ヰタ・セクスアリス 黒

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恋はあせらず!?





Side: Alfred


「……ん、んっ……ぅ、あ」

ぎし、と寮に備え付けの簡易ベッドのスプリングが軋む。
あんまり丈夫に出来て無いんだよな……思いながら、はぁ、と息を吐いて目を瞑った。
『ア、アル、アルッ……あ、や、止めちゃやだ、もっと……』
「……アーサー、ッアーサー」
『あっ、あ、いく、いく、あぁっ……!』
白い肌が艶めかしく光って、汗に濡れた手が首に回る。
ぎゅっと抱きしめられて、金色のぱさぱさした髪が頬に当たった。俺も、同じくらいの強さで、細い彼の身体を抱きしめる。
(……待てよ。アーサーってどれくらい細いんだ?)
髪の毛の感触は? 汗を掻いた時の身体の香りは?
っていうか、最中の彼って、一体どんな声で喘ぐんだ……?
右手を動かしながら、脳みその違う場所で少し考え始めてしまったから、身体と気持ちがばらばらになってしまった。性器に添えた右手の動きは止まらずに、はっと気づいた時には、目の眩むような射精感が襲ってきている最中だった。
「ア、アーサー……、っくそ、……ッ!」
しまったと思いながら、ぎゅっと目を瞑って、恋人の顔を思い浮かべる。先程までいい具合に妄想で作っていた彼の顔は、もういつもの皮肉で一杯の顔しか想像できなくて。俺は『ばーか』と口の端を上げて笑っているアーサーの顔で、イってしまった。
「――――ッ……!」
びくんっ! と跳ねる身体に、お腹に、自分のぬるい精液が飛んでくる。
(ティッシュ、押さえるの忘れた……!)
シット、と舌打ちしながら、襲ってくる快感に目を顰める。
「んっ」と奥歯を噛んで、デニムから出している自分の性器を何度か擦って、溜まっているものを出しきって。上がったままの呼吸が落ち着くのを待ってから、俺は、はーっと思いっきり重たい溜息をついた。
……どうして、何で恋人が居るっていうのに、俺は寮の部屋でひとりぼっちで抜かなければならないんだ……。
「あー! あの人も、セックスくらいさせてくれたっていいじゃないか――――!」
学校指定の、二人部屋の男子寮……俺は丸めたティッシュと、全く使えなかった英国製のポルノ雑誌をばしんと投げた。
時刻は二十二時。隣から、「アルフレッド、うるさいよ!」と壁を叩かれる。じろりと壁を睨んで、こんこんと右手で叩いてから、「悪かったね、恋人がつれなくて欲求不満で」壁に向かって小さく唸った。
はー、と小さく溜息、前髪を掻きあげながらぐしゃぐしゃと髪を掻き混ぜて、また溜息。そのままベッドに倒れて、目を瞑る。目の奥で、からかう様な彼の顔が俺を見降ろして、笑っていた。
俺には年上の恋人がいる。
ちなみに、現在最高に上手くいっていない。重大問題発生中だ。
名前はアーサー。
アーサー・カークランドといって、同じ学校の生徒会長で、近所に住んでいた幼馴染だ。ちなみに男。
男の癖に、男の恋人だって? だからなんだ。今の時代、同性の恋人を持つ人だって珍しくもないだろう。まだまだ異端な存在である事は間違いないけど、後ろ指指される事なんて何も無い。普通の恋人みたいにデートもするし、手も繋ぐし、キスだってする。……隠れて、だけど。カミングアウトもしてないけど。
何で隠れているかって、あの人が嫌がるからだ。俺は皆の前で宣言したって構わないのに、彼は俺と恋人で居る事を隠そうとする。一度、それで大ゲンカになった事もあるけど、それはもういいんだ。結局、俺が折れたから。
ゲイであることがバレたら嫌だとか、世間体とか、そう言うことではなく、ただ、恥ずかしいだけらしい。生徒会長である自分が、自ら風紀を乱してたまるかとか何とか……そんな事言って、こっそり自分の風紀は乱しまくっている癖に。
だから、それはいいんだ。彼が学校内では大きな声では言いたくないと言うのならば、それで気が済むのなら、我慢する。どうせ学校を卒業したら関係なくなるんだし……。
問題は、そこじゃない。
『……ん、アル、駄目だ。ストップ……』
『……なんで? いいだろ、誰も居ないよ』
『駄目だって……これ以上は、やだ』
『…………やだって』
『……やだ。したくねえ……』
 二人きりの時にいい感じになっても、決してキス以上のことをさせてくれない。ぐいー、と顔を押しのけてそっぽを向かれた時には、俺は二の句が告げなくなった。
……したくないって、したくないって? 何を? キスの、その先を? どうして、と尋ねても答えてくれない。問い詰めれば「だったら女と付き合えよ」と、全く論点の違う事を怒鳴られる。
『何でそこで女の子が出てくるんだよ。君に女性役になって欲しいなんて言ったことないだろ』
『だって、どうせそうなるんだろ。絶対いやだ』
『勝手に思い込まないでくれよ。無理強いなんて絶対にしない。話し合おうよ』
『だって……お前に身体、触られたくねえんだよ』
『……は?』
『だから、いやだ。さわるな』
『…………』
ベッドに横になりながら、思い出してむかむかする。
(触られたくないって……恋人だろ? キスはするじゃないか)
冗談じゃない。向こうだってそうだろうけど、こちとらやりたい盛りの健康な男子だ。したくない? 触られたくない? なんで? 悪いけど、全く持って理解が出来ない。
好きだったら、愛情があるなら、気持ちだけじゃなくて身体だって、全部欲しいって思うのが普通だろ。第一、彼に全部女性役を押し付けようなんて思って無い。アーサーが望むなら、俺だって……。そりゃ、俺は男だから、抱かれるよりは抱きたいけど。まずは触れたい。同じベッドに入って、抱き合いたい。
(アーサーは、そうじゃないのかな……)
周りの人達に付き合ってる事は知られたくない、キスはいいけどセックスはいやだ。……何だよ、あの人、したくない事ばっかりじゃないか。
ベッドの上で軽く口を尖らせながら、何度目かの息を、はー、と吐く。
……一体何が嫌なんだ。俺はしたい。
きちんと、アーサーという人を感じてみたいし、感じて欲しい。
(もしかして、本当は俺の事なんて好きじゃないとか……実は、恋愛感情なんて持ってないとか)
ネガティブ思考に陥りそうな頭を、心の中でぶんぶんと振る。
そんな訳無い、キスだってしてるし、何度も「愛してる」って言葉だって聞いている。
じゃあ、何だ? まさか、そう言う事に全く興味が無い訳じゃないだろう。キスはあんなにえろいくせに……。
「……決めた。明日こそ、説得してやる。もう付き合ってから半年だぞ……いつまでこんな生殺しみたいな状態が続くんだ」
どうして俺とセックスしたくないのか、理由なんて知らないけど……答え様によっては、別れてや……いや、それは無理だ。ぶってやる。ついでに、無理やりにでもやってやる。
もう、色々限界だ。このままじゃ、俺のお相手は永遠に右手のままになってしまう。
ベッドから起き上がってデニムのボタンを閉めて、「よーし」と一人で叫んでいたら、また隣から「うるさいよ、アルフレッド!」というマシューの声が聞こえた。



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