「おい、アントーニョ、煙草吸うなら外で吸えッつってんだろこのやろー!」
「ええやん、滅多に吸わんし」
「キライなんだよ、煙が!」
「もーおこりんぼさんやね、ロヴィは」
煙草は別に好きでも嫌いでも、どっちでもない。
むかーし昔は、ちょっぴり吸ってたけど、別にスッキリもしないし吸わなくても別にいーし、だったら吸わなくてもいいんじゃないかと最近はずっと手元に置いてない。
深呼吸と、同じだと思う。だったら思いっきり、お日様の匂いのする空気を一杯吸ったほうが身体にもいい。
我ながらええこと言うなあと思いながら、グレた反動で煙草を吸いだしたロヴィーノにそう伝えたら、ロヴィは「それもそうか」と言って、長い煙草を灰皿に押付けた。
愛煙家が一度煙草を止めると、とんでもない嫌煙家になる。
と、いうのは、この短気な子分を見て確信した。
しゃーないなー、とカラカラバルコニーに出る扉を開けて、お外に出る。
定期的に行なわれる会議、今回使われる会場は我が家、太陽の国エスパーニャ。
メンバーの為に用意した一応きちんとした高層マンションの60階、折角やし自分も、とロヴィーノを誘って泊まってるツインの部屋。
シングルじゃないの?ぶーぶー騒ぐ他の連中も、経費節約や、協力せぇ!とツインやらトリプルやらの団体部屋に突っ込んで。
そぉいや、お隣さんはアーサーとアルフレッドやんなぁ、左隣はギルベルトとフランツ。
兄弟一緒にするとやかましーから、むきむきの弟は仲良し枢軸メンバー3人一緒に入ってもらって。
フェリシアーノがじゃがいも臭くなんだろこのやろー!と喚くロヴィーノを宥めて、もぉ、お前もえーかげんフェリちゃん離れせぇよ、そう軽く嗜めて、それで今。
拗ねたロヴィはそのままごそりとベッドに潜り、俺はフランツの置いていったディオールの細い煙草に火をつけて、怒鳴られて、
白いバルコニーでぷかりと煙草を吸っている。
・・・やっぱり、別に美味しいモンでもないやんね。
少し香水臭いフィルターに口をつけて、軽く吸い込んで、ぷふーと白い息を吐いて、雲ひとつないお空を、うーん、と見上げた。
あー、めっちゃいいお天気やん。会議明日やろ、折角やし今夜は皆でフラメンコでも観に行こーかなあ。
何人来るかな、ロヴィやろ、ギルやろ、フランに、枢軸の弟組3人と、中国の兄弟は来るかなぁ、あとは、ええと
「っや、やだ、やだっやだってば、アルフレッド!」
ああ、そぉそぉ、アルフレッド、と、アーサー・・・         ・・・・ん?
