマト。
柔らかい果肉でも恐ろしいくらいのスピードで投げつけられるトマトは案外痛くて、付きっぱなしのヘタは剥き出しの太腿にちくちく当たる。
何よりもべしゃりと身体にぶつかって潰れるトマトの気色の悪さ。何ともったいない事を!思わず出てくる、貧乏根性。
やめんかい!怒鳴って叫ぼうと思って口を開けた瞬間、ロヴィーノの投げたばかでかいトマトが口に見事にヒットして、
ふごっという声はそのままげふげふという大きな咳き込みに変わってしまった。
 
「な、何て勿体ない事すんねん!食べ物粗末にする子はおねしょするで!」
「もともとトマト祭り用に取っておいたモンだからいーんだよ!だいたい、んなカッコでオレに説教出来んのかこのやろー!」
「・・・・・・んなカッコぉ・・・?」
 
かっかと頭から湯気を出す隣で、ヴェー、という特有の発音と共に何だか哀れそうに俺を見るフェリちゃん。
注がれる視線は、俺の顔・・・の下の身体に。身体に、というよりも・・・・着てる服?
トマトまみれの中、果肉の隙間から見えるはチェックのミニスカートに赤く染まったスーパールーズ。
磔にされてる両手、何か窮屈やと思ってたら、滅多に着ないジャケット・・・じゃなくてブレザー。
首を曲げて左胸を見てみれば、自分の大好きな女子校のガッコの、校章がついてた。
 
あ。
おーもいだしたー、ぁ。
そういや皆で飲んで飲みまくって、ちょーし乗って3人で女装してナンパ合戦しよーってそのまま外出て・・・出たら何でかロヴィが居て。
ロヴィだけじゃなくて、フランとギルの弟とかも居て、何や、てっきり夢かと思っとったのに、夢にしては随分痛みがリアルやわぁ、
そんな事思いながら飛んできたロヴィーノロケットで静かに意識を飛ばした気がする。
流石にちょっと、調子乗りすぎたわ、あん時・・・カワイイ子分の前で内心思いながら、へらっと笑って、縛られてる両手をぎちぎちさせる。
 
「ええやろ、似合うやろ」
「・・・・・本気で言ってんのかてめー」
「きっと俺よりもロヴィやフェリちゃんのが似合うでー」
「オレは女装趣味の親分を持った覚えはねーんだよこのスーパーどちくしょーが!!」
 
べっしゃぁ!投げたトマトはそのまま俺の左頬にクリーンヒット。
い、痛ったぁ!!これ、まだ熟れてないやん、みどりぃもん!!
トマト祭り用のってったって、こんなんばっかじゃ怪我するやろ!
「こらぁ!」と怒鳴れば、お次はフェリちゃんの「ごめーん!」という声と共に降ってくる赤い布。
今度は何や、と思っていたら磔にされてるまんま、真っ赤な布でぐるんぐるんに身体を巻かれた。
 
「な、何や、何やフェリちゃん、ロヴィーノ!」
「フェリシアーノ、闘牛場行くぞ。このまま広場に突き落としてやる」
「ヴェー、死んじゃわない?兄ちゃん・・・」
「問題ねー」
「いややんそんなん!第一今って動物愛護のオッサン達がうるさいからできひんもん!」
「兄ちゃん、俺聖ファミリア協会に行きたい~」
「吊るすか」
「ガウディさんの建築物あれもろいから止めてぇ!」
 
磔にされた上半身、その上からぐるぐる巻かれた赤い布、身体から立ち昇る青臭いトマトのいい匂い。
目の前にはかんわいい天使ちゃんが二人。なんで俺ばっか、こんなかっこで動かれへんの!
ちょっとおろおろしてるフェリちゃんの隣で、「燃やしちまおう」なんて物騒な事を言い出すロヴィーノ。
俺の大好きな鳶色の目は、あれは本気や。なんで、なんでそんなに怒っとんの?
こんなんお遊びのおふざけやし、だいたい似合ってるやん、かわええやろ!
 
