「きーくー!お客さんだぞ」
「はいはい……アルフレッドさん、もうすこしおしとやかにお願いしますよ」
「異人さんだぞ」
「おや、珍しい。お眼鏡に敵う子が居れば良いのですが」
かろん、と下駄を鳴らして、陰間茶屋の店主は紺色の袢纏をひっかけて店に出る。
「ようこそ。どなたかのご紹介ですか?」
「離せよっクソヒゲ! 遊郭なんてオレは興味ねーんだよ!」
「いーじゃないのよここまで来て。ジャパニーズ文化を頼みましょうよ、ねっねっ」
「ははぁ、すみません。こちらは遊女ではなく陰間を揃えている見世になりますが。よござんすか」
「陰間?」
「控えてるのはお稚児さんですが……良い子ばかりですよ」
「稚児?」
「すみません。男の子です」
板張りの床に、赤い格子……、部屋の真ん中にある水桶がカコンと鳴る。
俺はそこで掃除でもする振りをしながら、店主である菊と、その客二人をじっと見てた。
「男の子?」
「私共の国では男色の文化もあるんですよ。まあ、今では少し廃れていますが、宜しければ」
見世の店主……菊が、にこりと微笑んだのが後ろから見てもわかった。
菊は男だけど、男の人からよくもてる。ここは陰間茶屋と言って、男が春を売る場所だ。どうして陰間というのか、こういった文化が出来ているのかは、俺には分からない。
もう一人の少し痩せた人が、顔を青くして「帰る」と踵を向けた。慌てて、青い瞳の人がその襟首を掴んでいる。
「じょ、冗談じゃねぇっ! 帰るぞ! おい髭!」
「へー。マスターみたいな人が相手してくれるの?」
「私はもうじじいですので、もっと若い方がお相手しますよ」
「オレは帰る! もともと来たくなかったんだ!」
ギー、と顔を真っ青にして暴れているのは、少し痩せた方の人だ。俺と同じ金髪をしてるけど……あの人、ちょっと瞳の色が変わってる。みどり? 初めて見た。気がつけば瞳ばかりきになってじっと見てしまっていて、相手に気付かれてしまった。慌てて瞳を反らして、元の通りに掃除を始める。
あまりここに居るのも失礼かもしれない。自分の部屋に続く廊下を磨いていたら、しばらくして菊が重たい溜息をついて戻って来た。
どうしたんだろう。
雑巾を絞ってバケツに入れて、「菊?」と名前を呼んで立ち上がる。店主は俺の顔を見るなり、更に深く息を吐いた。
「……参りました……すみませんアルフレッドさん。貴方に指名が」
「俺に?」
「見世に立たせてる子では無いって、何度も言ったんですけどね……引いてくれないんですよ。どうしたものか」
「誰だい」
「今来てる客のうちの、一人です。貴方と同じ国の人かもしれません」
「いいぞ、俺」
菊には、小さなころから世話になってる。陰間としてはもう籐の立ってしまった俺だけど、まぁ、買ってくれる人が居るのなら。
「お勤め果たしてくるぞ」
そう、笑って言ったら、菊は顔を曇らせて着ている着物の合わせから貝殻の入れ物を取り出した。
「アルフレッドさん……最初からあまり無体な真似はされないかとは思いますが、念の為。余りにも耐えられないようでしたら、叫んで下さい。ああ、きちんと貴方にも教えておくべきでしたね……」
「なんだい、これ」
「潤滑油です」
「?」
渡された、真っ白な貝をパコンと開いたら、中にはロウで固めた様な深紅の油が入っていた。
何に使うんだろう。
思いながらも、「サンクス」と言って羽織の袖の中に入れたら、菊はまた大きく息を吐いた。
「全く、何の為に貴方の筆卸を取っておいたんだか。年が明けたら、廓の遊女達に競わせる予定でしたのに」
「なんだいそれ」
「何でもありません。はあ。まあ、お客様なら仕方がありませんしね……」
目を細めて勘定をする振りをする菊に、今度は俺が息を吐いて「お湯浴びてから行ってくる」と声を掛けて、踵を返した。
-------------------------------------------------------------------------
※中略
※書いてたんですけどエロな展開にいかなくなってしまったので、↓から、お客さんアーサーとのエロシーンになります。アルアサです。