がらぁっ!と突然隣の部屋の窓が開いたと思ったら、ぎゃぁぎゃぁ騒ぐアーサーと、後ろからそれを羽交い絞めにしてるアルフレッドがバルコニーに飛び出してきた。
んんん?煙草を咥えながら眉を顰めて見るも、向こうはコッチの存在にはとーんと気付かず。
そのまま、アーサーの手を白いバルコニーに握らせて、アルフレッドは楽しそうに彼の耳に話しかける。
「いいじゃないか、好きだろこういうの」
「や、やだ、こんな昼間ッから、だ、誰かに」
「こんなにいい天気の日にホテルに篭ってる奴等なんて居やしないよ。ほら、腰」
「っん、ぁ、ん、んんん、やだ、大っきぃ、よぉ・・・!」
距離にして約5メートル、程だろうか。
二人の声も、何だかアレな卑猥な音も、真っ赤になってる海賊紳士の顔もがっついてる19歳の顔もよーぉ見えるし、よぉ聞こえる。
おいおいおいおいおいおーい、おーい。
親分ここにおるよー。
再度煙草のフィルターをちょいと吸って、ぷかりと白い紫煙を上げる。
アルフレッドの服はスーツのまんま、ああ、あいつ会議後そのまま飛行機乗ったって言ってたやんなあ。
一足先にここに到着したアーサーはラフなポロシャツに、下半身は素っ裸。
ここは、見ないほうがええんやろか。それとも見て欲しくてのプレイやろか。
つぅか、あいつら、そんな関係だったんか、知らんかった。
特にどうとも思わないまま煙草をふかしているうちに、二人の動きはヒートアップ。
立ちバックの状態であんあん泣く英国紳士、細い腰をがっしと掴んで壊さんばかりに腰を打ち付ける超大国。
・・・壊れる、壊れるて、アーサーが、じゃなくて、その、バルコニー。
60階やで〜、落ちたらトマトみたいにぺちゃってなってまうよ〜。
「あ、ぁっ、あ!アル、アル、ぅ、・・・!」
「気持ちいい?、あんまり締めないで」
「もっと、ァ、奥、奥がいい、アル、気持ちいい・・・!」
男同士の濡れ場って、あんまし見てもおもろくないなぁ。やっぱりかわええ女の子の方が見てても瞳に優しいもんや。
アーサーってあんな顔もするんやね、と昔々の事を思い出しながらもう一本の煙草を取り出す。
一本一本色の違う、よくもまぁ、色々嗜好の凝らしたお煙草や。
そのへんで買った100円のライターで火を点けて、今吸ってたのは足元にぽとりと捨てて、シューズの底でがしがし擦って。
後で捨てよう、そう思いながら、ああ、ええ天気や、と、ぴーかんのお天気に沿ぐわない何とも如何わしい行為をしている二人を視界の端に持ってきて、
ぷふー、ともう一回、煙を吐いた。
昔のアーサーっていう男からは考えられん、何とも骨抜きにされとるやないか。
16世紀あたりのドーヴァー海峡ではあんなに親分の事フルボッコにして足蹴にしてくれた挙句、あんな事やこんな事もしてくれた癖に。
あー思い出しても疼くわー傷跡が。でっかい心の傷跡が。
やけにお綺麗なフランス製の煙草、やっぱ親分にはこーいうのは合わん、眉を顰めてフィルターから口を離して、そろそろ部屋戻ろぉ、そう、踵を返そうとした時に。
「ッ、あ、」
「あ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!!!!!!!!」
半裸でばっちりがっちり、元弟に突っ込まれてる状態のアーサーと、目が合ってしもうた。
「遅せーぞアントーニョこのやろ・・・ ・・・な、何だ、その顔」
「・・・ええやろ、男前度あがったやろ」
「ひ、冷やせ!冷やすぞ、おい、こっちこい!」
「ああ〜ええ子や、ええ子やねロヴィは。惚れ直してしまうわ、俺のロヴィ」
「訳わかんねー事言ってる前にこっち来い!!」
いたたたた、二倍くらいに腫れたおでこに冷たいタオルを乗せられながら、痛ぁ、と笑う。
あー、まさか、あそこで観賞用に置いといたパキラの鉢植えが飛んでくるとは思わなかった。
あっ。と目が合った瞬間のアーサー、真っ赤な顔から瞬時に青くなり、そのあと、みるみる首から順番に赤くなって。
なんや、リトマス試験紙?酸性からアルカリ性へ、その後また徐々に酸性へ。
一発芸にしたらええやん、ちょうど部屋に入るトコだったけど、このまま何も言わず背中を向けるんもどうかなぁと思って、
「親分の隣フランの部屋やから、そっちまで聞こえてしまうで」
