| ■男メリカ×男イギリス、女メリカ×女イギリス が前提です。 |
| ■女メリカの性格が偽造です。 |
| 「暑い……肩が痛い。じりじりする」 |
| 「ホント……ねぇ、それちょうだい」 |
| 「ヤだよ……君の分あるだろ」 |
| 「もう飲んじゃったの!はい」 |
| 「もー……我が侭だな」 |
| 「元はと言えば、全部アメリカが悪いんじゃない」 |
| 「全部じゃないだろ!だいたい、さっきのスタンドに入ろうって言ったのに君がぶーぶー文句を言うから」 |
| 「だってあそこのトイレ汚いんだもん!」 |
| 目の前のブロンドのアメリカ人は、俺の手からぬるくなったコーラをひったくると、それを一気にぐーっと飲んだ。 |
| ぬるい、まずい。ああ、もうイヤ。日焼け止め塗りなおさなきゃいけないのに、何で持ってきてないのよ。バカ。 |
| はぁっ、と大げさに肩をすくめて、俺の方を見て、青い瞳を細めて「バカアメリカ」と文句を言う。 |
| あのさ……そんなに文句を言う元気があるなら、ちょっとは君も手伝ってよ。 |
| 場所はアメリカ大陸を横断する大動脈、ルート66のど真ん中。 |
| 太陽は真上。焼けたアスファルトがじりじり暑い。ついでに、時々襲ってくる熱風も。 |
| 乾いた砂を下から上へ、巻き起こす。 |
| 只今、俺と彼女は、ガス欠を起こしたばかでかいハーレーを引き摺りながら、 |
| この果てしなく長く伸びるR66を汗だくの状態で歩いてる。 |
| 車両重量368kg、排気量1584のFLHRC、ロードキング・クラシック。 |
| ……ああ、何でよりにもよって、こんな大きなバイクで来てしまったんだ。 |
| 隣を歩く彼女は、さっきからぴーぴー文句を言いながら、星条旗柄の赤いヘルメットをぶらぶらさせてる。 |
| もう、疲れた!シャワー浴びたい、ドーナツ食べたい。 |
| あと早くイギリスに会いたい! |
| そう叫ぶ彼女……もう一人のアメリカに、俺は「こっちの台詞だよ」と、赤く焼けた痛い肩をすくめて溜息をついた。 |
| ※ |
| ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ……国の化身だか象徴だか、とにかく『アメリカ』とう姿をした人間は、 |
| 実は俺の他にもう一人居る。 |
| 男の姿をした俺の隣に居るのは、女のアメリカ。 |
| 現在のアメリカ社会の風潮をそのまま現しているかのような彼女……、 |
| 女のアメリカっていうのは、ご覧の通りかなり強く、そして非常に我が侭だ。 |
| 今の女性って本当に強いよなぁ……女性の社会進出が増えている事に異論は無いけど、 |
| 元々、きっと男よりも女性の方が精神的にはタフだと思うし、これでは近い将来のアメリカ男性の立場が |
| なくなるのではないんじゃないか。 |
| 対して、もともとレディファーストを重んじていたイギリス文化を受け継いでいるアメリカ男っていうのは、 |
| 実にフェミニストで、決して女性に手を上げない。逆らわない。まぁ、そうでもない連中もいるけれど。 |
| 女性の我が侭くらい、可愛いものだろ。 |
| そんな風に今まで思っていたけれど、今日、久々に再開したもう一人の俺と話してるうちに、 |
| ものの5分でそんな考えは消し飛んだ。 |
| 「もう、俺だって早く帰ってシャワー浴びてさっぱりして、イギリスのマズイ手料理でも食べたいよ。 |
| さっきから言ってるけどさ……こうして俺の隣で文句言うくらいなら、ひとっ走りスタンドでも探して、車回してきてよ」 |
| 「イーヤ!こんな荒野のど真ん中でセクシーでキュートな女の一人歩きだなんて、間違いなく襲われて犯されるわ」 |
| 「君なら大丈夫だろ……この国で『アメリカ』を襲う勇気のある奴なんているもんか」 |
| 「あー、髪がバッサバサ。もう、イギリスに嫌われたら、どうしてくれんのよ」 |
| 「聞きなよ、人の話を!」 |
| ハーレーのバックミラーに自分の顔を映して、アメリカは自慢のブロンドをかきあげて小さく桜色の唇を尖らせる。 |
| さっきからこんな具合に、彼女とは全然話がかみ合わない。もう考えるだけ無駄だから、もういい。ほんとに。 |
| それよりも……暑い。ここは地獄なんじゃないかってくらい、暑っつい。 |
| 絶対これ、タンクトップ焼けしてる……もう、全部脱ごうかな……。 |