えーかげんにせぇよ、ロヴィーノ!
そう怒鳴ったら、ロヴィーノはフェリちゃんによく似た目元を猫みたいに細くして、ぎろりとこちらを睨んで舌打ちした。
 
「・・・てめーこのやろー、今自分がどんなカッコして説教始めようとしてんのかわかってんのかちくしょーが。
 もしかしてあいつらと飲む度にこんな事してんじゃねーだろーな!」
「こんなことって・・・え、服ぅ?流石にこんなカッコせんよ、バツゲームや。よく脱いだりはするけども」
「ぬ、脱ぐ!!??ふ、ふ、ふざけた事言ってんじゃねーぞこのやろー!!」
「イタイ!な、投げんで、それ、まだみどりぃって!」
 
瞬間湯沸かし器みたいにぴーっと湯気を出して熟れてないトマトをぼっこぼっこ投げつけるロヴィーノを、
フェリシアーノが「兄ちゃーん」と後ろから羽交い絞めにして止めてる。
フェ、フェリちゃんファイトー!ついでに早よこれ解いたって!
 
「離せよ、フェリシアーノ!」
「兄ちゃんだって俺と一緒に居る時は裸じゃんかー、なんかもう、可哀想だよ、アントニオ兄ちゃん!」
「な、何やて、裸ぁ!?ちょっと、フェリちゃん、もぉちょいそれ詳しく!」
「てめーは黙ってろこのうすらとんかち!!」
 
ぴぃぃっと更に湯気を立てて怒鳴るロヴィーノ、何や、フェリちゃんと居る時は裸なん?兄弟で?
いややん、めっちゃええ、それ、めっちゃええやん!楽園やん!混ぜてぇな!
じったんじったん、ぐるぐる巻きにされた身体のまんま地団駄踏んで騒いだら、今度こそ怒りのトマトのみならず、お得意のロヴィーノロケットが飛んできた。
 
 
 
 
「・・・とにかく、今後一切合財、あいつらと飲みに行くのは禁止、破ったらもう口きかねー」
「・・・ええー・・・、ちょぉ、それはムリや、堪忍して」
「飲みに行ってもいーけどてめーは飲むな」
「そっちのが無理や!」
 
もー許してあげてよ、兄ちゃん、という天使のように優しいフェリちゃんのお情けで、俺は磔から身体を降ろし、
べしょべしょになったレア物の制服を脱いでシャワーを浴びる事を許された。
ほかほかの身体をバスローブに包んでリビングに戻れば、むっつり不機嫌なロヴィーノと、にこにこ笑顔のフェリシアーノ。
右にロヴィーノ、左にフェリちゃん。
背格好も顔立ちもよく似てる二人は、こうして向か合わせに見ると、鏡みたいやなぁ。表情は全く違うんけど。
正反対のマカロニ兄弟、俺の大好きなイタリア組。
かわいいかわいい弟分二人に迎えられて、へらっと顔が落ちるのを自覚しながらリビングのソファに座ったら、
不機嫌デフォルトのロヴィーノに、ずぃぃっと目の前に白い紙を突き出された。
 
 
紙にはみみずみたいにへにゃへにゃ踊った汚い文字。
俺もあんま人の事は言えんけど、もーちょいスペルの練習せんとね、ロヴィーノ。
恐らく俺とフェリちゃんしか解読不可能なその文字を、ふむ、とがしがし頭を拭きながらゆっくり追う。
文頭のタイトルは「誓約書」。何やん、なーんか婚姻届みたいやわぁ。
へらぁっと笑ってロヴィを見れば、さっさと読めとでも言うような、眉間に皺を寄せたまま顎をしゃくるジェスチャー。
誰に教わっとんのやろ、こーいうガラわるい事・・・アーサーかなぁ。今度言っとかなあかん、また苛められん程度に。
ふーふーしながら口付けるのは、フェリちゃんが作ってくれたあったかいリモンチェッロ、一口飲んで本文読んで、なぬ?という風に眉を上げる。
誓約書に書かれているのは完結一文。
 
『今後、私 アントーニョ・ヘルナンデス・カリエド は友人、フランシス・ボヌフォワとギルベルト・バイルシュミットと一緒に居る時、一切アルコール類は口にしません』
 
恐らくそんな感じの事がばばんと太い字で書かれていた。
ちなみにその下には、俺の署名欄と、血判印。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんや、これ?と用紙を持って首を傾げてみた後が、前述のやりとり。
 
 
 
 
「無理や、俺の楽しみ奪わんといてよ、ロヴィーノ」
「ぜってー、いやだ。あいつらと飲むたんびにこんなになってるの知って、行かせられるかこんちくしょーが」
「えー、ちょぉ、ちょぉ、お願い、おねがいや、俺あいつらと飲むの好きやもん」
「オレとの約束破るってんなら勝手に行けよ」
「ローヴィー」
 