と親切にご忠告申し上げたら、次の瞬間ものすごいスピードでお金の生る木が飛んできた。
ちなみに後ろにいたアルフレッドは、軽く手を上げて「避けて!」と俺に叫んでた。
遅い、遅いわ、だってもう親分の顔にレンガの鉢植えめり込んどるもん。
痛ったぁ、もぉ、お楽しみが終わったら、絶対シメたる。
そう、ふーふー言いながら頭から湯気を出すアーサーにひらひらと手を振って、真っ赤に腫れてるであろう額を押さえて、部屋に戻った。
「ローヴィ」
「あ?こら、てめ、温くなってんならそう言えよ、冷えねーだろーが」
「アーサーとアルフレッドが付き合おうとるって、知っとった?」
「・・・今更かよ。てっきり気ぃ利かせて同室にしてんのかと思ってた」
「アルフレッドの同室って、皆嫌がるんやもん・・・アーサーもやけど。何や、気が付いてないの親分だけかいな」
「鈍感」
「言わんとって、最近ほんまに気にしてんねん」
「嘘付け」
「ふそそ」
ぺっちんと腫れた額を叩かれて、痛!と思わず跳ね上がる。ロヴィーノはそれを見て笑って、「夕飯どーする」なんて言ってくる。
親分がかわいーおでこを負傷しとんのに、夕飯の心配かい。
再び乗せられた、ひんやりとしたタオルに目を瞑りながら言ったら、「オレが、お前の好きな物作ってやろうか」と嬉しそうに言われたので。
「ええな、皆この部屋呼んで、賑やかにやろーか」と応えたら、「この鈍感トマトが!!!」と思い切り額を叩かれた。
夜。
結局じんじんと腫れの引かない親分の額は可哀想なくらい真っ青になってしまい、この顔では外には出れんつー事で、
さっきの話通りに、備え付けのキッチンでロヴィーノが飯を作ってくれる事になった。
何かぷりぷりしとったけど、皆で飯食うとかあんまり出来んし、と他の部屋の奴らも呼んで軽い飲み会みたいな事をしてる。
ビール片手に楽しそうに騒ぐギルベルトに、その隣で大ジョッキを煽るむきむきの弟。
ちなみに、二人の間にはフェリちゃんが小さくなって「飲み過ぎだよ〜」とむきむきを止めてる。
どーでもええけど、何でお前らは乾杯の度にジョッキを割るんや。
その度に菊ちゃんがタオルを持ってせっせと片づけ、フランに「いい嫁さんになるね」と口説かれては、その後フランはヘラクレスに引っ叩かれてる。
親分の家でも酒の飲めへん身体年齢のアルフレッドはコーラと、ロヴィーノ特製のピザに夢中。
ダイエットコーラなんて飲んでもそのピザ食べたらあかんやろ。
そう突っ込んで笑ったら、「アーサーみたいな事言わないでくれよ」と、Booooと頬を膨らませられた。
あ。
そぉいや、アーサー。来とるんかな。もー、この親分の可哀想なおでこを見せてやらんと気が済まん、以前親分がさせられたみたいに、泣いて土下座させたる。
ヒエロンをぺたりと貼ったデコを軽く擦って、よっこらしょと身体を上げかけたら、それとほぼ同時に首根っこをぐいーと引っ掴まれて、簡単に立つ事が出来た。
あれ、ありがとさん。
後ろを振り向けば、苦虫を噛み潰したという表現はこう言う時に使うんだろう、不機嫌マックスの海賊紳士が目の前にいて、大層びびてしまった。
「アントーニョ」
「なんや、アーサー?あ、そのウィスキーちょっとちょーだい」
「駄目だ、これはオレのだ」
「けちんぼ」
ぷぅっとふざけてるみたいに頬を膨らませたら、パァン!と両頬を叩かれて、ぶふっと空気を抜かれる。
痛ぁ!思わず持っていたパスタの皿を置いて頬を押さえて、涙目で叫ぶと、アーサーは「ちょっと顔貸せ」とドスの聞いた声を出して、親分の腕を引っ掴んだ。
そのままズルズル引き摺られて、人の居ない・・・となると、寝室か、ドアを開けられて、電気も点けずにばたんとそのまま閉められる。
賑やかだった空気が途端に遠くへ。持っていたシェリーの瓶が、ちゃぽんと小さく音を立てた。
「な、何やの、親分何も悪いことしてへんで」
「・・・・・・・・・お前、今日の昼見た事、」
「・・・昼?」
「そ、その、オレが、あの、アルと・・・」
「ああ、バルコニーでエッチ?」
「わーーーーーーーーー!!!」
きぃん!と耳を突き抜ける悲鳴、大声で言うな!!と叫んで俺の口を押さえるアーサー、お前の声の方がでっかいやんか!