※エロシーンだけ先に書いてたので繋がらなくなって
※すみません
-------------------------------------------------------------------------
「……声、聞かせてよ。アーサー」
「……ッ、や、だ、隣、聞こえてる」
「……そりゃ、そういう事をする場所だから……誰も気にやしないよ」
「やだ……」
夜が更けて尚赤く染まる廓。薄い障子は堤燈の灯りを通過させて、狭い部屋をぼんやりと橙色に照らす。
わざとそうしているんだろうけど、壁の薄い個室からは隣の客の声がよく響く。あっちの声が聞こえてるって事は、もちろんこちらの声も漏れると言う事だ。俺はいいけど、アーサーが。嫌がって、むずがって、奥歯を噛むのを止めてくれない。
アーサーってば。
かり、と薄い色の乳首を齧ったら、彼はびくんっと背中をしならせて、ヒッ、とようやく声を上げた。
「ねぇ、一応俺、ここの陰間なんだぞ。君はお客さんで……君の声が聞こえなかったら、俺、仕事をさぼってると思われちゃうじゃないか」
「だ、だから、何もしなくていいって……」
「それこそ恥ずかしいよ。満足させていない客に身請けされるなんて」
「身請けしてから」
「やーだよ」
はぁ、と息を乱す彼に、ぐっと圧し掛かって耳を舐める。ビクッと反応する彼の身体に、嬉しくなって耳の穴に舌を入れた。薄い背中にぞわぞわと鳥肌が立つのがわかる。ちゅぅ、と音を鳴らしながら反対の耳も指で弄ったら、アーサーは俺の腕に爪を立てて、「やめろ」と小さな声で抵抗した。
「教えてよ。沢山見てはいるけど、自分でするのは初めてなんだ」
「……ッ、しゃ、しゃべんな」
「菊が見世に立たせてくれないからさ……ねぇ、気持ちよくさせたいんだよ。アーサー」
「や……っ、あ、ッ!」
右手で、きゅうっと尖った乳首を抓ってやる。背中が弓みたいに反り返って、白い喉も一緒に仰け反った。
すごいなあ。感じやすいのかな。
面白くなって、更に強く爪を立ててそこを弄る。親指と人差し指で捻りあげる様に、きりきりと。アーサーは「痛い」と首を振りながら、緑色の瞳に涙を溜めた。
「痛い?」
「い、……っいたい、嫌だ、それ……」
「だって、こうすると君のここ震えるんだぞ」
「ひっ」
足を閉じる事が出来ない様に入れている片足の膝で、彼の股間をぐりぐりと回す。
いやだ、なんて言っている割に、ここは完全に勃起してる。キスをしてから、さっきからずっと。
身を硬くするアーサーの頬に唇を押し付けて、乳首を弄っている手とは反対側の手で着物の裾を割り開いた。帯が邪魔で、全部は肌蹴られない。その分何だか淫猥に見える。下着をつけていなかった為に、着物の裾を左右に広げただけで彼の勃ち上がった性器が露になった。
(……うわ)
初めて、自分以外の人のものを見た。
俺と同じ形してる。当たり前だけど。おかしな事に感動して、細部も同じなのかと見たくなる。
太腿に手を掛けて足をぐっと開く。慌てて、アーサーが自分の手で着物の裾を戻そうとした。
「み……見るな、やだっ」
「いやだよ。見せてよ」
手を払ってから再度裾を捲り上げて、細い腕は両手まとめて頭上で掴んだ。
自由の利かなくなった腕に少し怯える様に、アーサーが泣きそうな声を上げて、再度「見るな」と顔を背ける。
布団の上に着物の帯から下だけを大きく広げさせられたまま横たわる彼。薔薇色に染まる身体の中心で、性器は蜜を垂らしながらひくひくと天井を向いている。
ちょっと……すごい。自分と同じ性を持つ身体なのに、やけに興奮する。
ごくんと息を飲んでから、ゆっくりと震える性器に手を伸ばした。
「……ッあ!」
指が先端に触れた瞬間、びくんっと彼の身体が跳ねた。同時に、裏返った高い悲鳴も上がる。
初めて聞く声。どきどきしながら触れた性器を掌で包んで、ゆっくりと上下に擦り始めた。
「……ッう、……ん、んっ」
「……アーサー」
「あ……っあ、あ、あぁ……ぅ」
「気持ちいい?」
左手で彼の両手を頭上で抑えつけたまま、右手でちゅくちゅくと性器を擦る。
