ヰタ・セクスアリス 黒

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First Dance



First Night


「……今日、泊まりに来ないかい」

それは、こいつと所謂『恋人』同士になってから、二カ月以上経ってからの事だった。



広大な大地に、豊かな資源。
ハリウッド、ブロードウェイ、マンハッタン聳えるビッグアップル、世界の富豪たちがこぞって金を落として行くラスベガス。科学の結晶、NASAの宇宙ステーション……ご存知、自他共認める超大国。何でも一番が大好きなアメリカ合衆国。
大きな国土に比例して育ったでっかい身体。
昔はちょっとそれが癪でもあったけど、ここまで差をつけられちゃもうどうだっていい。逆に、今では誇らしい。元兄として、ではなく、恋人として……いや、本当によく育ったものだ。
少し矛盾はするが、育ての親としても少し自慢だったりもする。そりゃ、多少、独立の件とか色々と……昇華出来ない部分はあるけど、それはまた別として。
ただなあ。
こんな所まで、規格外に育って欲しいとは願って無い。
無かった。
恋人として初めて同じベッドに入った時……いや、その前に、同じシャワーを使った時。あんまりにも異例の物体に、思わず瞳を開いて、二度見してしまった。

「なんだい?」
「え、え……な、なんでもない」
「変な人」
アメリカは、そう言って笑って、鼻歌を歌いながらわしわしとボディソープを泡立てた。
オレはオレで、一人で真っ赤になりながらふかふかの泡を自分の股間で泡立てる。それを見たアメリカが、「……そんなにやる気まんまんにならなくてもいいんだぞ」と少しだけ頬を赤らめた。
「えっ? い、いや、これは」
「何か直接的だなあ……いいけどさ」
これから始まる夜に備えて、ぴかぴかに洗ってるとでも思われたんだろうか。恥ずかしい。
「ち、違う!」と慌てて否定しようと口を開きかけたが、本当の理由を言いたくなくて、すぐに閉じた。
(……見比べられたくないなんて、言えない。男として)
ぐぐ、と奥歯を噛んで、泡だらけになった下半身のまま、髪を洗う為に目を瞑ってるアメリカをもう一度盗み見た。
……沈静状態でこれなら、臨戦した状態では一体どんな事になってしまうんだ。
バスルームだっていうのに、背中に冷たい汗が流れるのを自覚しながら、一人でごくりと息を飲む。誓って、オレのがどうのって訳じゃない。こいつがおかしいんだ。いいか。決して、オレのが小さい訳じゃ……。
誰への言い訳をしているのかわからないまま、そのまましゃこしゃこと身体全体を洗い始める。シャンプーの終わったらしいアメリカが、「洗ってあげるぞ」と無邪気に言うものだから、こんな事考えてる自分が情けなくなってしまった。
いいよ、と丁寧に辞退するも、オレの視線はアメリカの股間に釘付けだ。
……でけぇ。
再度ごくんと息をのんで、オレはアメリカが先に出るまで、決して下半身の泡を洗い流す事はしなかった。



『……俺、君の事が好きなんだ。イギリス』
『……へっ?』

約二か月前。
突然仕事の後に呼びとめられて、腕を掴まれて、誰も居ない会議室に引っ張り込まれて。真っ赤に発熱してるアメリカに「何か変なもんでも食ったか」とおろおろしてたら、湯気が出そうな顔で、告白された。
我ながら、随分と間の抜けた反応だったと思う。
最初は何を言ってるのか分からなくて、次に何かの罰ゲームか、からかわれてるんだと怒りがこみ上げて来て、その後に「本気だぞ」と更に真っ赤な顔をして告げられて、ようやく思考が追いついた。
「イギリス、俺は」
「……え、わっ、わー!」
がっしとでかい腕で掴まれる、両肩。テキサスを顔に嵌める様になってからのアメリカをこんなに至近距離で見るのは初めてで、オレは大いにパニックになった。
独立されてから二百年、嫌われてるとは思っていたけど、好かれてるなんて思ってなかった。だって、オレの事が嫌になったから、お前独立戦争なんてしたんだろ。
予想もしなかった展開に、混乱し過ぎてしまったオレは半泣きになって、こいつを子供にまでしてしまった。
「っほ、ほあたぁっ!」
「わっ! ちょっと、ひどいんだぞ、いぎりちゅー!」
「あああ、アメリカ、ごめん、だってお前が変な事言うから」
「変な事ってなんだい! 君がずっと好きだったって言ってるだけじゃないか」
「嘘だ、だって、だってお前」
「嘘じゃないよ。まだ俺がこれくらいの頃から、君の事が好きだった。愛してたんだよ」
「うそだ……」
「沢山傷つけてごめんよ。でも、誓って言うよ。嘘じゃない」
まだ独立前の、小さいアメリカ。
色んな事がフラッシュバックして、ぶわっと瞳に涙が浮かぶ。
アメリカぁ。ぼろぼろと涙を溢して、オレは小さなアメリカを抱きしめた。
「ちょっと、苦しいよ、早く元に戻してくれよ!」そう腕の中でじたばたするアメリカをぎゅうっと抱きしめたまま、おいおい泣いて。自分がこいつを愛しているかどうかは正直わからないまま、何でか知らないが、そのまま空気に流された。
結局、オレはどんなアメリカにも弱いらしい。
魔法を解いて、大きなアメリカに戻してから「付き合って欲しい」と抱きしめられて、オレは「うん」と素直に頷いた。