もがもがしながらぷはっと口から手を離したら、涙目でぶるぶる震えるアーサーが「言うなよ」と小さく呟いた。
「言うなって、え?何が、お前らが付き合おうてる事?皆知っとんのやないの」
「ち、違、オ、オレが、あそこでアルとヤってたって事だよ!」
「何で?ええやん、恋人やろ」
「そ、そりゃ・・・」
ぽぽぽぽっとピンク色になるアーサー、もじりと手を合わせて、その後一気に持ってるロックグラスをぐいっと煽る。
解けた丸氷のおかげで濃度は結構薄そうやけど。喉が3回ごっくんって鳴ったから、量はなかなか多いんやないやろか。
ぷはっと息を吐いて、ロックグラスをサイドボードに置く。目が据わってきとる、でも、まだきっと大丈夫。
アーサーはそのままベッドに腰かけると、「あー、もう」と顔を押さえて、蹲ってしまった。
「言わんよ、べっつに、おかしー事でもないやろ」
「・・・・・」
「それより、見ぃや、親分のこのおでこ!めっちゃ腫れてんねんで、鉢植え投げる阿呆がおるかい、下に落ちたらどーすんねん!」
「・・・アルが、」
「なんや」
「続き、してくれなかったんだ・・・」
「そーかい、まずは謝ったってや、親分に」
「オレがしたいって言ってんのに、してくれなかったんだ、醒めたって!」
「親分のおでこへの謝罪が先や!」
がばっと起きて涙目で怒鳴る英国紳士。この男の一体何処が紳士なんや、自分のおいたのごめんなさいも出来んのかいな。
そのまましくしくと泣き出してしまったので、もう、謝罪は落ち着いたらしてもらおう、そう思って持っていたシェリー用のグラスを差し出してやる。
もーちょい飲むぅ?そう、親分の持ってたシェリーのボトルを見せたら、彼はぐすりと鼻を啜って「飲む」と言って、それもぐいーと一気に飲みきった。
アンダルシアのヘレス周辺でしか作らない、濃度の高い強化ワイン。
もう一杯、とグラスを差し出されて、とぷとぷと半分くらいまで注いでやる。ぐずぐず泣いてる子には逆らわん方がええ、ロヴィと一緒や。
ウィスキーとワインのちゃんぽんって最悪やんなぁとアーサーが飲みきった後で気が付いて、だいじょーぶ、と顔を見る。
「大丈夫だ」と言って、そのままアーサーは俺とロヴィが今夜使うベッドに寝ッ転がった。
で、そのまま、ゆっくりと目を閉じてしまった。
まぁ、ツインやからベッド二つあるし、そのまま寝てもええよ。俺ロヴィと寝ればええし。
そう言って、持ってるシェリーグラスを取り上げたら、アーサーは「てめーの所為で」と、寝たままぼそりと小さく唸った。
「うん?」
「・・・てめーの所為で、最後までアルとヤれなかったじゃねーか・・・」
「・・・えー、親分の所為じゃないやん。別にそのまま続ければええし」
「アルは一回醒めるとしばらくその気になってくれねーんだよ!」
「知らんわ、もぉぉぉー」
がばりと再度上半身を起こすアーサー、そんなに頭振ったら酔い周るよぉ、あ、やばい、目がアレや、ボーダーラインぎりぎり、
こいつ、俺と話す前から飲んどったやろ。あかん。飲ませすぎたかもしれん。
据わった目のまんま、細っこい手は俺の胸元を引っ掴む。
ひぃ、な、なんや、なんや。
ぐいーと親分の胸倉掴む腕の力は昔のまんま、ああ、蘇るトラウマのアルマダの海戦。