俺よりも少しだけ小さいかもしれない。自分以外のものに触れるのが初めてだから、感覚がわからない。これでいいのかな。普段自分で処理する時の様に根元から上下に扱いて、時折先端を指で回す。一番先の部分に触れると足の爪先が伸びるので、そこが好きなのかと思って何度も弄った。
「やっ……や、や、やだ、やだっ、アルッ、それ……ッ、だ、駄目だ、だめっ」
「え? なんだ、違うの? 気持ちよさそうだぞ」
「やめッ……! び、……ッ敏感すぎて、やだ……ッあ、あぁっ!」
くん、と喉が仰け反った。日に焼けていない、真っ白な喉。噛みつきたい。思わず喉を鳴らして鎖骨のあたりに歯を立てる。アーサーの声が再度高く上がって、握っている性器が反り返った。
(……なんだ、この人。やっぱり少し痛いのが好きなんじゃないか)
とろとろと透明な液体は俺の手を濡らして、敷いてある布団にも染みを作っている。
すごい。びくびく震える内股も、びっしょりだ。この人のいやらしいカウパー液で。
廓にいる姐さん達に聞いていた様に、俺も、こちらでも奉仕しなければと唇を舐める。実践なんてした事無いけど、大丈夫かな。
はあはあと喘ぐ唇の端にキスを落としてから、彼の両腕を解放して、今度は足を大きく広げさせた。
「なに」、と上がった息のまま視線を下に向けるアーサーと一度目を合わせて、足の間に屈みこむ。
上を向いたまま震えている、色の薄い性器。透明な液体で濡れたそれは、部屋に灯している橙色の蝋燭の明かりに光っているように見える。
自分も同じものをもっているのに、嫌悪感はなかった。じっとそれを見る俺に、アーサーが恥ずかしそうに俺の前髪を掴む。引き剥がされる前に、目の前にある彼の性器を口に含んだ。
「…………ッ!」
上から、アーサーの息を飲む声が聞こえる。
一気に根元まで飲み込んで、咽そうになりながら舌を絡めた。
「ん……っ、ん、んん」
「……ッア! あ、あっ」
「んー……っん、ん、ぅ」
「やめろっ……ア、アル、……っある、あ、っあぁ……ッ」
ぎゅうっ、とアーサーの手が俺の髪の毛を掴んで、引っ張る。ただ、力は全く入っていない。引っ張られているというより、掻き混ぜられているみたいだ。
気持ちいいのかな。大きくなった。
口の中で反応を示す彼のものが愛しくて、俺もえずきそうになるのを必死で抑えて、喉の奥で締めつける。両膝を抱えている為、宙に浮いた彼の爪先がばたばたと暴れた。鼻にかかった声が甘くなる。
初めて咥えた性器は、熱くて少し変な味がして、自分も同じものを持っているのかと思うと不思議になった。苦しい。それでもこれを咥えているという興奮の方が勝る。
力の抜けてしまった足を更に広げて、一度口を離して根元を舐める。金色の下生えは俺の唾液と彼の先走りでしっとりと湿ってしまっていて、それが妙にいやらしかった。
音を立てて性器にキスをして、彼を見上げる。緑色の瞳には、涙の膜が張っている。溶けたその表情が可愛く見えて、今度は指を使って性器を根元から扱き上げた。
「ん……っ、ア、ッあ、あぁ……!」
「アーサー」
「……っふ、ぅ、……ッあ、あ、んっ」
開いている太腿がびくびく震える。滑りの良くなった性器を上下に擦りながら、再度性器の根本に舌を這わせた。
性器からとろとろと流れる蜜は、大きく広げさせた足の間、お尻の方まで流れている。指でぬるついた皮膚の感触を確かめながら、奥まった場所に中指を伸ばした。
予想していなかったんだろう。動揺した様にアーサーの上体が跳ねる。
「な……っな、なにっ……」
「何って」
解さないと、と伝えてから、手の甲で唾液に濡れた唇を拭った。もう一度膝の裏に手を入れて、両足を持ち上げる。
赤ん坊が、おむつを替えられている様な格好だ。恥ずかしさに真っ赤になったアーサーの顔が、体勢のきつさで少し歪んだ。
目の前に曝け出される、文字通りの彼の秘部。きっと自分でも見た事ないだろう、こんな所。部屋の薄明かりで見えるそこは、ひくひくと収縮を繰り返している。
ここに、俺のを挿れるのか。無意識に喉が鳴って、息が上がった。
膝が胸につくくらいまで足を折り曲げて、更に大きくそこを露出させる。羞恥で真っ赤になったアーサーが、両手を下半身に持ってきて股間を隠した。