……で、今。
本当、色々でっかくなったよなぁ……お前。
綺麗にベッドセッティングしたクイーンサイズのベッドで向かい合って、するりとバスローブの紐を解く。前を肌蹴させた時に、何の気無しにそう言ったら、アメリカは「……今そう言う事言うの、止めてくれる」と少し頬を染めて、ぽてりとした唇を尖らせた。
「え?」
「目の前に好きな人がローブ一枚で居るんだから、そりゃ大きくもなるよ」
「……え? えっ、あ、いや、違、そういう意味じゃ」
ぐいっと右手を掴まれて、アメリカの下半身に持って行かれる。
思っていた以上の超臨戦状態のそれに、口から心臓が出そうになった。
わぁっ! と思わず悲鳴を上げて、掴まれてる右手を引っ込める。目の前に居るアメリカは、更にむっとした顔をして、再度オレの両手を引っ掴んだ。
お互いに両手を絡ませるみたいに掴んで、力比べみたいな格好になる。力でアメリカに敵う訳なんてないから、すぐに痩せた身体は後ろに傾いて、オレは、ギー、と腹筋に力を入れて踏ん張った。
「わぁって、何だい。いいんだろ? 今更嫌だなんて聞かないぞ」
「ちょ、ちょっと待て、やっぱり」
「聞かない。もう、二か月も待ったんだ」
「ま、待てってば!」
叫んだと同時に、耐えきれなくなった身体がマットレスにぼふんと沈んだ。すぐにアメリカのでっかい身体が覆いかぶさって来て、ローブがするっと肌蹴られる。
熱を持った手が、脇腹をなぞって、下半身に。明らかな愛撫である手つきに、背中がぞわっと粟立った。
アメリカ。名前を呼ぶ声が、泣きそうになる。
ふわふわした金色の髪を引っ張れば、アメリカは「何?」と少し乱れた息でオレの瞳と目を合わせた。
「ア、アメリカ」
「……やっぱり嫌だ? どうしても嫌なら、先に俺が女性役でもいいけど……その後、ちゃんと抱かせてくれるなら」
「そ、そうじゃなくて」
「……それとも、やっぱり弟としか見れないとか……」
「違ぇよ、バカ」
今更。
オレは、困った様に眉を寄せる。
キスはした。数えきれないくらい。家族としてのキスじゃなくて、もっと濃厚な、恋人としてのキス。セックスの事だって、二人で何度か話し合って……こいつがオレを抱きたいって言うから、押しに弱いオレは真っ赤になって承諾して。
今更、昔のアメリカがちらつくとか、掘られるのが嫌だとか、そういうのは無い。男とヤるなんて勿論経験無いから、おっかなくないなんて事は無いけど。
オレなりに、色々覚悟して今夜を迎えた筈なんだ。
「じゃあ、何で……」
アメリカの金色の眉も寄る。そんな顔させたい訳じゃない。オレだって、お前とこうなる事を、それなりに楽しみにしてたんだ。
ただ、予想外に。予想以上に。
「お、お前のでかすぎんだよ、バカァ……!」
……でかかったんだ。
臨戦状態は、更に、オレ範疇を超えるほどに。
どきどきしていた感情全てどっかに吹っ飛んで、アレを突っ込まれるという恐怖しか感じられなくなるくらいに。


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