ついでにドスの効いた声と爛々と光る碧の瞳も昔と全然変わらへん。
骨抜きにされてるなんて、すんません、嘘つきました、こいつ、絶対あの弟の前で猫かぶっとるやろ。
胸倉つかまれてそのまま上に引っ張り上げられて、勢いよくベッドに放り投げられる。
「い、痛ったぁ、何すんねん!」
「全部てめーが悪いんだ、このくそトマト!」
「完全逆恨みや!」
右手にはサイドボードにあったアルフォンソ・オロロソのフルボトル、中身は半分。
アーサーは瓶のまま口つけて、ごくごく飲んで、ぷはっとそのままごとん、とベッドの下に投げつける。
中身は空っぽ、おー、オロロソイッキする人、初めて見たで。
けっこーきっついやろ、親分もでけへんよ。
放り投げられたベッドの上から起き上がってぱちぱちと拍手を送ったら、そのまま、よいせと痩せた身体に乗り上げられた。
上から目線で見下されるこのカッコは、長い人生で本日二回目。しかも相手はおんなじ人。
お、お、なんや、ちょぉ、トラウマになってる昔の事思い出すんやけど。
「アーサー?」圧し掛かられたままで見上げて言ったら、アーサーはとろんとした緑色の瞳を細めて、俺を見降ろした状態でにたりと笑った。
「なんや・・・」
「責任とって相手しろ」
「い、嫌やぁぁあああ!!!」
てめ、てめっ、テメーが全部悪いんだ、だいたいあの時だって弱い癖にオレに楯突こうとしやがって、何が無敵海軍だ、ふざけんな!
いやぁあぁ、堪忍、堪忍してぇぇえ!過去のトラウマほじっちゃ嫌やぁ!
第一、お前が俺に勝ったんなんて、あの時だけやん!
じったんばったん、しゅぴっと俺のベルトを引き抜いて、アーサーは、びんっ、とベルトの両端を引っ張って唇を舐める。
あ、あかん、あかんて!海賊スイッチ、もしくは大英帝国様の降臨や!
ボロボロのへなちょこにされた過去のトラウマが蘇る。あかん、まじでこのモードのアーサーはおっかない。
「ロヴィーノ、助けてぇぇえ!!」
ベルトを振り上げたアーサーの手を根性で止めて、渾身の力で悲鳴を上げる。
こいつ、本気で酒飲ませちゃあかん!世界の為にもこのスイッチは発動させたらまずい。
悲鳴を上げた途端にバターン!!と扉が開いて、エプロン締めたロヴィが逆光を背にして「どうしたこのやろー!!」と叫んで入ってきた。
右手には木べら、左手にはちょっと大き目のソースパン。
ああ、みんながこーやって酒飲んでどんちゃんやっとる時も、ロヴィはみんなの為にゴハンを作ってくれとったんやね・・・。
ほんまに出来たええ子や、じぃんと涙を浮かべてエプロン姿のロヴィを見ていたら、その顔はだんだんと青ざめて、その後に徐々に赤くなって、
あれぇ、これ、どっかで見た事ある反応やんなぁ、そう思っているうちに、ロヴィの持っているソースパンが振り上げられた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「んだぁ、マカロニ片割れ!邪魔すんな!」
据わった目のまま、呂律の回らない口で叫ぶアーサー。
ゆらりと黒い影を背負ったロヴィが目指すはこちら、ベッドに押し倒されてパンツ脱がされそうに親分と、その上に乗る海賊紳士。
ええよ、ロヴィーノ、やったれや!