「手、どかしてよ」
「や……やだっ……」
「何で?」
「は、恥ずかしい、灯り……」
「灯りを消してくれ」、というアーサーは、もう俺とこの先に進む覚悟を決めたんだろうか。さっきまでは、「止めて欲しい」と泣いていたのに。
少し嬉しくなったけど、彼の願いは聞いてあげられない。だって、本当に何も見えなくなっちゃうんだぞ。顔も、身体も。今、どんな表情をしているのか、見たいじゃないか。
枕元にある硬い蕎麦殻の枕を、彼の腰の下に入れた。仰向けの状態でぐっと腰が上がって、蝋燭の明かりがそこを照らす。熱くなっているアーサーの手をどかして、もう一度性器の根本に唇を押し付けた。
「……ん……ッ!」
すぐに舌を絡めて、音を立てながら舐めてやる。抵抗しようとしていたアーサーの手は布団の上にぽとりと落ちて、指先が白いシーツを引っ掻いた。
行動の一つ一つにぞくぞくする。この声、きっと外にも漏れているんだろうな。構わずに太腿の付け根にも舌を這わす。
性器から溢れだした蜜は、内腿や、お尻もとろとろに濡らしている。指先でそこが濡れているのを確かめると、ゆっくりと爪の先を中に埋めた。
「……っあ……ッ!」
「……痛い?」
「……っ、ぅ……ッあ、あぅ……っ」
ずず、とそのまま根元まで指を進めていく。身体が硬直しているみたいだ。入口も中も硬くて、とても俺のなんて入る感じがしない。中は、暖かくてぬるぬるしている。当たり前だけど、人のこんな所触るの初めてだ。自分のだって、触った事無い。アーサーだって無いだろう。未知の感覚に必死に耐える様に、はっ、はっ、と短く呼吸を繰り返してる。耐えているその姿が何だかいじらしく見えて、開いた太腿にキスを落とした。
再度性器を口に咥えて、舌を使って舐めあげる。指で後ろの穴を、口で性器を。一瞬締めつけが緩くなったので、中に埋めている指をぐるりと回した。
「あっ」と声が裏返って、身体が跳ねる。咥えている性器が喉の奥に刺さる。苦しい。でも。
ぐっと目を瞑って鼻で呼吸を整えて、後ろに挿れている指の抜き差しを早くする。男の癖にびしょ濡れになっているそこは、動かす度にちゅくちゅくといやらしい水音を立てた。
アーサーの声も、酷く甘い。喉元まで咥えている性器を先端までずらして、上目使いで彼の痴態を盗み見た。
「……あ、っあ、あぁ、ある、ッアル……」
細い身体が、びくびくと下半身を痙攣する。アーサーは両手を顔の前で交差させて、鼻を鳴らして啜り泣いている。どっちに集中していいのか分からないんだろう。前も後ろも、同時にこんな風に責められて。
はあはあと息をつぎながら、何度も首を振っている。布団を濡らす涙は見ていて少し可哀想な気もするけど、止めてなんてあげられない。第一、口の中の性器は萎えて無い。後ろの穴はどうあれ、口での愛撫は気持ちいいんだろう。
一本目の指がすんなりと抜き差し出来る様になり、二本目の指を挿し入れる。
びくん、と身体が震えて、蕩けていた目が大きくなった。
「あ……っ、あ、あっあっ、……っあぁ……!」
「……入った……少し、広げるから」
「……ッああ! あ、あぅぅ……ッ!」
少し入口はきつい。でも、中まで潜り込めば一本目と同じ様に内壁はうねる様に絡みついてくる。
ここに、自分の性器を突っ込んだらどんなに気持ちいいんだろう。突っ込んで、引っ掻き廻して、細い腰を掴んで揺さぶって。
M字に足を広げさせている彼の中心は、俺の唾液と自分の体液でどろどろだ。蝋燭に照らされている乱れた着物と相まって、更に色っぽく見える。
口に含んで居た性器を握って、ゆっくりと上下に扱く。同時に、後ろの穴も弄りながら。
アーサー、と名前を呼んだら、彼は掠れ始めた声で泣きごとを言った。
「も……っぅ、もう、やだ、やだぁ……ッア、あ、ぁっ!」
「入るかな……まだ、駄目かな。力抜いてよ」
「あぁ、あ、……ッはぁ、あぁあっ!」
三本目。
今度はゆっくりなんてしてあげられずに、一気に根元まで突っ込んだ。
アーサーの身体が一瞬硬直する。同時に中の指も絞られて、千切れそう。息をするのも忘れていそうなアーサーの頬に唇を落として、中の指をばらばらにして掻き混ぜた。