ぷぅいっ。
・・・・あーもー、あかん、完全にお怒りモードや、これはまっすぐになるのに時間がかかる。
そっぽを向いてしまったロヴィに、フェリちゃんが兄ちゃーん、と後ろから頭をぐりぐりしてる。
苦笑しながらこっちを見てすまなさそうに瞳を合わすフェリちゃんに、ええよええよ、と手を振って。
よく出来た子やなぁ、本当に。ロヴィとは大違いや、正反対、素直な弟に、意地っ張りの兄。
内緒で行っちゃえば大丈夫だよ、とわざとロヴィにも聞こえるように言うフェリシーアノに、
なんだとこのやろー!と振り返るロヴィ、兄弟おそろいの鳶色の瞳はうっすら涙目。
本気で俺が酔い潰れてるのを見るのが、嫌なんかなぁ。
ローヴィ、もぉ一回名前を呼べば、不機嫌な瞳はじろりとこちらと目を合わせる。
 
「お前も、大事な友達はおるやろ?友達は大事にせなあかん、俺、あいつら好きやねん。
 ロヴィもフェリちゃんもおんなじくらい大好きや。ロヴィに内緒ごととか作りたない」
「・・・オレと、約束できねーっていうのかよ」
「だーから、こぉいう約束は無理や。みっともない俺が見たないなら、ロヴィが寝てる時とかにこっそり帰ってくるから、な?」
「そーいう問題じゃねーんだよ!」
「もぉなんやの、一体!わがままもえーかげんにせぇよ、ロヴィーノ!」
 
ホットのマグをすたん!と置いて、なるべく抑え目に怒鳴ると、ロヴィーノは一瞬目を丸くして、
その後少し日に焼けた顔をぶわーっと赤くして、明るい鳶色の瞳にうりゅりゅっと瞬間、涙を溜めた。
あ、やばい、怒鳴ってしもうた。
はっと我に返るより先に、ロヴィーノはすっくと立ち上がって、椅子を蹴って。
そのまま「もういい!!」と叫んで、だんだん床を鳴らしながら、リビングをばたばた出て行ってしまった。
 
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁーあ。
バスローブのまんま、ソファにぐったりふかーく沈む。何や、何でいつもこーなるん。
にいちゃーん、フェリシアーノは名前を呼ぶも、追いかけはしない。
まだ水滴の垂れる髪の毛をがしがし掻いて溜息をついたら、フェリちゃんが目の前でヴェー、とくすくす、可愛く笑った。
 
「ごめんねー兄ちゃんが」
「ええよ、そんなん、あれやなー、俺ほんとに親分向いてへんわ・・・未だにあいつが何したいのか、よーわからん」
「アントニオ兄ちゃん、鈍感だから」
「よぉ言われるんやけど自分じゃわからんもん・・・あー謝った方がええかな、どー思う?」
「余計に怒らせるから、しない方がいーと思うよ」
「せやろか・・・」
 
おかわりちょーだい、とついクセでロヴィに言うみたいにマグを出したら、フェリちゃんは「はーい」と笑ってソファを立った。
かわええなぁ、ほんとええ子や、あー癒される。俺の天使。
そんな風に笑って言ったら、フェリちゃんは少しだけいつも細ーく閉じてる瞳を開いて、ロヴィとおんなじ明るい色の瞳を俺と合わせて。
 
「まずはさ、そーいう事をあんまり兄ちゃんの前で言わないことから始めたほーがいいよ。
 アントニオ兄ちゃん」
 
そう、ちょっぴり棘のある言い方で言った後、いつも通りに、ヴェー、と笑って、キッチンに向かった。
 
 
後に残されるは、何の事かさっぱりわからん、よく鈍感と怒鳴られる俺一人。
何や、教えてや、そう言ってもフェリシアーノは「自分で考えて~」と笑うだけで、さっぱり俺にはますますわからん。
まずはロヴィの機嫌をどーやって直そう・・・あー、フランに、ギル。あいつらもそれぞれの弟に今頃お仕置きされてるやろか。
次はロヴィも連れて行ったら、臍曲げんかな。
 
そう思いながら、「ローヴィー、大好きやから戻ってきて」とソファにもたれながら呼んでみたら、
予想はしてたけど「てめーとは口きかねー!!」という怒鳴り声が返ってきた。