額に青筋立てて、つかつかとこちらにやってくるロヴィーノに、心の中でエールを送る。
さっき親分のおでこに鉢植えぶつけたられた分も頼むで、子分!
アーサーと同じくらいに据わった瞳、ばちぃっと緑色の瞳と鳶色の瞳がかち合って、ばちばち激しい火花を散らす。
ああ、俺、やっぱり愛されてんなぁ、可愛いロヴィ。でもそんなにボコボコにしなくてええよ、アーサーも酒に酔ってるだけやし・・・・
・・・・て、え、あれ?
振りあげられたソースパンは、ゆらりと俺の額に影を落として、そのままアーサーの顔の横で風を切る。
「なーに堂々と浮気してやがんだこのすーぱー鬼ちくしょーが!!」
予想を大きく外れて、ロヴィーノ愛用のソースパンは、親分の腫れた額の上にめりこんだ。
「やきもちにしてはやりすぎちゃうの、ロヴィ・・・」
「・・・まさか、アーサーの野郎に剥かれてるとは思わなくてよ・・・」
死ね、まじで死ねこの腐れトマト、さっさとどっか行っちまえ!!
ぎゃんぎゃん泣きながら気を失いそうになってる俺をボコボコと鈍器で殴る子分、すぐにその後、なんだなんだと他の連中も集まってきて、
アーサーはアルフレッドに頭をチョップされて気を失った。
そのままアルフレッドに荷物みたいに担がれて彼は自分の部屋へ戻り、俺は二倍くらいに腫れたおでこにアイスノンを乗せられて、ベッドのスプリングに埋まってる。
続きはお兄さんの部屋でどう?というフランの申し出に、ロヴィ以外はぞろぞろと隣の部屋へ移動をした。
「また後でくるからね、兄ちゃん」「お大事になさってくださいね」
心配そうに俺のおでこを撫でて行くフェリちゃんと菊ちゃんに、おおきに、と笑って、片手でひらひらと手を振る。
ロヴィも、行ってええよ。そう俺の隣でアイスノンを換える子分に伝えたら、「ばかな事言ってんな、ちくしょーが」と小さく唸られた。
「あー、もう、ほんまに全部とばっちりや。何で親分がこんな目にあわなきゃあかんねん・・・」
はぁ、と小さく溜息をついて、開催国って大変やなぁと、ホスト国である事をいい訳に目を瞑ってぼやく。
開催国かんけーねーだろ、と突っ込むロヴィは、そのまま電気を消して、ごそごそと俺の隣に入ってくる。あれ、めずらしー。
なんや、どしたん。
ロヴィの弟によく似た鳶色の髪を撫でながら笑ったら、ロヴィーノは「お前が可哀想だから、今日は一緒に寝てやる」と呟いて、毛布の中にぼふりと埋まった。
素直じゃないこの子分とは、家族みたいな友達みたいな恋人みたいな、いまいちよくわからん関係やけど、
滅多に一緒の布団に入ってくれないロヴィがこうしてくれるなら、これだけでも今日はいい日や。
ありがと、と素直にお礼を言って、自分と同じシャンプーの匂いのする頭に顔を埋める。
しんと静まった部屋の中で眼を瞑ったら、隣のフランとギルの部屋からどんちゃんと騒がしい声が聞こえて来て、明日の会議大丈夫かいなと、二人で小さく笑った。
・・・・・・・・・・・で、ロヴィと二人して眠りについた2時間後。
「あん、あ、やだ、ぁ、アル、アル、いかせて、ごめんなさい、許して、やだぁ・・・!」
反対側の部屋からあんあん泣く呂律の回らない諸悪の根源のどうしようもない声と共にがりがりと壁を引っ掻く音が部屋に響いて、
ほんまに明日泣かせたると、すやすや眠るロヴィーノの耳を塞いで、静かに盛大に溜息をついた。