「ねえ……いいかな、もう、いいよね。挿れたい」
「ひっ……アッ!」
「柔らかいし……無理だったら止めるから」
「や……っ、う、うそ……ッ」
嘘なもんかい。わざとそう言ってから、中に埋めている指をずるりと抜いた。
念の為、枕元に置いてある貝の入れ物に入った油を掬う。少し硬めてある、赤色の固形油。体温で溶けるそれを、自分の着物の下で窮屈になっている性器に塗りつけた。
今まで真っ赤だったアーサーの顔から、少し血の気が引くのが分かった。視線は、俺が着物の裾から取り出した性器。ああ、こうして比べてみると、彼とはだいぶ大きさが違うかもしれない。
残った赤い色のした油をアーサーのお尻にも垂らして、中も指を使って丁寧に馴染ませた。
「ほ……っ、ほんとに、するのかよ」
「え? 当たり前じゃないか。してくれるんだろ、俺の筆卸し」
「で、でも……」
「今さらここで終わりだなんて、それこそ嘘だよ」
自分の性器の先端を彼の入口に押し付けて、軽く入口を捏ねる様に回す。
アーサーの身体が、ぴくん、と跳ねる。指はシーツを掴んで、怖いのか軽く震えている。何に怯えているんだろう。これから先に感じる痛みか、感覚か、それとも、弟として面倒を見てきた俺に抱かれてしまうという背徳感か。悪いけど、どれも止める理由としては聞けない。特に一番最後のは。
だって、俺はずっと君が好きだったんだ。小さなころから。きっと、こうしたいと思っていたんだよ。アーサー。
「好きだぞ」と、伝わるか伝わらないか位の声で呟いてから、ぐっと膝に力を入れて、彼の中に押し入った。
「ヒ……ッ! ……ぁ、あ、あっ……!」
「……待って、ちょっと、入らない……」
「は、いってる、入ってる、やだ、やだ……っ」
「まだ先っぽしか……ねぇ、もうちょっと広げるから。足持ってて」
「んぅ、ぅ、あ、あぁ、あー……!」
くちりと先端しか埋まってない下半身から性器を外して、代わりにさっきまで弄ってた様に、今度はまとめて三本、指を突っ込む。すんなりと入る入り口。中で引っ掻くように動かせば、アーサーは瞳を瞑ってすすり泣く。
痛いのかな。気持ち、悪い?
ぐちぐちと入り口を弄りながら、上がった息で耳元に尋ねる。
彼はぎゅぅっと瞑った目元を薄く開いて、その後小さく、首を振った。
「っふ、ぅ、ぅ、うぁ、あ、あぁ……!」
「……っあ、すごい……入ってく」
「ぁあ、ッア! や、だ、無理……!」
「まだ、もう少し……」
「あぁ、あー……!むり、だってば、ぁ……!」
足を限界まで開かせて、膝の裏に手を引っ掛けて、ずず、とゆっくり性器を入れる。露出された結合部は先程塗りこんだ油がてろてろと光っていて、それが異常に興奮する。
がちがち奥歯を噛むアーサーの額にはぶわっと脂汗が浮いていて、ああ、ほんとに辛いのかなと少し思う。
埋まってる自分の性器はまだ半分。これ以上は止めたほうがいいと思う自分と、全部、根本まで突っ込んでみたいと思う自分が、心の中で葛藤する。
アーサー、名前を呼んでキスをしたら、彼は俺の首に手を回して、鼻を鳴らしながら舌を絡めた。
「っん、ん、んんっ」
「……ん、ッアーサ……」
「んぅ……、ん、んっ、んんん! んぁ、あっ、あ!」
「っぷは、……唇、離さないで」
「あ、っん、んんんん、んー……!」
外れる唇を再度塞いで、俺は中途半端に埋まった性器の抜き差しを始める。
体勢は正常位、腰の下に丸めた毛布を突っ込んで、高さを合わせて。
唇の中に吸い込まれる、くぐもった声がセクシーだ。キスをしたまま動くと、衝撃で前歯がガチンと当たる。
好きな様に動きたくなった俺は、唇を離してから彼の細い両足を抱えあげた。
白い襦袢が身体に絡みついている。腰のあたりでわだかまっているものを解いて全裸にして、布団に縫いつけるみたいに上から腰を叩きつけた。
「ア、あぁ、ああ! ッあ、……ッあぁ、あー……っ!」
白い喉が、痛そうな位に仰け反る。
辛いのかもしれない。でも、構ってやれないくらいに余裕が無い。初めてした性交は、頭がおかしくなりそうな程に気持ち良かった。
(なんだ、これ。皆こんなことしてたのか)