| ぐい、とグローブを嵌めた左手で、額に浮き出る汗を拭って、再度ハンドルを握って前に押す。 |
| 本当によりによってどうして、ハーレーなんかで来ちゃったんだろう。 |
| 1500ccを越えるモンスターバイクは俺でも結構押すのが大変で、せめて彼女が後ろから押してくれたら、楽なのに。 |
| 女性だと言ったって、彼女も俺と同じアメリカだ。見た目は俺と違ってだいぶ細いけど、力が弱い訳はない。 |
| サングラスを外して、じとりと睨む。 |
| 彼女は「何よ」と俺と全く同じ色の青い目をこちらに向けて、小さく睨んだ。 |
| 「別に……ねぇ、この間、そっちのイギリスが俺の所に来たんだけど、何か喧嘩でもしたの」 |
| 「イギリスが?してないわよ」 |
| 「浮気してるって。君が」 |
| 「ばかじゃないの」 |
| つん、とブロンド女性は唇を尖らせて、そっぽを向く。 |
| 少し煤に汚れた桃色の頬、俺と同じように、日焼けして火照ってるんだろう赤くなった肩が、少し痛そう。 |
| 「だって、そう言ってたぞ」、よいしょ、とハンドルを直しながら赤く焼けた土を踏み直したら、 |
| 彼女は「してないってば」とこちらを向いた。 |
| ※ |
| 『アメリカ』が二人居るのと同じく、実は『イギリス』も、二人居る。 |
| ご存知、アーサーと呼ばれる男のイギリスとはまた別に、あちらも同じく、女性のイギリス。 |
| 男のイギリスと同じ色の瞳、肌の色、薔薇と紅茶の匂いに、少し癖のある金色の髪。 |
| 長い髪をツインテールにした眼鏡の彼女は、隣に居る女のアメリカの恋人だ。 |
| ちなみに、俺の恋人は、男のイギリス。 |
| 二人して、何も同じ国を恋人にしなくても……しかも、同性。お互い、やっぱり好みっていうのは同じなんだろうか。 |
| 女性のイギリスは、男のイギリスと同じく結構面倒くさい人で、よく泣いては怒って、隣のアメリカを困らせてる。らしい。 |
| 女の子なんて一人でも色々複雑なのに、二人で恋愛なんてしたらそれこそ色々、面倒くさ……いやいや、大変そうだ。 |
| 「フツーに、友達誘ってクラブに飲みに行っただけよ。何でそれが浮気になるのか、訳わかんない」 |
| 「イギリスも誘ってもらいたかったんだろ」 |
| 「イヤよ。あの人、お酒飲むと前後不覚になって脱ぎだすんだもの。あたし以外の前で、冗談じゃない」 |
| 「その辺は男のイギリスと同じだなぁ……」 |
| 先週の夜中に、突然俺と男のイギリスが住んでるアパートにやってきた、 |
| ツインテールがトレードマークの、女性のイギリス。 |
| まさに着のみ着のままという状態の、いちご柄のパジャマ姿の女性が、どうして俺のアパートに。 |
| 『……君、イギリスだろ?こんな時間に、どうしたんだい』 |
| そう、項垂れる彼女に尋ねてみたら、女性のイギリスは緑色の瞳を真っ赤にして、 |
| 『アメリカが浮気してる』と言って、泣き出した。 |
| ちょうど、色々と恋人と真っ最中だった俺は、その時上半身素っ裸の状態で。 |
| わぁっと抱きつかれて泣かれて、あわあわしてるうちに寝室から出てきたイギリスに、 |
| 『オレとの関係は浮気だったのか!』と殴られて、その後誤解が解けるまでわめかれた。 |
| あの時、ほんとに大変だったんだぞ……そう隣のアメリカにぼやいたら、 |
| 彼女は長い爪を弄りながら「小指の爪、割れちゃった」と舌打ちした。 |
| ……ああもう、どうして女の子って、こう、人の話を聞かないんだろう。 |
| 話はよく飛ぶし、飛んでってはまたいつの間にか戻ってくるし。 |
| その後「ねぇ、赤と青どっちが似合うと思う?」なんて聞いてくる彼女に |
| 「今はイギリスの話なのか君のマニキュアの話なのか、教えてくれ」と頭を掻いた。 |
| 「君のところのイギリスはどんな人なのかよく知らないけどさ…… |
| 男のイギリスと同じタイプなら、あんまり隠し事はしない方がいいぞ」 |
| 「だって、言うと拗ねるんだもん」 |
| 「バレた時の面倒臭さに比べたら大した事ないだろ」 |
| 「あたしだって、あの人がアメリカの所に行ってたなんて知らなかったわよ」 |
| 「これ以上こっちのイギリスが妙な勘違いをしないうちに、早く仲直りしてくれよ……」 |
| 「だから、早く帰りたいの!」 |
| 「今こうして帰ってるだろ!重いバイクを俺が押して!」 |