下半身が、自分の突っ込んでる性器が蕩けそうだ。そこから頭のてっぺんまで甘い何かが電流みたいに走って、抜ける。性器で中を擦る度にそれは起こって、頭の中で小さな火花が何度も散った。気持ちいい。すごく。
汗で滑る足を肩に担いで、更に深くまで入ろうと彼の身体を抱きしめた。アーサーは俺の身体の下で悲鳴を上げて、背中にぎりっと爪を立てる。折り曲げられた足が辛そう。思うけど、こうして組み敷く事の興奮が抑えられない。がつがつと思いのままに突き上げたら、彼は引っくり返った声を上げて「助けて」と言って泣き喚いた。
たすけて、って。ちょっと。
心の中で少し笑って、唇を舐める。立場は彼が客で、俺は買われている側なのに。これじゃ、逆みたいだ。
完全にこちら側にある主導権が、あまり今まで意識した事のない征服欲を満たしていく。
体位を少し変えた為、背中に回らなくなったアーサーの手が俺の二の腕を掴む。血がにじむくらいに爪を立てられて、そのお返しに思い切り中を掻き混ぜた。
「い……ッぁ、あ、あぁっ!」
「もう、爪痛いじゃないか。縛るぞ」
「えっ……え、えっ、や、やだ……ッ」
「両手あげて」
「やだぁっ」
自分の襦袢の帯をしゅるっと解いて、嫌がる彼の両手を引っ掴んで頭上でまとめる。
お尻には俺のが突っ込んであるままだから、あまり変な動きも出来ない。じたばたする彼に軽く舌打ちして、埋めている性器を奥の方に打ちつけた。
「ッぅ、アッ!」
「俺も、余裕ないんだよ……大人しくして」
「あ、っあぅ、あ、っああ!」
一度手を解放して腰を掴み直すと、そのまま先程と同じくらいの強さで中を突き荒した。
力が抜けた所を見計らって、再度両手をまとめて縛りあげてしまう。縛った帯の端をそのまま燭台の縁にひっかけて、身動きが取れない様にしてやった。
「やだぁ……ッあ、あっ、あぁ、あぁああっ!」
「……ッごめん、こうした方が興奮するんだ。変なのかな、俺……」
「あぅ、っぅ、あッ、あ、強い、アル、壊れる……っ!」
「激しい」、と舌を噛みそうな衝撃の中で、アーサーが泣き喚いた。
足を大きく広げさせて、両手は頭上で縛り上げて。腰の下に丸めた布団を突っ込んでいる所為で、こちらに腰を突き出している様に見える。アーサーは泣いているのに、その泣き顔にさえ興奮する。「壊れる」と言われる度に、壊れてしまえ、とさえ思ってしまう。
こんなに彼の事が好きなのに、やっぱり俺は少しおかしいんだろうか。
「アーサー、名前、呼んで……俺の、俺の名前」
「……ッあ、ぁあ、あっ、あ、あぁあっ!」
「きっと、廓中に響いてるぞ、君の声……ほら、呼んでよ」
「あ、……ッある、あ、アル、ある、あ、……ッあぁ、あーッ……!」
広げた足を更に限界まで開かせて、丸見えになった結合部と彼の顔を交互に見ながら奥歯を噛んだ。
狭い穴に、俺の性器が出たり入ったりしてる。軽く粟立っているのは、俺の先走りの液だろうか。
視界に広がる光景にも興奮して、目眩がしそうになった。血が上りすぎてる。気持ち良すぎて、このまま死にそう。
はぁ、はあっ、と荒い息を吐きながら自分の欲求のままに彼を揺さぶっていたら、アーサーが震える声で俺に言った。
両手は、頭上に縛られたまま。とろっと蕩けた緑色の瞳が俺を見る。「いきそう」と頭を振りながら、アーサーはまるで何かに怯える様に泣き出した。
「っぅあ、あ、あぁあ……っ! あ、る、……ッいく、あ、いく、いく……っ」
「……え? うそ、見せて」
「い……ッ、いっちゃ……っあ、あっ、あぁ……っやだぁ……ッ!」
「いいよ、出して」
いやだ、と泣き叫ぶ彼の身体を抑えつけて、中を掻き混ぜる様に何度も腰を叩きつけた。
人のイく所なんて見た事無いけど、彼も俺と同じ様に射精するんだろうか。どんな顔で、どんな声でイくんだろう。見てみたくて、イった時のこの中はどうなるのかが知りたくて、夢中で細い身体を揺さぶった。
アーサーの瞳が大きく開いて、腹筋がぶるっと一度震える。縛られている両手が硬直して、腰が浮いた。
「いく、やだ、や、や……ッあ、あっ、あっ……ぁ――……ッ!」
背中がぴぃん、と仰け反って、白い喉が露になった。同時に爪先が思い切り伸びる。
ヒッ、と喉を鳴らしてから、アーサーは泣きながら白い精液を迸らせた。
(う、わっ……)
中が思い切り絞られる。根元から千切られそう。持って行かれる。
俺もぎゅっと目を瞑って、歯を食いしばる。射精のリズムに合わせて、びくんびくんと身体が跳ねる。その度にアーサーは泣きながら俺の名前を呼んで、中に入っている性器を締めつけた。射精の波は一度で終わらず、何度も背中が弓なりに仰け反って白い身体が痙攣する。その度に中はいやらしく蠢いて、まるで違う生き物の様だった。
アーサーの目は遠くを見ている。金色の睫毛が震えて、そこからとろとろと涙が流れていた。半開きの唇から、「あ、あ……」と余韻の様な喘ぎが聞こえて、それがすごく扇情的だった。
身体の上に散った真っ白な精液。根元からゆっくりと扱いてやったら、アーサーは身体を捩らせて「駄目」と言って頭を振った。
色っぽい。男の癖に。最中から思ってたけど、この人、廓にいたら結構な上客がつくんじゃないか。
思わずごくっと唾を飲んで、それから先程と同じ様に性器の抜き差しを開始した。アーサーの身体が跳ねて、力の入っていない足がばたばたと暴れ出す。縛られた腕を必死に動かして、彼は「いやだ」と泣いた。
「ッあ、あっ! やっ……! まだ、まだ、アル、オレッ……」
「イってるんだろ? まだ……すっごい、中、気持ちいい……っ」
「や……っ、や、……ッやだ、あぁあっ! あー……!」
力の全く入らなくなってしまった身体をぐるっと反転させて、バックの体勢で奥まで性器を突き入れた。
挿れたまま引っ繰り返したものだから、変な所に当たったのかもしれない。裏返った悲鳴を上げながら、彼はくしゃくしゃになった布団の上掛けに爪を立てている。喘ぎ声は高くて、甘くて、今までこの廓の中で聞いたどんな声よりもいやらしい。今頃は、廓中に居る客が彼の声に聞き耳を立てているんだろう。
ああ、今のこの彼の顔も、痴態も、その障子を開いて見せてやりたい。赤い格子に囲われたこの部屋で、脱がされた襦袢の上で、お尻に性器を突っ込まれてよがる彼を。今、この人を抱いているのは俺なんだ。そう思ったら更に興奮して、ぞくぞくした。
「……気持ちいい? アーサー。俺、君の事満足させてあげられてるかな」
「……っあ、あっ、あっ……! あぁ、あぅう……ッ」
「俺の事身請けしてくれたら、毎日こうして抱いてあげる。もっと、上手に君をイかせてあげられるようにするから」
「アル……ッ、あ、ある、あぁ……!」
両手の拘束を解いて、腕を思い切り後ろに引っ張って、結合を深くして、骨盤が壊れてしまう位に腰を打ちつける。鏡が前にあれば、今彼がどんな顔をしているかが見えたのに。次はきちんと準備しよう。
ぱんっ、と腰を叩きつける度に一緒にぐちゅぐちゅとした音が結合部から響く。俺の先走りのものだって、彼の中で溢れているんだろう。
アーサーはその後も続けて射精して、子供みたいにしゃくりあげながらぐしゃぐしゃの布団に沈み込んだ。もう、お尻にも全く力が入っていない。柔らかくてとろとろだ。
「気持ちいい?」と柔らかくなったお尻の穴に埋めた性器を掻き廻しながら尋ねたら、彼は涙で蕩けた瞳を合わせて、小さくこくこくと頷いた。
「……ああ、可愛いな。本当に……ごめん、俺、まだ楽しみたいんだ。朝まで付き合ってくれるだろ?」
「……っふ、ぁっ……ッあ、あっ!」
「一緒に、気持ちよくなってよ。アーサー」
「あ……っ、あ、あっ、あぁあっ……!」
汗だくの額を拭って、再度身体を正常位に戻して。
湿った唇にキスをしながら抱きしめたら、アーサーも同じ様に俺の背中を抱いてくれた。
「……げほっ」
「…………?」
「ぅー……、み、水……」
翌朝。
隣で寝ていた彼の咳き込む声で目が覚めた。
障子の隙間から白い光が差し込んでいて、部屋を明るく照らしている。ごちゃごちゃに散らかった、ひどい部屋。
アーサーは布団からのろのろと這い出て、赤い漆で塗られた水差しに手を伸ばしていた。
薄目を開けてそれを見ながら、彼が一息つくまで声を掛けるのを我慢する。後ろから見た彼の背中や首には、俺が昨夜つけた愛の印が嫌というほど残っていた。