| 現在、午後1時。太陽はちょうど真上に来て、きっと今が暑さのピーク。 |
| 額に滲む汗を拭って、俺はグローブを嵌めた手で青いハンドルをぐっと握って、焼けた地面に足を踏ん張る。 |
| 右のバックミラーにかかってる、彼女と色違いのブルーのヘルメットがゆらゆら揺れて、邪魔だと思う。 |
| せめて、メットくらい持ってくれよ。 |
| 両手が塞がってるので、そう言って目と口だけでお願いしたら、彼女はそれすら「いや」と、ぷいっとそっぽを向いた。 |
| ……何て可愛げのないアメリカなんだろう……もう一人の俺のくせに。まだ男の俺の方が可愛いぞ。 |
| オーバーに溜息をつくリアクションをして、俺は「だいたい、君が」と口を開いた。 |
| 「なによ」 |
| 「突然電話してきたと思ったら、グランドキャニオンに連れて行けなんて言うから」 |
| 「まさか、バイクで来るなんて思ってなかったわよ!」 |
| 「突然すぎるんだよ!車は今日イギリスが使うって言うし、君は電話口でハリーハリー煩いし」 |
| 「今日じゃなきゃ駄目だったんだもの」 |
| 「サングラス焼けするだのシートが硬いだの痛いだの揺れるだの、立ち寄るスタンドには片っ端から文句言うし…… |
| 挙句にこれだろ。俺は今日、君の足になる為に朝からイギリスの手を解いて来たんだぞ。 |
| 文句ばっかりで、お礼の一つでも言ったらどう?」 |
| 「……………………」 |
| 右肩をすくめて言ってやったら、彼女はきゅっと桃色の唇を結んで、黙ってしまった。 |
| 彼女たち女性っていうのは、自分に都合が悪くなると、直ぐ黙る。 |
| 黙るって言うのは、自分に非があると認めているようなものだ。 |
| 逆に自分たちが正しいと思っている時は、鬼の首を取った様に捲くし立てる。 |
| 本当に、厄介な人種だと思う。女性って。 |
| 「……ごめん」 |
| 「いいけどさ」 |
| …………まだ、このアメリカは、こうして謝ってくれるからいいものの。 |
| きっと女性のイギリスっていうのは、絶対に絶対に、自分から謝ったりしないんだろうな……。 |
| 男のイギリスでさえ、ああだ。想像できる。このアメリカと、女性のイギリスの、口喧嘩。 |
| 「……仲直りのきっかけが、欲しかったのよ」 |
| 「グランドキャニオンで?」 |
| 「あの人、インディアンが加工したターコイズが欲しいって、ずっと言ってたから」 |
| 「……わざわざそれを買う為に、君は俺を呼んだのかい……」 |
| 今じゃインターネットやら売店やらで、売ってるだろそんなもの……。 |
| 重い重いバイクを引き摺りながら、俺は心の中で本日何回目かの息を吐く。 |
| 「悪かったわよ」とこちらを見るアメリカに、「いいよ」と言って、俺はロードキングのハンドルを握りなおした。 |
| 気持ちは、わかる。 |
| 俺もイギリスの事をとやかく言えないくらいに、意地っ張りで、なかなか素直になれないから。 |
| 自分に非があると思っていても、いや、あんまり思わない事も原因の一つだと思うんだけど、素直にごめんとも言えないし。 |
| 何かをきっかけにして、口実にして、さらりと「あの時はごめん」と言って、出来れば早く、仲直りしたいとはいつも思ってる。 |
| もう一人の俺である彼女もきっと俺とよく似てて、不器用なんだろう。イギリスも。 |
| それ?と、彼女の細い首に掛かってる青い石を見て尋ねたら、もう一人の俺であるアメリカは、 |
| 「うん」と嬉しそうにそれを掲げた。 |
| 「お揃いで、ネックレスにして貰ったの。イギリスに渡す前に、あたしの首に掛けておこうと思って」 |
| 「似合ってるよ。俺も、イギリスに何か買ってくれば良かったな……」 |
| 「石なら他にも買ってきたわよ。指輪にでも加工すれば?」 |
| 「……指輪?いいよ、何か重たいし」 |
| 「喜ぶと思うけど」 |
| 「そうかな」 |
| 青い目を細めて笑う顔は、やっぱり俺に良く似てる。 |
| ボブカットになってる贅沢なブロンド、同じ色の長い睫毛、健康的に焼けた細い首は、全く俺とは違うけど。 |
| 砂埃でばさばさになった前髪をかきあげて、女のアメリカは嵌めてるグローブで俺の額の汗を拭う。 |
| サンクス、いい加減ぜいぜいと上がってきた息を隠して言ったら、彼女は「手伝うわ」と笑って、 |
| 反対のハンドルを握って、力を入れた。 |