水差しに直接口をつけてそれを飲むアーサーに、不精だなあ、と心の中で笑ってから気付かれない様に起き上がる。後ろから羽交い締めする様に抱きしめたら、彼は「わぁっ!」と心臓が口から出た様な声を上げた。
「おはよう、アーサー」
「っ、お、……おはよ……」
「ワオ、すごい声だな。大丈夫かい」
声が枯れて、ガラガラになってしまっている。この声じゃ、誰の声だかわかりゃしない。
半分笑い、半分心配になりながら裸の背中を擦ったら、アーサーは「誰の所為だよ」と掠れた声で唸って、俺の首元に顔を埋めた。
昨日、俺と彼はこの廓の中で夫婦になった。菊の作ったこの遊郭は少し特殊で、一度指名をして馴染みとなった客は「旦那」と呼ばれて、他の遊女や陰間には手を出せない。案外廓の中のしきたりは厳しくて、大門の外とは違った常識にはここにはある。破ったら最後、きついお灸を据えられるらしい。
ルールの良く分かっていないだろうアーサーに笑って、俺は一歩後ろに下がって襦袢の合わせを正した。
ぼさぼさになっているだろう髪の毛も、気持ちだけでもと思って綺麗にする。
「今日から、君が俺の旦那様だ」
今まで見て来た兄さん達の真似をして、「末永くよろしくおねがいします」と三つ指をついて頭を下げたら、アーサーは戸惑った様に「……? おう」とおかしな返事をした。
「君、今日は居続け出来るんだろ? 朝ご飯は部屋で食べよう。この国のご飯って美味しいんだぞ」
「……なあ、身請けの話は? いつから出来るんだ」
「そうだなあ……しばらくは、通って貰わないとならないと思うぞ。あと、菊はすごくけちんぼだから結構ふっかけられるかも」
「通うのは構わねえけど……お前、オレ以外に買われたりしたら、承知しないからな」
抱かれる側だって言うのに、可愛らしい事を言ってくれる。
涙で赤くなった瞳をこちらに向けて口を尖らせるアーサーに、俺は控えめに笑いながら言った。
「だったら、毎日来てくれよ。俺が他の客の座敷に上がらなくても済む様に」
君の身請け話にも、なるべく早く首を縦に振るからさ。
付け足す様に言った言葉に、アーサーの顔が青ざめる。その後にすぐ真っ赤になって、掠れた声で怒鳴った。
「なるべくって、お前……っ、何度か断るつもりかよ!」
「だって、陰間の身請けなんて聞いた事ないんだぞ。すぐに落ちてもつまらないじゃないか」
「ふ、ふざけん……ッ痛ぁっ……!」
「あ、腰? 大丈夫? 安心してよ、君を破産させようとなんて思ってないからさ」
「そういう問題じゃねえよ、ばかぁ!」
痛めた腰を庇いながら怒鳴る旦那様を布団に転がして、俺もその隣に滑りこむ。
ぶつぶつ言う口を塞いで髪の毛を撫でたら、可愛い人はすぐに大人しくなって俺の首に手を回した。
外から、雀と鴉の声が聞こえる。そろそろ廓の赤い光も全て落ちて、他の部屋の客達も起き出すだろう。
普段は俺が率先してご飯の支度に掃除に走り回らなければならない時間だけど、今朝は別だ。だって、今日は一日この人に買われたのだから。
彼の体温にうとうとしながら、あ、と思いだして口を開く。
「……三千世界の鴉を殺し、主と朝寝がしてみたい、って知ってる?」
「……なんだ? それ」
「この国の偉い人が作った歌だって。朝から騒がしい鳥なんて全部殺して、二人でゆっくり寝ていようっていう、廓の歌」
「……へえ」
「君が隣に居る時に歌う事になるとは思わなかった」
冗談みたいに笑って、そのまま二人で目を瞑る。
ここは花街、現実から切り取られた夢の街。
金と欲望の吹き溜まりとも言われるけれども、俺はそうは思わない。
花の様な遊女達は赤い廓の中で一時の愛を売り、春を売り、夢を売る。俺達の様な陰間も然り。
一時だけの夢でもいいじゃないか。それがずっと続けば永遠だ。まあ、実際の現実は、そうはいかないけれどもね。
彼とのこれからの事を考えるのは、寝て起きてからでいい。
心の中でふふっと笑って、鳥達が騒がしくなる前に眠ってしまおうと、俺は彼を抱きしめて意識を飛ばした。
Copyright(c) 2011 all rights reserved.